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「最後なのに、雨、ですか、笑」
「____ドスくん!」
いつか、忘れてしまうのだろうか。
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その日の天気は生憎の雨。
窓の外を眺めていても面白いものなどなかった。
前からはカリカリッと言う黒板を走るチョークの音。外からは梅雨の時期特有の雨音。
チョークの音と雨音が重なりどうも落ち着かない。
雨の日はいつも自分を可笑しくしてしまうから嫌いだった。
雨の日だけ思う、その気がかりなことが何なのか分からず、
何かを忘れているような、そんな感覚に陥る。
思い出せないその何かに苛立ち、机に突っ伏す。
雨の日はどうも憂鬱だ。
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今日の天気は、あの日を思い出させる雨。
あの子が又、あまり面白くなさそうに窓の外を眺めている。
窓の外からはあの日と同じ雨音が響いている。
前から聞こえる教師の話など自分の耳には届かず、
ただ、最後のエンドロールを思い返す雨音と、外を眺めるあの子の綺麗な横顔に視線を奪われていた。
雨の日はあの日思い返してしまう。
あの子は覚えていない、昔々の記憶。
あの、雨の日のこと。
机に突っ伏しているあの子の横顔を眺めながら、雨の日は毎回こう思う。
思い出してくれないかな、
と。
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今日は傘を持ってきていなかった。
本当に雨の日はついてない。
「はぁ、(どうしよう、)」
雨が止むまで待ってるしかない。いつ止むかわからないが。
「やぁ、フョードル。」
「あぁ、ニコライさん。」
この方はニコライ・ゴーゴリ。
クラスの中心的な存在で光側の人間。つまり陽キャと言うやつだ。
「傘、忘れたの?」
「ええ、なので止むまで待っていようと、」
「今日は夜まで雨の予報だったけど」
「…」
「私、傘持ってるよ?」
それは一緒の傘で帰ろうという事か。絶対に嫌だけど、仕方あるまい。学校で一泊するより、こいつと一緒に帰るほうがマシだ。
「、お願いします…」
「うん、いいよ~!」
嗚呼、本当に、雨の日は憂鬱だ。
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「_________それでね~、」
「そうですか。」
「あ!そういえば____」
、、、この人はずっと喋っていて疲れないのだろうか。
こっちは一緒に帰るというだけでも憂鬱なのに。
「ねぇ、フョードル」
「なんですか?」
「フョードルはさ、雨の日って好き?」
「嫌いですね」
「、どうして?」
「雨の日は窓の外を眺めていても面白いことなど何もありませんしね。」
「それに雨の音を聞くとどうも落ち着きません。」
「何かが無くて、それを思い出せなくて、むず痒いと言うか、」
「とにかく、憂鬱になるんです。」
ていうか、なぜこんな人に自分の事を話してしまう。変な事喋って言いふらされても困るし、
長い付き合いでも、無い….
「その、思い出せない何か。」
「思い出させてあげようか?」
「は、」
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「何かが無くて、それを思い出せなくて、むず痒いと言うか、」
「、!」
ねえ、それって、期待してもいいの?
今まで君が忘れていたこと、遠い昔の事、君と一緒に居られるんだったら思い出さなくても、このままでもいいと思った。
でもさ、本当は、
思い出してほしいよ。
忘れないでほしかった。思い出して欲しかった。君と築いた、僕がまだ道化師だった頃の昔話。
「ねえ、その思い出せない何か。」
君と僕で創った、悲劇の物語。
「思い出させてあげようか?」
また、あの日々と同じように。
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「何を、言っているんですか、?」
「貴方に、この気持ちがどうにかなると?」
自分の事を何も知らない、知るはずがない相手に勝手なことを言われ、少々腹が立つ。
そのとき、ゴーゴリが持っていた傘は手からすり抜けていた。
「意味がわからないんですよ、貴方といると、もっと憂鬱になる。」
髪から雫が落ちた。
自分が濡れていることなど如何でもよく、ただ、このよく分からない気持ちを彼にぶつける。
「なんで、なんで、思い出せないんですか、!」
「何かを忘れている、そんな事は分かってた!でも、思い出せない、そんな自分にムカついて、貴方といるともっと忘れていきそうで、」
「____ドスくん。」
「、!!」
「私の唯一の理解者は君だよ。」
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「私の唯一の理解者であり親友だからね!」
「だからこそ!君を殺したいんだ!」
____あぁ、
「本当の自由を手に入れるんだ!」
「!ドスくん、なんで、!」
____そういうことですか、
「これじゃあ、自由になんて、慣れないよ、」
「私は、道化師失格だね、笑」
____貴方は、
「ドスくん、!まだ、駄目だよ、!!」
「おや、何故ですか?僕の死を望んだのは貴方でしょう、?」
「まだ、まだ、終わってない、!」
「君とやりたいことまだ沢山あるんだ!」
「それに、やっぱり、」
「君には死んでほしくない、!」
「ずっと、一緒にいて欲しいんだ!」
「笑、そうですか、ですが残念ですね。」
「もうあまり、聞こえなくなってきました、」
「ッ、!!」
「大丈夫ですよ、もう潮時だとは思ってましたし、」
「嫌だ!嫌だよ、!」
「これは、私と貴方への罰です。」
「それが今日だったのでしょう」
「待って、待ってよ、」
「、、雨音が響いてますね。」
「へ、」
その時初めて、雨が降っていることに気がついた。
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「ニコライ、貴方….」
「…まだ、止みそうにないね。」
「は、?」
「あのときの返事。」
「ねえ、ドスくん。」
「!」
「久しぶり。」
「、ええ、お久しぶりですね、ゴーゴリさん。」
「ドスくん、また一緒に居てくれる?」
「…雨が止みませんね。」
たまには雨の日も、悪くはないかな。
頬に雫が伝わった、これはきっと、雨なのだろう。