テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
翌朝、
「ママ、おにーちゃん!」
先に目を覚ました詩音の声に和葉はゆっくりと目を開けた。
まだ少し眠気の残る目で隣を見ると湊は昨夜の疲れが残っているのか、ぐっすりと眠っている。
「詩音、お兄ちゃんは疲れてるんだから起こしちゃ駄目よ」
小声で詩音をたしなめると和葉はそっと詩音の手を取った。
二人でベッドから降り、湊を起こさないよう静かに寝室を出る。
ソファーに座った詩音がふと思い出したように和葉を見上げた。
「ねぇねぇママ。きょうもおでかけするの?」
「今日はもうお家に帰るだけよ。ここにお泊まりしたのは天気が悪くて危なかったからだもの」
「なんだぁ、そっかぁ……」
今日もどこかへ遊びに行けると思っていたらしい詩音は見るからに残念そうに肩を落とす。
そんな詩音の様子に和葉が苦笑していると、
「早いな、二人とも」
背後から声が聞こえた。
振り返ると湊が寝室から出てくるところだった。
「あ、ごめんなさい。起こしちゃった?」
「いや。自然に目が覚めただけだ」
そう答えた湊はまだ少し眠そうではあるものの比較的すっきりした表情をしていた。
「そっか。それなら良かった。あ、コーヒー飲む?」
「ありがとう。貰うよ」
「分かった」
和葉がコーヒーを淹れ始めると、詩音がトコトコ近付いて行く。
「ママ、しおんもなにかのむ!」
「詩音は冷蔵庫にりんごジュースがあるから、それ飲んでいいよ」
「はーい!」
りんごジュースがあると分かった途端、詩音は嬉しそうに冷蔵庫へ駆けていく。
その姿を微笑ましそうに見送りながら和葉は淹れたばかりのコーヒーをカップへ注いだ。
「はい」
「ありがとう」
湊にカップを手渡すと湊の隣を陣取る詩音の隣に腰を下ろす和葉。
「おいしーね!」
詩音がりんごジュースを飲みながら満足そうに言うと和葉と湊は笑って頷いた。
「そうね」
「そうだな」
そんなゆったりとした時間が流れていく中、湊がふと詩音へ視線を向けた。
「詩音ちゃん」
「なぁに?」
「今日はどこに行きたい?」
「え?」
思いがけない問い掛けに詩音がぱちぱちと目を瞬かせる。
「ママがきょうはもうおうちにかえるって」
「折角だし、行けるところなら連れて行ってあげるよ」
「ほんと!?」
途端に詩音の表情がぱっと明るくなる。
「湊さん、今日もなんて悪いわ……」
「良いんだよ。それに、今日は俺たちがもう一度付き合った記念日になるんだ。そんな日に帰るだけなんてつまらないだろ?」
「…………っ」
「さてと、どこにしようか?」
「うーん、いきたいとこたくさんある!」
「沢山か? けど、今日はどれか一つだな」
「えっとねぇ……」
嬉しそうに考え始める詩音と湊を眺めながら和葉は思う。
付き合うと決めた以上、過去に別れた理由も含めてしっかり向き合わなきゃと。
鷹槻れん

54,628
鷹槻れん

27,288
猫塚ルイ

2,437
宇津Q
2,658
コメント
1件
みぅです🤍🥀 このエピソード、朝の静かな空気感がすごく伝わってきて、ほっこりしました。詩音ちゃんの「りんごジュース!」って嬉しそうなところとか、湊さんが「今日は俺たちがもう一度付き合った記念日」って自然に言っちゃうところ、じんわり来ましたね…。和葉さんが「過去に別れた理由も向き合わなきゃ」って思う締めも、重くならないけどちゃんと覚悟があって好きです。続き、気になります🌙