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ダダダダっと階段を駆け上がる音がしたかと思えば、勢い良くドアが開き何かがキルアの胸に飛込んだ。
「お兄ちゃん起きてる~?ねぇ早く、目玉焼き冷めちゃう」今日は私が作ったんだよ!と〝妹〟が誇らしげに笑った。
「見ての通り起きてるよ、分かったからお前は1階で待ってて。」はぁいと不満そうに答えるサヤに笑いかけ、妹が階段を降りる姿を無意識に見つめていた。俺がどんな気持ちで居ても、こいつが笑いかけてくれるだけで心が救われる。だが、
妹を誰かと重ね合わせてしまう自分がいる。
こんなに天真爛漫で優しい女の子はサヤの他に見た事がない、筈だ。
なのにぼんやりと、〝その子〟の姿が思い浮かんでくるのは何故だろう。
「「いただきま~す」」
ダイニングでサヤと焦げの着いた目玉焼きを頬張りながら、キッチンに居る〝お母さん〟に尋ねる。
「なぁ、夏休みっていつからだっけ」
フライパンとお玉を同時に持って料理をしながら、お母さんは忙しそうに答えた。
「まだずっと先よ〜キルア君の誕生日が過ぎた頃かしら。」
「ねぇ、私お兄ちゃんのプレゼントもう考えてるんだよ、楽しみにしててね~!」
俺の誕生日…思えば、俺がはっきり覚えてるのって自分の名前と誕生日くらいなんだよな。
俺はその日、なんの荷物も持たずに河原につっ立っていたらしい。そこが何処か以前に、自分がなぜここに居るのかすら分からない状態だったと。今になっては笑える話だけど、母さん達が見つけてくれなかったら結構やばい状態だったのかもな。こんなどこから来たかも分からないヤツを養ってくれて、学校まで行かせてくれてくれるなんて両親には感謝しかない。
記憶が無いからか、逆に新しい環境には上手く馴染めている気がする。14年分の想い出が無くなってしまったのは悲しいし自分に何か足りないものがある気もするが、どうしても記憶を取り戻したいとは思わない。ただ、夢の中の少年と妹に似た少女のことはずっと引っかかっていた。
「ご馳走様~行ってきます!」
「あ〜サヤの目玉焼き残してる~!!」
「ちょっと、キルア君弁当忘れてるよ?!」
2人に見送られ(?)ながら、キルアは勢い良く外へ飛び出した。家が学校の近くとはいえ、この時間に出ては普通の人では間に合わない距離だ。
「ちょっと失礼!!」
目を点にして立ち尽くす通行人の横を、銀髪の少年が風のように突っ切ってゆく。
「またお前か~?!!!もう閉めるぞ!」
遠くに見える校門に、扉を押えながら叫ぶ〝センセー〟が見える。
「おーっし本気出そ」
一瞬足を止めたかと思えば、次の瞬間には校門の中に立っていた。
「センセーおはよ〜ってまだ鐘鳴ってないじゃん。」
「…?!お、おう、、おはよう…」
「んじゃ。」
口をあんぐりと開けるセンセーをよそにキルアは校舎の中へと向かってゆく。
「今の見た??!」
「かっこいい♡…っていうかほんとに人間?…」
「今日こそあたし、声掛けてみようかな」
影でコソコソと話す女子に気づき、さりげなく手を振る。
「ガハッッッ?!?!♡」
キーンコーンカーンコーン
ホームルーム開始の鐘と共に、教室の中から椅子を引く音が微かに聞こえる。
「やっべ」
全速力で走ると、あっという間に自分のクラス【2年B組】に着いた。
ガラガラッッ!!!!!!バタンと耳を塞ぎたくなるような爆音を立て、教室の後ろドアを思い切りあける。
「おーいキルア遅刻だぞ〜あといっっっつも言ってるよな、髪を黒くしてこいってな。」
「しょうがないだろ急いでたんだから!あと俺もいっっっつも言ってるよな、これ地毛だって!!!!」
数秒睨み合いが続くと、渋々先生が折れた。
「分かった、どっちも認めよう。弁当を忘れるほど急いでたんだもんな。」
「…は?」
自分の手元を見ると、手提げバックが見当たらない。
(ちょっと、キルア君弁当忘れてるよ?!)
…あ、俺ってばドジ♡
クラス中が大爆笑に包まれる中、赤面しながら自分の席に着く。
「…〜昼飯無ぇ」
なんだかんだで午前の授業が終わり、昼休みになった。キルアはぐうぐうと鳴るお腹を押え、空腹に耐えていた。
(使わないと思って財布置いてきちゃったしな〜かと言って昼食抜きは死ぬ…)うーんと唸り、借りれそうな人がいないかとりあえず歩き回る事にした。まずは沢山人が集まっていそうな食堂から。
「お!キルアじゃん。お前何頼むん」
「あ、𓏸𓏸。俺財布忘れちゃってさ。何も買えな…」
「それは大変だな!俺も今金無くてさーちょっとでいいから貸してくんね?」
(持ってないって言ってるだろ!?話通じないゲームのbotかよ!!?)
話になんねーー
次は少し離れた所にある売店。レジにいるおばちゃんが色々と無理やり売り付けてくるので、ここはあまり人気がない。
「人少ないな…あ、お前!ちょっとお金貸してほしいんだけど。良いかな。」
「…利息、高く着くぜ☆」((
「はぁァァァ今日は昼飯抜きか…部活まで持つかなぁ」
結局借りれそうな人は見つからず、教室までの廊下をトボトボと歩いていた。女子からならいくらでも借りれるとは思うが、そんな事をしたら自分の株が下がる気がする。
教室に着いたらできるだけ体力を使わないように机に突っ伏そう…と考えていた時、前から見覚えのある子が近づいてくる。最初は気のせいかと思ったが、段々姿がはっきりと見えるようになってくるとそれは確信に変わった。
「……………ゴン?」
「!?」
自然と記憶の中から、〝その名前〟が浮かび上がった。
一瞬の沈黙の後、その子が口を開く。
「ゴンっ…て、誰のこと?人違いじゃない?」
〝その子〟は、静かに笑った。