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本作品はフィクションです。登場する人物、国家、団体、地名、事件等は概ね架空のものであり、実在のものとは設定や経緯が大きく異なります。
本作は史実とは異なる世界線(パラレルワールド)を舞台としており、現実の歴史・国家・出来事とは異なる設定で描かれています。
どうか先入観にとらわれず、一つの創作世界としてお楽しみください。
なお、本作品は戦争・暴力・特定の思想を美化、肯定、推奨するものではありません。
おい!ここも持たないぞ!」
「下がれ下がれ!奴らに噛まれたやつは躊躇するな!殺せ!」
「隊長!一人やられました!」
「介錯してやれ」
「乗れ!乗れ!この駅は捨てて研究所に戻る!」
2021年2月13日
人類は、この日初めて”未知”との接触を果たした
未知は試練だ
未知は希望か
未知は選択だ
極夜の北極。
まだ時計は昼を指しているが、暗い空には無数の星が美しく輝いていた
そんな中一人の男がタバコに火をつけていた
「おーいアウリス!そんなとこで何やってんだよ」
「何だよシュバルツァー…お前も吸うか?」
アウリスはタバコを咥えながら一本差し出した
「タバコか…高かったろ?まあせっかくだしな…
一本くれや」
「ほれ」
アウリスはタバコを一本、箱から取り出してシュバルツァーに渡した
「お前ジッポ持ってたっけ?」
「この軍でジッポを持ってないのは凍え死ぬのと同義なのを忘れたのか?」
シュバルツァーはそう言いながらポケットの中からライターを取り出しタバコに火をつける
「ハハハ…ジョークとしては上出来だな?」
アウリスは白い煙を輪にして吹きながら苦笑した
「こうしてゆっくりタバコを吸うのは久しぶりだな…」
アウリスが感傷に浸っていると、
「アウリス、お前明日非番だっけ?」
シュバルツァーがふとアウリスに問うた
「非番だがどうした?」
「非番なら一緒に酒でも飲もうかとね」
「なんの酒がある?」
「いろいろ取りそろえてあるぞ」
prrrrrrrrrrr…
「ハッシュ…お前か?」
「あっ俺だな」
シュバルツァーはポケットからスマホを取り出した
「はい、ハニー・シュバルツァーです。
はい…はい…えっ中尉…本当ですか?」
「アウリス…残念だが明日も仕事になるぞ」
「またヘルハウンドの仕事か?」
「どうやらそうみたいだな、とりあえず司令室に行こう」
二人は吸い殻を雪へ落とし、靴で火を消した。 兵舎の玄関口では二人の警衛が直立し警備していた。
「ハニー大佐!アウリス中佐!」
片方の警衛が背筋を伸ばし二人に敬礼をした
「あぁ曹長か仕事お疲れさん、ほれ」
アウリスはそう言いながらタバコの箱を警衛の片方に投げた
「あ、ありがとうございます!」
「いいってことよ」
二人は兵舎の廊下を足早に進み、やがて司令室の前へとたどり着いた
「ハッシュ…どっちが開ける?」
アウリスはシュバルツァーにそう問うた
「まあ、俺がやらないといけんだろう」
ガチャ
「失礼します!」
「来てくれたか、二人とも。
座る時間も惜しい、早速だが本題に入ろう」
基地司令がテレビの電源を入れる。 壁掛けのモニターには、偵察機が撮影したと思われる航空写真が何枚も映し出された
「中尉…これは何ですか?」
少しの沈黙のあと、中尉は口を開く
「大佐…君は異世界を信じるかね?」
中尉はハニーに聞いた
沈黙が流れる
「異世界があるのならば面白いと思いますが…」
ハニーは答える
「中佐は?」
「私としては非科学的ですのでなんとも…」
アウリスが答えた
「そうか…あの写真は我々の常識では説明できないものだ」
「中尉…説明をください」
アウリスが怪訝そうな顔をする
「今朝未明、北緯82度東経18度地点、つまりこの島だな。この島には山があるだろう?そこの麓に謎の構造物が発見された」
中尉の言葉は一つ一つが重かった
「最初は、民間の家を疑った…だが思い返せばこの島は軍関係者のみしか入れない…仮設住居も疑ったが建設記録がない…つまりは虚空から現れた…私はそう思っている」
ハニーとアウリスは顔を見合わせた
「中尉、今回の仕事はこの構造物を調べろと?」 ハニーが口を開く
「正確には、内部調査だ」
アウリスがまた怪訝そうな顔を浮かべる
「中尉、危険度は?」
「かなり高い…だから優秀な元ヘルハウンド隊員に来てもらったのだよ」
中尉は少し笑いながら答える
「アウリス…諦めろ、この島での特殊部隊の経験を持っているのは俺達だけだ」
