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※ご本人様には一切関係ありません
※続きました
※n番煎じのSub dropのお話
※暴力表現や暗めの表現あり、注意!
※なんでも許せる方向けです!
めんside
衝撃の事件が発生してからしばらく経ち、俺も簡単なCommandに慣れてきた頃、それは起こった。
六人で行くプチ社員旅行。自由時間、俺はいつものようにふらふらと一人で気の向くままに散歩していた。
自由を尊重してくれる彼らは、特に連れを付けるでもなく、Colorを付けるでもなく、本当に今まで通り接してくれていた。
そろそろ集合時間か、そう思い踵を返そうとした時。
「おーい、そこの兄ちゃん」
見知らぬ男たちから声をかけられ足が止まる。
『……なんすか』
不機嫌が声に滲んでいたのか、相手の男の空気が変わったのを肌で感じた。
そう、比喩ではなく〈感じて〉しまった。
〈Kneel〉
足から力が抜ける。俺は今、何をされた?
「Domじゃねーとは思ったけどSubじゃん!ラッキー!w」
「おい、ちょっと付き合えよ。〈Come〉」
ふらり、足が勝手に動き出す。
脳が駄目だとけたたましく警鐘を鳴らす。
いやだ、行きたくない。それなのに身体はCommandに従ってしまう。
グッと噛み締めた唇から血の味がする。
「あ?こいつColor着いてねぇじゃん。ご主人様いねぇの?」
「なら尚更ちょうどいいだろ、行こうぜ」
普段なら力ずくで振り払えるような細腕が俺を掴む。
『……ッ!は、なせ……ッ!』
振りほどけないならとその腕を力いっぱいに噛む。
「!?……ってぇなこの!!!!」
頭めがけて飛んできた拳をよけることができず、目の前がチカチカする。
気づけば俺は知らない部屋に横倒しになっていた。
「やっと起きたかよ。っクソ、思いっきり噛みやがって」
目の前には男が二人。恐らく先程のCommandからDomであることは確実だろう。
必死になって情報を得ようと目線だけ動かす。
「〈Look〉、ここには誰も来ねぇよ」
「さっさとやろうぜ。〈Strip〉」
立て続けに告げられる同意のないCommand。
拒絶すればするほど視界が滲む。殴られた頭はもう何が原因で痛んでいるのか分からない。
「チッ、めんどくせぇ。おらッ、さっさと脱げっつってんだよ!」
「お、ハサミあんじゃん!……〈Stay〉、肌まで切られたくなきゃ動くなよ」
じょきりと服を着る音が響く。
俺の精神はもう限界に近かった。
素直に従えば解放される?
痛みや苦しみをこれ以上重ねなくて済む?
そんな気持ちが頭を過ぎる。
『……ぁ、』
言葉を発しようとした瞬間、強引に扉を開く音と、眩い光に目を閉じる。
「っめん!!!!!!」
知っている声、安心する声。
おんりーだ。
助けに来てくれた、良かった、安心とともに俺は絶望した。
今俺は、こんなヤツらに身体を許そうとしたのか?
瞬間俺の顔から血の気が引く。
いやだ。見ないでくれ。
『っぁ、ごめ、ごめ、なさ、』
こんなに汚い俺を、見ないで。
『いゃ、だ……』
思考が真っ黒に染まる。
暗闇に落ちる寸前に見えたおんりーの顔は、今までに見た事のないような怒気を孕んでいた気がした。
おんりーside
めんが戻ってこない。
社員旅行の自由時間、誰かがそう呟いた。
またいつもの散歩かとラインを入れるも既読がつかない。
通話に切りかえると、電波の届かない場所にいると抑揚のない電子音が聞こえ場の雰囲気が凍りつく。
この辺りに電波の届かないような場所はない。
あるとすれば、ここから相当離れた場所か、はたまた地元の人間しか知らないような場所か。
なんにせよ、なにかしら事件に巻き込まれているのは間違いない。
先日発覚したダイナミクスの件も相まって、俺の焦りは相当だった。
「みんなで手分けして探そう」
ドズさんが指揮を執る。
しかし俺は何かあってからでは遅いとめんには内緒で荷物にGPSを仕掛けたのだ、居場所は確認すれば大体わかる。
『この辺りで電波が届かないのは、恐らくこの建物周辺くらいです』
GPSの存在は隠してそう告げる。
ドズさんとぼんさんは何かを察したような表情を浮かべたが、特に何も言わずに向かうことに了承してくれた。
到着した建物はこじんまりとした古い倉庫のようで、扉は所々錆び付いている。
「〜〜!」
「〜〜〜」
中から声がする。間違いない、めんはここにいる。
「僕が開けるよ」
ドズさんが強引に扉をこじ開ける。
ガタン!と大きな音を立てて開かれた扉の中には、見知らぬ二人の男と、頭から血を流し虚ろな目でこちらを見つめるめんがいた。
『!!めん!!』
気づいたら駆け出していた。
ぶわりと背中越しにGlareを感じる。
ドズさんだ。
気圧されたのか男ふたりが怯む。その隙にめんに駆け寄った。
