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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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私は生の世界に降りてから、胸の鼓動が高鳴っているのを自分でも感じていた。私がいた家に着いたときのわくわくは、それこそ例えようもないくらいだ。

家に入ってみると、廊下に父がいた。眼鏡をかけ、きりっとしたオーラを崩さない父は、私がいたころと変わらず背中が曲がってたりはしていない。

「わー、わわわ、どうしよう」ばたばたと慌ただしい音と同時に、姉のよく響く声が聞こえてきた。階段を勢いよく降りてきて、「メアリちゃんが、メアリちゃんが針で指切っちゃった、どうしよう」

「落ち着きなさい。絆創膏ならリビングの棚にある」父はそう言ってから、すぐに書斎に入ってしまった。

メアリ――彼女は私の妻だった。私が死んだころ、この家は父とメアリと私、そしてたまに帰ってくる独身の姉が偶然いた。

「えええ、絆創膏、どこだっけ……」

姉がリビングに行ったので、私もついて行った。棚といっても、この家には棚がたくさんある。姉はがちゃがちゃと棚の中を探りまわった。確かに、絆創膏は棚に常備してあるはずだが、姉には見つけ出す集中力が持たなかったのか、あきらめたように他の部屋に行ってしまった。階段の隣の部屋だ。

私はついていきながら、首を傾げた。あの部屋は誰も使っていなかったはずだ。

誰かいるのだろうか?

どうやらそのようで、姉は突っ込むように乱暴にその部屋の扉を開けた。

「ジェームズさああああん! 絆創膏持ってない⁉ メアリちゃんが血出しちゃって!」

私は、どうも何かが引っかかった。

ジェームズとは誰だろう?

姉の横に並ぶと、その部屋には知らない誰かがいた。背が高い男性で、目つきが鋭いところが、どこか父に似ていると私は感じた。

「絆創膏……」男性は読んでいた本をぱたん、と閉じた。

「ああ、ここにありますよ。メアリ、ケガしたんですか?」彼は机の引き出しから、絆創膏を一つ取り出し、姉に渡した。

メアリを呼び捨てにするとは――

彼は何者なんだ。

「そうなの針で指切っちゃって、ありがとっ、あっジェームズさんも来て!!」

転びそうになりながらも、姉は階段を上り、メアリの部屋に向かった。

私はそれどころではなかったが、絆創膏を持った男性も階段を上ったので、深呼吸しながらついていった。

メアリの部屋に一同が着いた。

「メアリ⁉ 開けるよおおおおっ」ノックはせずに、姉がドアを開ける。

椅子に腰かけていた私の最愛の女性は、大きな目をさらにぱちぱちさせて私たちを見た。

「……どうしたの、二人とも」

泣くということができるのは人間だけのようで、私はちっとも涙が流れなかったが、その場に立っているのも難しいくらいに感極まっていた。

メアリは、私が死んでなお、世界で一番美しかった。

男性は息を整えて、言った。

「はいこれ、絆創膏」

渡された絆創膏を、メアリはじっと見つめた。「え?」

「血、止まった!?」と姉がメアリに近づいた。

ああ、とメアリはにこやかに笑った。

私には、彼女が唯一の神にしか見えなかった。

「絆創膏あったから、もう自分で貼ったよ」

そう言って、細長く白い指を見せた。薬指には、絆創膏が巻き付いている。

「そうなの! よかったあああ」姉が胸に手を置き、深く深呼吸する。

「ああ……心配してくれたの? ありがとう」

そうほほ笑むメアリは白百合のようだった。

「大体、義姉さんも大げさなんですよ」男性が言った。

「あは、ごめんっ」

「いいのよ、ありがとうね二人とも」

メアリと彼――ジェームズは目を合わせ、優しい微笑みと抱擁を交わした。

ゆっくりと私は目を閉じる。

私はいつか忘れられてしまうのだろうか……

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