ハニーは苦笑しながらアウリスを諭す
「はぁ…中尉、ボーナスは弾むんですよね?」
「生きて帰ってきたらな」
「中尉、装備はどうするんですか?」
ハニーは問うた
「武器弾薬に車両、何でも持ってけ。それくらいの危険度だ」
「了解。ちなみに内部に車両は入れますか?」
「偵察機からの情報では開口部は幅10メートル高さ5メートル程度だそうだ」
「わかりました」
二人は中尉に敬礼をし、司令室を後にした
「ハッシュ、準備終わったら仮眠取ろう。昨日から寝てないんだよ当直で」
「わかったわかった」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
武器庫
「ハッシュ、LAVの鍵だ。」
アウリスは装備課から受け取ったLAVの鍵をシュバルツァーに投げた
「わかった、武器庫の横に回すよ」
「さて、と…中尉は何でも良いと言ってたからな…豪勢に行こうかね」
そう言いながらアウリスはLAVに積み込む用の武器と弾薬を選び始めた
アウリスは初めに小銃を手に取った
「連邦の新型か、弾薬は……7.62×46ミリか…対人には十分だな。」
アウリスは悩む
「弾薬は…徹甲弾と曳光弾しか無いが…比率だよなぁ…」
そう呟くと、アウリスは曳光弾を5発、続いて徹甲弾を25発、慣れた手つきでマガジンへ押し込んでいった
「最後の5発は曳光弾じゃないとな、交戦中はパニックになりやすい…交換の合図がないといけない…師匠に習ったな…」
ブロロロロロ
低いエンジン音が外から聞こえてきた
「アウリス、車回してきたぞ。」
シュバルツァーはそう言いながら車から降りてきた
「武器はアサルトとスナイパー、それに対戦車火器ぐらいでいいか?」
「問題無い……と言いたいとこだが…LAVの銃座も決めないと」
シュバルツァーはそう言いながらLAVを指差す
「20ミリでも積んでくか?」
アウリスはそう言いながら武器棚から重量20キロもある20ミリ機関砲を抱え上げた
「相変わらずよく持てるよな…まあいい、持ってこい!取り付ける。」
シュバルツァーは20ミリ機関砲をLAVの銃座に取り付けるべく、LAVの上にのぼった。
「やっぱりウチの国のLAVは車高高いよな」
「落ちるなよー」
アウリスはそう言いながら重量20キロの機関砲を持ち上げて、シュバルツァーに手渡す
「アウリス!工具箱!」
「はいはい…わかったわかった」
アウリスは少し走りながら工具箱を持ってきた
「LAVは任せたぞ」
「任された!」
「次は対戦車火器か…」
アウリスはLAVを横目に武器棚を見上げる
「やっぱりロケランか?」
棚に手を伸ばすが、少し考える
「いや…相手が装甲目標とは限らないしな」
棚の奥を見る
「無反動砲もありかな…」
棚のそばの弾薬ケースに目を向ける
「問題は弾だよな…」
ケースを軽く叩く
「重いし1発1発がかさばるけど…価値は高いからな…」
しばらく考え込む
「よし、持ってくか」
そうつぶやいて無反動砲の弾薬ケースを持ち上げる
重い
重いが20ミリ機関砲に比べればどうということはない
「お前は戦争でもするつもりか?」
シュバルツァーが笑いながら聞いてくる
「手札は多い方がいいだろ?」
「それもそうだな。」
シュバルツァーはなにか思い出したようにアウリスに聞く
「爆薬はどうした?」
「悪い忘れてた」
ハハハと笑う中でも2人は着実に準備を進めていく
「と言うかなに用意したんだ?」
シュバルツァーは問うた
「あ〜アサルト2挺だろ?スナイパー1挺に無反動砲1つと携帯式熱誘導型地対空ミサイルだな。あとは弾薬と偵察ドローンだな」
「地対空ミサイル忘れないのに爆薬は忘れるのかよ」
シュバルツァーは呟く
「空を見るのは国のお布施だろ?」
アウリスが答えを返す
「仮眠とったら行くぞ!」
「了解!」
「4時間きっちり寝やがって」
シュバルツァーはイライラしているかのように呟く
「眠いんだから許せよ」
アウリスはふてくされた様に答えた
「まあ行こうぜ」
雪原を進むLAVのエンジン音は、極夜の静寂の中で異様なほど大きく響いていた
《2021年2月13日17時00分》
化学防護装備をしたヘルハウンド隊員2名が構造物の内部へ侵入を開始
「おいハッシュ、この中…トンネルか?」
アウリスはLAVのライトの先を見て呟いた
光の先には、人工的に切り出されたような壁面が続いていた
「多分そうだろう」
シュバルツァーはLAVのハッチから身を乗り出し通路の奥を見渡す
「問題は誰がこれを作り、これを掘ったかだな」