目を見開いためんは、一瞬安堵の表情を浮かべたあと、その表情を無くした。
「めん、大丈夫、めん」
落ち着かせようと背中をさすっても、うわ言のようにぶつぶつとなにか呟いたままこちらを見てくれない。
dropしかけている。
直感でそう感じた。このタイミングでのCommandは悪手でしかない。
「……ごめ……ゃだ……」
めんの意識が落ちる。俺の腕の中で死んだように眠る姿に、俺の中の何かがパチンと弾けた。
「っくそ、なんだってんだよ……!」
Glareで怯んだ男達がこちらにハサミを向ける。
「っおい、おま『うるさい。二度とその口を開くな』ぐ、ぅ……ッ!」
二人からのGlareに耐えきれず男たちが膝を折る。
「こいつらは僕が何とかするから、おんりーはめんをお願い。ぼんさんはおらふくんについててあげて、猫おじは僕と一緒に捕まえるの手伝ってください」
「わかりました。お願いします」
「はいよ、任しといて」
「すんません……!代わりにできることやっときます! 」
「了解」
冷静な言動とは裏腹に、俺もドズさんもDefense状態に入っている。SwitchとはいえSubに近いおらふくんにはきついだろう。
あとのことはみんなに任せてめんに向き合う。
めん、おきて、おねがい。
「かえってきて……!」
めんside
俺は今、どこにいるのだろうか。
暗くて、寒い。自分が目を開けているのかすら分からない空間に悪寒が走る。
見知らぬ男に手を出され、おんりーたちがきて、それで?
思い出そうとすると酷い頭痛が襲う。
思い出したい。思い出したくない。
もういやだ。
思考を投げ出そうとした。
〈めん、お願い、いかないで〉
遠くから、祈りに近い声がする。
誰の声だったろう。安心して、優しくて、それで……。
先程まで真っ黒だった空間に淡い黄色の玉が浮かんでいる。
それはまるでこちらを誘うようにふよふよと漂い道を照らしていた。
ひたひたと何も無い道をついて行けば、光の玉はぴたりと動きを止める。
(……触れられる)
手を伸ばして触れたそれは仄かに暖かく、冷えきった身体を温めてくれる。
〈帰って来て、めん〉
そうだ、帰らなくては。
みんなの所へ、俺の居場所へ。
ぶわり。
光が目前をキラキラと照らす。
思わず目を瞑った。
……ん、めん!
呼んでいる。
ねぇ!めんってば!!!
優しい彼の声に、応えなくては。
おんりーside
相変わらず目を覚まさないめん。
俺はひたすら呼びかけ続ける。
いかないで、帰ってきて。
『めんってば……!!!』
「……おんり、ちゃん、」
気だるげに目が開く。
その目はまだ虚ろだが、しっかりとこちらを見てくれている。
『めん、めん、俺だよ。おんりーだよ。』
少しずつ意識が定着してきたのか、俺を見つめる視線がハッキリとしてくる。
『良かった……っ!!』
思わずめんを抱きしめる。もうどこにも行かないように、俺の中に閉じ込めるように。
「ふは、おんりーちゃん、ないてる」
ぽんぽんと背中を叩く大きな手に、一度意識したら止まらない涙が溢れ出す。
『だっで!めんが!』
「うん」
『も、がえっでこない、かと、』
「かえってきたよ」
『ほんとに、よかった……!』
泣きじゃくるおんりーなんて初めて見たなと少し現実逃避のような思考に浸る。
辺りを見回せば、ドズさんと猫おじは気絶した男達を縛り、ぼんさんとおらふくんは安堵の表情を浮かべながら諸々の連絡を始めていた。
『……ねぇ、めん』
「なに?」
『ケアのためにCommandを使っても大丈夫?』
「……多分」
正直、先程のこともあり少し怖い。
それでも、おんりーならきっと大丈夫だと深緑の瞳を見つめる。
『〈Good〉、いい子だね』
優しく甘いCommandに、脳が痺れていく。
先程までの不安が嘘のように充足感に包まれる。
『何して欲しい?〈Say〉、教えて?』
「っあ、おんり、ぎゅってして、そばにいて」
普段なら絶対に言わないような単語がスラスラ口からこぼれ落ちる。
おんりーは満足そうに微笑んで俺を抱きしめる。あたたかい。
『〈Good〉、よく言えたね、可愛い。幾らでもしてあげる。』
こんなガタイの男に可愛いなんてと思いながら、満更でもない俺がいる。
しばらくそうしてCareを受けていると、遠くの方からサイレンの音が聞こえてきた。
「警察呼んどきましたんで!とりあえず続きのケアはみんなで旅館でゆっくりやりましょ!」
……笑顔なはずのおらふくんがどう見ても笑顔じゃないんだが?
よく見れば、他のみんなも似たような表情をこさえている。
『めん』
「……ッス」
『これまで我慢してたけど、帰ったら覚悟してね?』
ドロドロに甘やかしてあげると笑うおんりーとメンバーに、本当に言葉通りドロドロに溶かされた俺が後日一線を超えるのは、また別のお話ということで。
陥落まであと少し