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私立ルルシス女学院に通う木原芽衣。
彼女はこの春、中等部を卒業して高等部に進学する。
西日本屈指のお嬢様学校である当校は、内部進学とは言え高水準な環境を維持するために極めて難しい試験を生徒に課す。
だいたい3割の生徒が不合格となり、学院を去る事になるのだとか。
その試験をチーム莉子のダメな先輩たちのように「探索員としての実績」を使わずに、実力でクリアして見せたのが芽衣ちゃま。
彼女は努力家であり、また努力する事を苦にしない乙女。
「みみっ。ちょっと恥ずかしいです。おじ様、おば様。変じゃないです?」
高等部の制服に袖を通した芽衣は、下宿先の遠藤夫妻に感想を求めていた。
これから3年間も引き続き遠藤家にお世話になる芽衣は、愛すべき家族にまず晴れ姿を見せる事にしたのである。
「いやぁ! とてもよく似合っているよ! そうかぁ、芽衣ちゃんも高校生かぁ」
「なに涙ぐんでるんですか、あなた! おめでたい事なんだから、しんみりするのは変でしょう? ねぇ、芽衣ちゃん。ごめんねぇ、おじさん嬉しいのよぉ」
「みみっ! 芽衣も嬉しいです!! おじ様、おば様! これからもよろしくお願いしますです! みみみっ!!」
子供のいない遠藤夫妻は、芽衣と記念写真を撮った。
3人にとって、この1枚の写真はいつ、どのタイミングで振り返ってもステキな思い出となって輝き続けるだろう。
「いやー! 本当にいい写真が撮れましたねー!! すみませんね、僕までご馳走になってしまって! へへっ、お母さんは料理が上手なんですから! 芽衣が羨ましいなぁ! いやもう、本当に! 僕もこの家の子になろうかなぁ! へへっ!」
こいつ、小坂家だけに飽き足らず。テリトリーを広げおった。
「嫌ですよぉ、逆神くん。大したものを作ってあげられなくてごめんなさいねぇ」
「それにしても、逆神くんはその年で探索員かぁ! 芽衣ちゃんの師匠だって言うし、すごいんだなぁ!!」
ここで、逆神家と芽衣の下宿先の遠藤家の位置関係についておさらいをしておこう。
両家とも御滝市にあり、逆神家からここまでは車で45分ほどの距離がある。
六駆おじさんにとっては、散歩レベルの距離である。
しかも、今回は芽衣に乞われてやって来たと言うのだから始末が悪い。
六駆に「弟子の頼みじゃ断れないよ、へへっ」と言う口実を与えてしまっていた。
「みみみっ。六駆師匠、せっかくの春休みなのにごめんなさいです。莉子さんと約束があったりしなかったです?」
「莉子はね、昨日から田舎のおばあちゃんの家に行ってるんだよ! おかげでご飯どうしようかって悩んでてね! いやー! 渡りに船だったよ!!」
独りで泥の船に乗って沈めばいいのに。
「みみっ。良かったです。じゃあ、おじ様、おば様。ちょっとお友達にこの制服を見せてくるです! みみみっ!!」
「晩ごはんまでには戻りますからね! ちなみにメニューはなんですか? えっ!? お寿司!? うひょー! ふぅぅぅんっ!! 『門』!!」
六駆の出した門の中に消えていく芽衣。
彼女を見送った遠藤夫妻は、しみじみと語り合った。
「芽衣ちゃんにもあんなに頼れる先輩がいたとはなぁ。これまでは探索員の仕事が入る度に心配して送り出していたけど」
「ええ。これからは少し安心して見送れますねぇ。遠いところから芽衣ちゃんのためだけに来てくれるなんて、若いのに感心な男の子ですよ」
おじ様。おば様。
しっかりしてください。
◆◇◆◇◆◇◆◇
芽衣を連れて門をくぐった先は、当然。
「みみみみぃっ!! ファニちゃんさん! 芽衣、来たです!! みみみみみっ!!」
「おお! 芽衣なのじゃ! いつもと違う服なのじゃ! それが言うておった、高等部とやらの制服なのじゃな!?」
ミンスティラリア魔王城である。
芽衣はファニコラと「高校の制服が届いたら見せに来るです!」と約束をしていた。
ルルシス学院は中等部と高等部で制服が変わる。
全体的なデザインは似ているが、ブレザーのネクタイの色が紺色になり、スカートの丈も短くなる。
「みみみっ! 似合ってるです?」