「幅も高さも問題無い」
アウリスは計器を確認する
「別に車両でいけるぞ」
「はいるか?車両で」
シュバルツァーはアウリスに問う
アウリスは少しの間、考え込む
「車両の方が安全だろう。徒歩よりはLAVの方がマシだ」
アウリスは窓の先を見つめたまま呟く
「未知のところで、死ぬ可能性があるなら生身よりマシだ…本部に報告したら入ろう」
「了解」
シュバルツァーは車載無線機に手を伸ばす
「ヘルハウンド01、これより構造物内部への調査を開始する。オーバー」
『こちら司令部、作戦を開始せよ。』
無線機の小さなノイズが静かな車内に響く
ノイズがブツと切れる
車内に残るのはエンジン音と振動だけだった。
「よし、行くぞ」
シュバルツァーはハンドルを握る
エンジンが低く唸る中、ゆっくりとLAVは前進を始める
雪原の景色が遠く感じられる。
前方を照らすライトが人工的な、コンクリートのような壁面を浮かび上がらせる。
「路面は悪くないな、走りやすい」
「そうだろうな、ハンドル握ってるからわかるが走りやすいぞ?変わるか?」
シュバルツァーは苦笑しながら問う
「別にいい、運転は苦手なんだ」
エンジン音が低く響く
「工兵なのに運転は苦手なんだな」
シュバルツァーが笑う
「直すのと動かすのは訳が違うんだよ」
アウリスがうなだれた様な声で呟く
「アウリス、前方、推定200メートル先に光」
シュバルツァーがアウリスに言う
「やっとこさ出口か」
アウリスが窓の先、光を見つめる
「太陽か?」
そう呟く
「まあ何でもいいだろ、行けばわかる」
シュバルツァーがそう呟く
「計器に異常は無し」
「なんだか怖いな」
シュバルツァーは苦笑しながらLAVの速度を緩める。
50メートル
30メートル
10メートル
車体がトンネルの外へ出た。
二人は顔を見合わせる
「なぁアウリス…これって」
シュバルツァーがなにかを言おうとするが、
「ハッシュ、人がいるぞ」
アウリスが指差す先には、なにか慌ただしく動く人々が目に入る。
シュバルツァーが無線機に手を伸ばす。
「こちらヘルハウンド01、司令部応答願う」
返答は帰ってこなかった
「……」
車内に響くのは、無線機から漏れる微かなノイズだけだった
「トンネルの影響か?」
アウリスは計器を確認しながら眉をひそめる
「いや……」
シュバルツァーは少し黙った
「……あ」
「なんだ、その間は」
アウリスは嫌な予感を覚えた顔をする
「いや、その……」
シュバルツァーは後頭部を掻く
「通信ノード、置いてくるの忘れた」
数秒の沈黙
「何やってんだよ」
アウリスが呆れた声を漏らす
「いや、ほら……準備急いでただろ?」
「急いでたのは分かる」
アウリスは深いため息をつく
「でも未知の構造物に突入する作戦で、一番最初に確認するやつだろ」
「返す言葉もない」
シュバルツァーは苦笑する。
だがその視線は慌ただしく動く人々を見つめていた
コンコン
誰かが窓を叩く
「ここに車を置くな!邪魔だ!」
「どこに動かせばいい?」
シュバルツァーが問う
「ついてこい!」
男はそう言うと、LAVの前方へ回り込んで手を振った。
シュバルツァーは一瞬アウリスを見る。
「……どうする?」
「従うしかないだろ」
アウリスは周囲を観察しながら答える。
「少なくとも今のところ、攻撃する意思はない」
「それもそうだな」
シュバルツァーは小さく笑い、ゆっくりとアクセルを踏む。
LAVのエンジン音が再び低く響く。
車体が動き出すと、周囲にいた人々が一斉にそそくさと距離を取った。
「見られてるな」
「そうだな」
シュバルツァーがそう言うが、たしかに物珍しそうな目でこちらを…いや…車両を見ている
「ここだ!ここに停めろ!」
男が叫ぶ
「さて、綺麗に停めれるかな」
シュバルツァーはそう言うが、白線の間に収まるように、綺麗にLAVを停めた
「相変わらず上手いな」
アウリスが褒める
「そりゃどうも」
「…お前ら降りろ!ここじゃあ誰もが働かないといけない!」
男がLAVに向かって叫ぶ
「言葉は意外といけそうだな?」
シュバルツァーが呟く
「問題は意思疎通だな」
アウリスが返す
「どうした!早く降りろ!仕事は山ほどあるんだ!」
男は眉を顰め、イライラを募らせているようだ
「早いこと降りようか」
アウリスが呟く
シュバルツァーが先んじてLAVのドアを開ける
すると、外の熱気が勢いよく車内に入ってくる
「熱っ」
アウリスが助手席の端末に目を向ける
「外気温28℃…そりゃ暑いわな」
バァン!
