今日は待ちに待った退院日!
1度家に帰りとびきりのオシャレをして家を飛び出す。目的地は勿論武装探偵社。
そこそこいい値段の日傘をさして鼻歌混じりに軽い足取りで探偵社へ向かう。
探偵社の入口が見えるだろう喫茶店へ入る。
うずまき、と言うらしい。珈琲とサンドウィッチを注文して外を見つめる。
……お昼頃、複数人が入店してきた。
非対称的な白い髪の青年。
眼鏡をかけた怖そうな男性。
紺の髪に白い髪飾りが良く似合う赤い和服の少女。
そして包帯を巻いている鳶色の瞳をした男性。
ピンと来た。彼だ。彼が私を助けてくれたのだ。
命の危機に瀕した私を……
「こんにちは、武装探偵社員の方々?」
席を立ち、注文を済ませた彼らに声を掛けた。
面々は不思議そうな顔をして此方へ目を向ける。
「私は以前地下鉄の爆発事故に巻き込まれ…探偵社に助けられた人間です」
胸元に手を当て柔らかく微笑んだ。
これで落ちただろう?
【蜃気楼の花】
ドキドキしているのか皆頬をほんのり染めて私に見とれた。
「嗚呼あの時の。無事で何よりです。」
包帯の彼が笑う。
なんなんだろう、この感覚は。
胸がキュッとなり目を真っ直ぐ見れない。
顔が熱いのが自分でもわかる。今自分はどんな顔をしているのだろう。
「えと、ん、とても感謝していて…… 」
視線が横へ流れてしまう。
自身の心拍の音が周りに聞こえてしまうのではと思うほどに大きな音を立てる。
言葉が出てこない、今までこんなことはなかったのだ。とても混乱している。
彼らは黙って私の言葉を待っている。早く、早く何か言わなくては
「おっ……お礼……とか……」
「礼なんて要らないよ、当然の事をしたまでだからね。」
包帯の彼は平常心を保っているように見える。
自分はこんなにも乱されているのに。
彼の細めた目は私の目の奥…全てを見透かしているかのように私を貫く。
「えと、っ、お名前…を、聞きたいです……」
吃ってしまったが何とか言葉を紡いだ。
「私は太宰、太宰治だ。 」
太宰と言うらしい。太宰と名乗る彼は他の3人を見渡す。紺色の髪の少女がハッとして幾度か瞬きし後泉鏡花と名乗った。
泉さんは白髪の少年の肩を叩くと彼も名を名乗る。
「僕は中島敦です!」
「俺は国木田独歩だ。」
それぞれの名前を聞いた。忘れないようにしよう。
国木田さんは眼鏡を直す仕草をしてから咳払いをした。
「あっ、一方的に聞くのは失礼でしたね。
私は[名前]と言います!」
「「名前」さん、太宰の言う通り武装探偵社はするべきことをした迄、礼はいりません。」
「ですが国木田…さん、私は」
「ご注文の品です〜!」
店員さんがお盆に彼らが頼んだであろうものを席に届けに来た。
お礼をしたいのだが受け取ってくれないらしい。
どうしようか、ここで彼と話せるチャンスを逃すのは惜しい。
頭が真っ白になってしまい何もいい案が浮かばない。
どうにか、どうにか彼と関係を繋いで居たい。
そんな願いは虚しく…これ以上居るのは不自然かつ迷惑になると判断して自分の席に戻った_。
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