「とてもよく似合っておるのじゃ!! 六駆殿! 写真を撮ってたもれ!! お願いじゃ!!」
六駆はスマホを取り出して「お安い御用だよ」と応じた。
彼はついにスマートフォンをスマートに使えるレベルまで現世の記憶を取り戻すに至り、今では独りでマクドナルドのバリューセットも注文できるし、乗り換えのない目的地までなら電車にも乗れる。
「シミリートさん! スマホの画像ってプリントできます?」
「くくくっ。既に現世のスマホの情報は解析済みなのだよ。英雄殿。頼まれるまでもなく、用意はできている。ここにスマホを置くだけで良い」
近代化の進むミンスティラリア。
元から科学は現世より発展していたので、これを近代化と呼んで良いのかは分からない。
現世化とでも言えば良いのだろうか。
「六駆殿ぉ! グアル草のスープがござますが!?」
「ダズモンガーくん。ごめんね。今日はスープ、いらないんだ。お寿司食べないといけないからさ。むしろお腹空かせたいから、今から修練場に行こうか! ちょっと僕が魔王軍のみんなをしごいてあげるよ!!」
この瞬間、テレパシーの使える兵士たちが一斉に城の外へと飛び出した。
「いや、六駆殿! お、お気持ちだけで充分ですぞ! 本当に! お召し物が汚れてはいけませんゆえ!!」
「あっはっは! 僕の服に汚れをつけられたら大したものだよ! さあ、ダズモンガーくん! 遠慮しないで良いから、稽古をつけてあげよう!!」
トラの武人の悲痛な叫び声を聞いて、テレパシーの使えない兵士たちも城の外へと飛び出したらしい。
結局、ダズモンガーが独りで六駆の相手をする事になった。
「芽衣よ。高校生と言うのは、さぞかし楽しいのであろう?」
「みみっ? んー。まだ分からないです。勉強も難しくなるですし、お仕事と両立できるか不安もあるです。みみっ」
「そうなのか? クララは高校生活なんてボーナスステージじゃと申しておったが」
「みみっ。クララ先輩は特殊な訓練を受けている人だから、あまり参考にならないのです! みみみっ!」
ファニコラは少し言い辛そうに口を開いて、また閉じる。
その様子を察した芽衣は「みみっ」と言って、ファニコラに優しい声で語りかけた。
「ファニちゃんさん。芽衣、高校生になってもミンスティラリアにたくさん遊びに来たいです! いいです?」
ファニコラの表情がパァッと明るくなった。
「も、もちろんなのじゃ! 妾は芽衣となかなか会えなくなるかと思うと、めでたい事じゃと分かっておるのに心の底からお祝いを言えずにいたのじゃ。許してくれるか、芽衣?」
「みみみっ! 当然なのです! ファニちゃんさんは芽衣にとって親友です! いくつになっても、芽衣は遊びに来ちゃうのです! みみみぃっ!!」
嬉しそうにはしゃぐ2人の元へ、シミリートが歩み寄る。
「魔王様、芽衣殿。写真が仕上がったのですがね。どうぞ、お手に取られてみてはいかがか?」
そこには、満面の笑みで寄り添う2人の姿が写っており、この先何年、何十年経ってもきっとこの関係は壊れないと保証しているようだったと言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
午後7時。
遠藤家では、出前の特上寿司に舌鼓を打ち散らかす六駆の姿があった。
なお、六駆は福田弘道Aランク探索員と共謀して、木原監察官を春休み期間のほぼ全てに異世界とダンジョンのモンスター討伐の予定をギチギチに詰め込んで忙殺すると言うファインプレーをこなしている。
よって、今日はよそ様の家でお寿司を楽しむ権利が珍しくあるのかもしれない。
芽衣と遠藤夫妻の笑顔がその証拠かと思われた。
コメント
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みみっ、芽衣ちゃまの高校進学おめでとうございます!🌸 新しい制服姿を遠藤夫妻やファニちゃんさんに披露するシーン、ほんわかしました。特にファニちゃんさんが離れ離れになるのを寂しがってたのに「ずっと遊びに来るです!」って言った芽衣の優しさにじんわり。六駆師匠のスマホ上達とダズモンガーさんへの稽古も笑えた(笑)。ほっこり日常回、大好きです!