遠くから銃声のような音が聞こえる
「お前達…軍人か?軍人なら奴らと戦ってもらわないといけない」
男がなにか呟くがシュバルツァー達の耳には届かない
「お前達、その車両持ってコッチに来い!」
シュバルツァー達はLAVに乗ったまま男の後をついて行く
「ここだ」
案内された場所は巨大な壁の前、装甲車が大量にあった…
「なんだよこれ…戦争にでも行くのか?」
アウリスが疑問を浮かべる
ジリリリリリリリリ
甲高い音が鳴り響いた
「なんだよこれ!ハッシュ!」
「わかるわけあるか!警戒しろ警戒!」
シュバルツァー達が混乱する中、兵士であろう者たちがキビキビと動き始める
「奴らが来るぞ!有刺鉄線に電気を流せ!」
「急げ!」
「なんだ?あの車は…」
「知らん!門の前に回すように言え!」
「おい!お前ら!あそこの門の前で奴らの脳天ぶち抜いてやれ!」
「はぁ?何言ってんだ?」
アウリスが呟く
「その車には重機関銃が載ってるんだろ?」
「しゃあねえ…回そうか」
シュバルツァーがそう言う
「何言ってんだ!」
アウリスが叫ぶ
「ここで従う方が死なない、彼らが言う奴らは敵なんだろうし…」
シュバルツァーは呟いた
「こっちだ!早く来い!」
ブロロロロロ
LAVのエンジン音が響く中、門の外に配置された
「榴弾だけでなんとかなるか?」
アウリスが諦めたように聞く
「なるようになるだろう。」
シュバルツァーは遠くを見つめていた
視線の先には人のような見た目をした人ならざるものが近づいてくる。
「奴らが来たぞ!発砲準備!」
シュバルツァーは20ミリ機関砲を構える
視線の先、100を超えるであろう人の影がドタドタドタドタと走ってくる
「撃てぇ!!」
ドン!ドン!ドン!
LAVの銃座から撃たれた20ミリ弾が飛翔する。
一瞬、門の上にいた兵士達は何が起きたのか理解できなかった。
次の瞬間、先頭を走っていた奴らが何体も吹き飛ぶ。
「なんなんだ?あれは重機関銃じゃないまるで機関砲だ」
門の上の兵士が呆然と呟く。
「あいつらだけで、ほとんど片付けちまったぞ……」
「弾も底を突きかけていた。予想外の援軍だな。」
城壁の上の兵士が安堵したように呟く
事実、この研究所と呼ばれる施設では、数時間にわたり防衛戦が続いており、弾薬は底を突き、最後の防衛線が崩壊寸前だった
「遠方からマザーシップ!」
誰かが叫んだ。
霧の向こう。 地平線そのものが動いたように見えた。
最初は山だと思った。 だが違う。
ゆっくりと、それは歩いていた。
城壁より高く、研究所の建物を積み重ねても届かないほど巨大な影。
それが動くたびに地響きがした。
先程まで慌ただしかった城壁の上がパタリと静かになっている。
「ハッシュ……なんなんだ……アレ」
アウリスの声は震えていた。
「わからねぇよ……」
シュバルツァーは照準器から目を離せなかった。
「あれに20ミリ榴弾が効くと思うか?」
「……無理だ。」
シュバルツァーは笑うことすらできない。
「ビルくらいデカいんだ、あれは戦車砲でも止まる気がしねぇ。」
ズン…
ズン…
マザーシップと言われたそれがこちらに向かってくる。
「終わった…」
誰かが震える声で呟く
途端に恐怖が伝染していく…
しかし…パタリと動かなくなっていた兵士達は、まるで決められた手順を思い出したように、一斉に持ち場へ散っていった
「急げ!レールガンを起動しろ!!」
「了解!1、2番砲塔!射撃準備!!」
『こちら1番砲塔、給弾機構トラブル!』
『2番砲塔問題なし!いつでも撃てます!』
基地全域に設置されたスピーカーからだろうか。指揮官の声が城壁中に響いた
「2番砲塔のみで迎撃する!」
『目標、マザーシップ!』
『コンデンサ充電率80%!』
『オールグリーン!』
『155ミリ、砲撃はじめ!』
「レールガン? ハッシュ……あいつら、今レールガンって言ったよな?」
アウリスがシュバルツァーに尋ねる
「あぁ……確かにそう聞こえた。」
シュバルツァーはいまだマザーシップを見つめている
「でも、レールガンなんてまだ試験運用段階じゃなかったか?」
「少なくとも、実戦配備なんて聞いたことはないね。」
シュバルツァーは苦笑しながら返す
二人が言葉を交わす間にもレールガンは号令を待っていた
『撃てぇ!!』
ドガァァァァン
雷鳴のような爆音に空気が震える。
刹那、マザーシップの右第一、第二歩行脚の付け根が撃ち抜かれる
