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旧彗朔

41 - 第5章 ミュータント 6話 足りないもの

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2025年06月09日

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_天邪鬼 side


母親からやっとこの世界に出てきて、一番最初に浴びせられた言葉はそりゃ感謝や歓喜だっただろう。

数年経って、人間にしちゃ早すぎる意思を持った時にはもう、そんな両親は居なかった。そんな記憶だけが脳を支配している。ボクの両親は二人揃って良い大学を出て、大した恋愛感情を持たずに自分の損得だけで結婚した。父親は1秒で膨大な数の数式を組み立て、脳内の辞書を引き、そして巧みに言葉を織りなす能力。母親は一度見聞きしたことを忘れない能力。父は弁護士、母は大きな病院の医院長だった。彼らの能力を継承するために生まれた生命体。彼らの完璧としか言いようがない血を後世に残すための生命体。それがボクだった。

ボクはそれはそれは両親が大好きな子だった。はっきりと能力が発現するまでは、両親は勿論ボクを可愛がってくれた。目に入れても痛くないよ、と何億回言われてきたかわからない。今となってはあんなもの、情だったのかも知れないが。

能力が発現し、診断を受けてはっきりと言い渡されたその時からだろうか。両親のボクに対する目が異様なまでに鋭く、冷徹になったのは。

お父さん、と声をかけようものなら殴り飛ばされ。お母さん、と声をかければその整った顔を歪ませ。あれが欲しい、あれがしたいと要望を口に出すことすら許されないような空気。死にたい。幼いながらにそう思ったのははっきりと覚えている。

いつからだろうか。ボクの両親に対する気持ちが殺意になったのは。

うざい。うるさい。気持ちが悪い。理想ばかり押し付けるな。屑が。失せろ。死んでしまえ。

明確な殺意を噛み締め、血反吐を吐きそうになる虐待を耐え、そして家を出た。

ボクは外に出たことなんか分からなかった。

激しい教育のせいで右も左もわかる。どちらが東か西か、北か南かも分かった。だけどどうすれば良いのか。どこにどう逃げれば良いのかだけが分からなかった。

そんな中に一筋の光__いや、闇だろう__が差し込むのが分かった。


「何してんの?することないなら俺に着いてきてよ」

「……少なくとも、退屈はしないよ」


緑色の瞳に映されたのは、ぼろぼろの雑巾よりも汚いボク。だけどその瞳は何よりも輝いていた_。


__これがボクの新しい生活の幕開けだと、信じて疑わなかった。



『……ってのがボクと足立の出会いかなぁ』

足「そーーーいやそんなんだったねぇ!」

三「なっつ、今俺もなんか思い出したわ……」


やばい吐きそう、おえ。とふざけた事を言いながらも口元に微笑が残った三世おにーさんと、眉間にシワを寄せながらも微笑んだ足立。それを見ながらけらけらと笑うボク。こうやって言い合っているのに、笑みを浮かべている二人が不思議で仕方ないが、気持ちは少し理解できる気がした。


足「ボロ雑巾のお前らを拾った俺を拾ったのがめあちゃんなんだよなぁ…」

三「やっぱめあさん万歳っすよ」

『ほんとにね、足立はだめだ、これはだめだ』

足「ふっとばすぞクソガキ」

足「……まぁでもさ、ほんと着いてきてくれてありがとね」

足「”蛇龍”が解散したときに俺を選んでくれてありがと」


机に肘をつき、何やら青春アニメの先輩のようなセリフを吐く。照れくさいのか知らないけど目線はどこか遠くへ飛ばされていた。三世おにーさんの方にふと視線をやると、いたずらっぽく口角を上げていたが、耳が若干赤くなっていたことをボクは忘れないだろう。


三「ヘェ〜〜〜?そんなこと思ってくれてたんすかw」

『嬉しいなァ〜〜??w』

足「言わなきゃよかったわほんと!!」

足「調子乗りやがって〜〜……」

足「”アイツ”が居たらこんなこと…、ぁ、」

『まぁでもやっぱ、ボクら、いい加減けじめつけたほうがいいよね』

三「…この話、いつするか迷ってたんすけど…、」


3人だけしか居ない部屋、いつもよりトーンの落ちた声。窓から差し込むオレンジ色の光。机の上で居場所のなくなった指で遊ぶ三世おにーさん。意味深な三世おにーさんの声に、ふと顔を上げる足立。小さく息を吐き、この後の展開に身を任せるしかないボク。さて、本当にけじめは付けられるのだろうか…。

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