荘厳な装丁の施されたその部屋には、微々たる雑音すら響かない。
静寂の中に現れたのは、男の足音だった。
かなり歳がいっていようか、威厳と品格の権化ともいえる男の威容に、殊に視線の宛てられるのは、腰辺りに据えられた老樹の杖だった。
私含むこの場の全員は、一層畏まった様相へ体を強張らせ、立ち止まった其の者に礼する。
老齢らしき男の口が開かれる。
内容は至って普遍的、時節の挨拶から始まった。
「――さて、今日から諸君は高等生だ。我が、栄えある王立学園アークトゥルスの名に恥じぬよう、精進してくれたまえ」
そう閉じられた学園長の言葉に、また礼が発する。
ややあって、式は閉じた。
◇
「はあ〜。立ちっぱなしで腰が痛いよー、レイ」
学園の植物園に声が響いた。私の名を発したのは、親友のメイ…メルト=ローマンだ。(自分で親友というのは違和感もあるが)
「老人じゃないんだから…気持ちは分かるけど」そう返し、目の前の花を眺める。
素朴な木製の机に突っ伏し、腕を伸ばしながら愚痴をいう姿を見ると、先程まで格式ある入学式に参加していたとは思えない。
閉式の後、私達は数刻の間、自由時間となった。
先輩方は平常授業なのだから、高等部の校舎に慣れさせる目的もあるのだろう。私達2人は、その時間を怠惰に費やしているわけだが。
「てか、ロウズ学園長って、怖くない?」
学園長というと、先の挨拶の人か。人の名前を覚えるのは苦手だ。
「そう?私はかっこいいと思うけど。ほら、知性ある賢老って感じで」
「ええ…怖さは置いといて、かっこいいは無いでしょ。趣味悪」
それはないだろう。いや別に趣味でもないし。
「面食いのメイに、趣味の悪さを説かれたくはないね」
「はあ!?面食いじゃないし!」
「きゃー。ヒスは怖いな〜」
「殴っていい?」
◇
色々あって高等部入学三日目になった。”色々”が何かと聞かれれば…まあ特に何もなかったが。既に通常授業へと突入した。
クラス分けも済んでいる。そう、そのクラス分けについてだ。
高等部は義務教育でないという理由で、なんということか、クラス分けは”成績区分”だ。
私のような優等生にとっては、優越感に浸れるこの上ない制度なのだが、もしメイとクラスが分かれたら…。
まあ、問題を起こしてでもクラスを落とされればいいだけか。
ざっと聞いた感じ、A〜Eランクの9クラスに分かれるそうだ。各クラス50人らしい。
勿論、私はAクラス。さっき聞いたが、メイも同じAクラスらしい。
内心かなり浮ついているが、メイに弄られると面倒なので隠すことにしよう。
と、そうだ。今日は課外学習があるのだ。森林の植物の観察か…なんだったか。早く準備しなければ。
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