マザーシップの肉片と赤黒い体液が飛び散る
「当たった。」
誰かが息を呑んだ
だが8本もある足の内2本失ってもなお、その巨体は前進を続けようとする。
ズン…
1歩
ズン…
2歩
しかし3歩目は訪れなかった
失われた脚側に巨体が大きく傾く
山が崩れるように、
要塞が崩れるように
ズゴォォォォォォン
大地を揺るがす轟音と共にマザーシップは倒れ込む
衝撃波が壁まで届く。
土煙が高く舞い上がる
誰も声を上げられない
静寂が訪れた。
その静寂を破ったのは一人の兵士だった
「……倒したのか?」
その震える一言をきっかけに城壁のあちこちから歓声が轟く
しかし…
それも長くは続かなかった
ブチッ
ブチッ
マザーシップの背面を破るようになにかが飛び出してきた
「ハッシュ…ありゃ、鳥か?」
アウリスが呟く
「鳥にしちゃぁでかくないか?」
「お前ら!早く門の中へ!マザーシップが死んだんだ!」
壁の上から誰かが叫んでいる
「なんだ?とりあえず門の中に行かないとヤバそうだな、アウリス」
シュバルツァーが言う
「そうだな」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……
後ろを見ると壁が迫り上がってきていた。
「材質まではわからないがかなり分厚い壁だ…きっとどんな物でも耐えるのだろうな」
アウリスが呟くが
「アウリス!20ミリはあとどれだけある!」
シュバルツァーが叫ぶ
「んっ、あぁ…20ミリ残弾200発!さっきので100発使ってる!」
『各員持ち場につけ!対空戦闘用意!』
壁の上のスピーカーから司令官の声が響いた
「なんだ?対空戦闘?」
壁を見上げてみるが、とてもじゃないが壁上を見ることができない
「高いな…これ」
アウリスは感嘆するように呟く
壁を見上げていた最中
バババババババババババ
壁の上の対空砲が火を噴いた
「耳が痛くなるな」
シュバルツァーは呟く
キィィィィィィッ
空に甲高い鳴き声が降ってきた
二人は反射的に空を見上げる
さっきは鳥に見えた
だが、よく見ると、それは鳥ではなかった。 羽毛は一切なく、骨格の一部は外へ露出している。 赤黒い肉が全身を覆い、薄い翼膜を広げながら夕暮れに染まる大空を滑空していた
どこかエイを思わせる輪郭をしていた。
しかし、その身体は赤黒い肉と露出した骨だけで形作られた、空を飛ぶ肉塊としか言いようのない存在であった
「なぁハッシュ、アレに熱源追尾ミサイルが通用すると思うか?」
アウリスが問いかけてきた
「弾が消えるだけだな、肉塊に戦闘機みたいな熱源があると思うか?」
シュバルツァーは少し茶化しながら言葉を返す
その間も対空砲は火を噴いていた
空を埋め尽くすほどのエイの群れは、さながらKAMIKAZEドローンのように対空砲めがけて突撃している。
爆発のような音が響いた
1基、また1基と対空砲の轟音が途絶えていく。
その代償と言わんばかりにエイの群れは着実に数を減らしていった。
「落とした奴には触れるなよ!溶かされるぞ!」
誰かが叫んでいる
新兵に向けてだろうか…
対空砲はまだ鳴り止まないが、空を埋め尽くしていたモノは徐々に数を減らしてゆき、そのほとんどが、もういなくなっていた。
「溶かされるとか言ってたな…」
シュバルツァーは呟く
「まぁ…俺達はとりあえず戻ることを考えればいいさ、ひとまず危機は去っただろうし」
アウリスは諭すように言ってくる
「おい!お前達!基地司令がお呼びだ!来い!」
兵士の一人がLAVに近づいてきて叫ぶ
「俺達か?」
銃座についていたアウリスが聞き返す
「お前達以外に誰がいるんだ!」
兵士は苛立ったように急かす
「車両はどうするんだ!」
アウリスはLAVを叩きながらその兵士に聞く
「置いていけ!」
「わかった」
アウリス銃座から降りる
シュバルツァーも運転席から降りて、ドアを閉め、鍵をかけた
「ずいぶんと雑だったな」
シュバルツァーは笑いながら呟く
「仕方ないだろ、客か敵か分かってないだろうからな」
アウリスはスタスタと歩きながらシュバルツァーに返す
二人は兵士の後を追った
案内された先にあったのは基地内でも一番堅牢そうな建物であった
窓がない
そして建物の周りには兵士が何人も配置されていた
「ずいぶんと騒々しいな」
シュバルツァーが呟く
「さっきも言ったが、客か敵か分かってないだろうからな」
アウリスがそう返す
兵士が入り口の前で足を止めた
「入れ!基地司令がお待ちだ」
「よく…来てくれたな。まずは聞かせてくれ、貴様らは敵か?味方か?」
基地司令はそう問いかけ、二人の返答を待った
「少なくとも、俺達はアンタらを撃つつもりはないね」
シュバルツァーは答えを返す
「そうか…」
基地司令は短く答えた
「では質問を変えよう、貴様らはどこの所属だ?CIAか?MI6か?」
「どっちでもないな」
シュバルツァーは少し考えるように間を置いた
「あぁ、俺達はナシル連邦海軍陸戦隊特殊作戦コマンド、第1大隊第4中隊第404小隊ヘルハウンドチーム1特殊分隊所属の一般兵だよ」
「………………」
司令官は困惑したように黙り込む
だが、すぐに口を開く
「海軍陸戦隊特殊コマンド?」
「そうだよ」
シュバルツァーは笑いながら返す
「なぜ一般兵と?」
司令官は怪訝そうな顔をしながら問う
「今回の作戦は捨て駒みたいなもんだったからな」
アウリスが間に割って入る
「そうか…とりあえず敵ではなさそうだな」
司令官は少し安堵したように呟く
だが、すぐに表情を引き締めた。
「貴様らはこの世界については無知なんだろう?」
「そうなるな」
シュバルツァーは少し悩んだ後、言葉を返す
「ならば説明しよう」
司令官はそう言いながら一枚の写真を渡してきた
「これは?」
アウリスが聞く
「現在確認されている敵対生命体だ…そもそも生きてるか怪しいがな」
司令官は疲れ混じりに苦笑しながら答える
「この写真は…さっきの奴か?」
アウリスが問いかける
「あぁ、人型…まぁいわゆるゾンビだな」
司令官が答える
「こいつは何よりも数が多い、人間に噛みついて仲間を増やす。クソみたいだろ?」
そして、新たに一枚の写真を渡してきた
「あの飛行型だ」
「エイみたいな奴か」
アウリスが呟く
「グロかったよな」
シュバルツァーが割って入る
「こいつは厄介で、徘徊型兵器と同じ行動をとっている、マザーシップの奴を除いてな」
司令官はどこか遠くを見るような目をしていた
「そうだ、聞きたかったんだよ、そのマザーシップ?と言うやつを」
シュバルツァーは、ハッと思い出したように問いかける
場に沈黙が流れる
十数秒後、司令官がやっと口を開く
「マザーシップ…こいつのせいで世界が滅びかけた」
「そんな大袈裟な」
シュバルツァーは茶化そうとする
「あいつはとても恐ろしい」
司令官の声には先ほどの疲れとは違うものが混じっていた
恐怖、底知れぬほどの恐怖を感じさせてくる
そう言いながら写真を渡してくる
その写真は、どこか蜘蛛を思わせるシルエットだった。
八本の巨大な足
異様に巨大な胴体
そして全身を覆う赤黒い肉
生き物だとしても、そう思いたくない
「これが……マザーシップか?」
シュバルツァーが問う
「長さ100メートル、幅60メートル、高さ60メートル、図体がデカいだけならよかった」
司令官が答える最中
「物理ってどこにいきました?」
シュバルツァーがまたしても茶化そうとする
「死んでもいいなら対話してこい」
司令官は苦笑しながら言葉を返す
「………」
シュバルツァーの笑みが消えた
「冗談だよな?」
「半分はそうだな」
司令官は写真へ視線を戻す
「だが半分は本気だ。
対話ができるならしてきてもらいたいものだ」
シュバルツァーは写真を見つめ直す
「何がそんなにヤバいんだ?」
アウリスが問いかける
「写真をよく見ろ」
司令官がそう言うが…鱗?、いや鱗では無い
「この鱗はなんですか?」
シュバルツァーが問う
「鱗じゃない…対空兵器だ」
司令官が真剣な目でこちらを見る
「よく見てみろ、お前達も見たであろうエイに似てるだろ?」
そう言われて、目を凝らす
たしかにエイみたいな形をしている
「たしかにエイみたいだが…」
アウリスは怪訝そうな顔をする
「こいつはマザーシップが動ける間は、背中に寄生しているが…歩けなくなったら飛んでくるんだよ」
司令官はそう答える
「飛んでくる?ただの鱗だろ」
シュバルツァーは少し茶化す
「鱗じゃないんだよ、マザーシップが死んだら一斉に飛び立って空爆してくる」
司令官の表情が険しくなる
「こいつはレーザーを撃ってくる、新型の重装機械歩兵を出してもこいつだけはどうにもならない」
「そうか…空爆と言ったか?」
アウリスが聞き返す
「そうだ、空爆だ」
「生物兵器だろ?レーザーだとしても空爆なんて…ありえない」
「それがありえるんだよ」
司令官は返す
「そしてこいつはECMを常時出している…誘導兵器がまともに動いた試しがない
そして最悪なことにドックファイトしようとしても的が小さい」
「だが…さっきのマザーシップは普通の飛行型だろう?」
アウリスが聞く
「それは普通の奴だ。
レーザー級は全長4メートル翼幅8メートル全高50センチ、撃っても当たらん」
司令官は乾いた笑いを見せた
「じゃあ、どうやって落としてるんだ?」
シュバルツァーが聞く
「数で押す、短絡的だが効果的だ」
司令官は答える
「撃墜率は?」
「すこぶる悪い」
司令官は苦笑する
「悪いのか…」
シュバルツァーが呟く
「撃たなければ死ぬがな」
司令官の瞳がどこか濁って見えた
「1機落とすのにどれだけ食うんだ?」
アウリスが聞く
「知らないな…数えた試しがないからな」
「そうか…」
シュバルツァーはさっきまでの軽口を叩いてた時とは打って変わって、真剣な目つきになる
「近接信管は使ったのか?」
「近接信管?そんなモノはない、古今東西、時限信管だ」
司令官は当然のように答えた
二人は数秒黙り込む
そして、顔を見合わせる
「ハッシュ…今、なんかすごいことを聞いた気がする」
アウリスが呟く
「時限信管なんて骨董品、久々に聞いたよ…信管調整器で手動か?」
シュバルツァーがやや気さくに聞く
「手動でやってたら…すぐに殺される」
司令官は凄い剣幕でこちらを見る
「全自動の信管調整器があるんだ…こいつがデカいせいで、対空砲がよく黙り込んでしまうんだ」
「そんなのがあるのに、なんで撃墜率が悪いんだ?」
シュバルツァーが聞く
「砲塔が必然的にデカくなるから、飽和攻撃で大半が壊される」
司令官はそう答えた
「現在主流の対空砲は57ミリだ…対地対空に使える万能砲…デカいことを除いてな」
「なるほど」
アウリスが深く頷く
「こっちの世界じゃあ時限信管は骨董品だ、今は近接信管が主流だ、それも小型化が進んで、今や20ミリ榴弾にも近接信管をつけてある」
シュバルツァーが説明する
「そんなのは夢物語だろう?」
司令官が笑う
「奴らは小さいし、速い、そしてECMだってある、そんなのに当たるのか?」
「近くまで来ればな、LAVの20ミリの射程は対空で垂直2キロ水平3キロまで届く、今は残弾が200発しかないが、国に帰れば物資を持ってこれる」
シュバルツァーは淡々と言う…
「物資を……?」
司令官が反応する
「ああ」
シュバルツァーは椅子の背にもたれた
「ただし、その前に一つ問題がある」
「なんだ?」
「俺達はあのトンネルを通ってきた」
シュバルツァーはアウリスを見る
「トンネルの先には我が国がある」
「…………」
「あのトンネルはこの平行世界を行き来するものだと考えている」
「つまり何が言いたい」
司令官は二人を見る
「俺達は一度帰らなければいけない」
アウリスが答えた
司令官はしばらく黙っていた。
そして、机の上に置かれた写真へ目を落とす。
「……分かった」
司令官はゆっくりと顔を上げた。
「だが、その前に見せてもらおうか」
鋭い視線が二人へ向けられる。
「近接信管とやらの実力を」
シュバルツァーは一瞬だけアウリスを見る。
アウリスもまた、何かを察したように小さく笑った。
「司令官……」
シュバルツァーが立ち上がる。
「ここからは商談の時間です」
その口元に、いつもの不敵な笑みが浮かんだ
アウリス、シュバルツァーは、指定された基地南東部の演習場にLAVを走らせていた
「ハッシュ…お前、よく商談吹っかけたな」
アウリスが笑いながら荷台の装備品を見る
「仕方ないだろ?こうすれば、どう転んでも利益はあるんだ」
シュバルツァーは片手間に運転しながら返す
「そろそろじゃないか?」
アウリスがハッチから身を乗り出して、外を見た
「そうみたいだな」
シュバルツァーは軽くブレーキを踏む
LAVは緩やかに速度を落として、停車する
「実演販売をしてくれるんだろう?ここには基地の高官のほとんどがいるんだ。さぞ面白いものを見せてくれるんだろうな」
さっきの基地司令がLAVの開いている運転席の窓に肘を置き、声をかけた
「アレを撃ってくれ」
司令官が指を差した先には標的機であろう小型機が空を駆けていた
「わかった」
シュバルツァーはそう言いながら重々しいコッキングハンドルをジャキッと引いた
ガチャン!
薬室に20ミリ砲弾が送り込まれる
ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!
5発の20ミリ砲弾が大空に飛翔する
標的機は砲弾を軽やかに旋回し、かわしていく
「外してるぞ?」
基地司令が皆に聞こえる声で言う
パキィィン
標的機の数メートル先で砲弾が甲高い音を立てながら破裂する
「なっ……?」
標的機を見ていた周囲の将校が目を丸くする
さらに
パキィィン
パキィィン
と標的機の周囲で次々と炸裂していく
「何が外してるって?」
シュバルツァーが周りを見て言った
「少なくとも外してるように見えたがな」
「まぁそう見えるよな」
アウリスは窓からひょこっと顔を出して司令官に言う
「だが、あれでいい」
「何を言ってるんだ?所詮時限信管と一緒だろう」
司令官が不思議そうに二人を見る
「全然違うぞ?」
シュバルツァーが説明し始める
「近接信管は、自分で電波を発して敵の位置を判断、そして最適距離で爆発する。
そして時限信管、これは決まった時間に、決まった通りに爆発するだろ?最初に一から十まで教えてやらないといけない」
「つまり?」
司令官が聞き返す
「いくら大量に撃ったとて、敵が動けば時限信管はそんな事を知らずに爆発する」
シュバルツァーは空を見上げる
その空には黒煙を吐きながら高度が落ちている標的機が見えた
「近接信管は敵が近くを通るだけで爆発する」
「しかし、無誘導だろ?」
「そうだ」
「回避されたらどうするんだ?」
司令官が問いかける
「だから5発撃ったんだ」
シュバルツァーは笑いながら返す
「そうか…そうだな!」
司令官は人が変わったかのように笑った
そして澄んだ青い空を見上げる
「そうだな…」
司令官は周囲の将校を見渡す
よし!実演はもういい、反対する将校は黙らせてやろう!」
演習場に来ていた将校らが目を丸くする
ざわ…ざわざわ…
周囲の将校から、困惑、驚愕、興奮、疑念と言った感情が手に取るように見える
「司令!買うんですか!?」
将校の誰かが叫ぶ
「乗らねばいけないだろう、この商談には」
司令官は興奮を隠すように、平静を装って答える
司令官、シュバルツァーは共に口角が上がる
「どうですか?我が国は色々と取り揃えてますよ」
シュバルツァーが手をこまねきながら返す
「何を取り揃えてるんだ?」
司令官が聞き返す
「色々です、ここに合うか分かりませんから」
「そうか」
「えぇそれでは…静かなところにいきませんか?司令、ここじゃ何かと不便ですし」
シュバルツァーがニヤリと笑いながら司令に諭す
「そうだな…どこに行くんだ?」
「我が国に来ますか?」
「それはまだやめておこう」
司令はすぐには首を縦に振らなかった
「兵舎に戻ろうじゃないか…とても面白い」
「了解しました、先に行っときますね」
シュバルツァーは簡潔に返事をした
ブロロロロロ
LAVが走り出した
それを挟むように基地の車両が走っている
「この商談…手を間違えれば、全てが終わる」
コメント
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読み終わりました……すごかったです。まず、冒頭のタバコを吸いながらの掛け合いから、アウリスとシュバルツァーの距離感が自然で、一気に引き込まれました。部隊の空気感がちゃんと伝わってくるのが良いです。 「近接信管の実演」のシーン、めちゃくちゃ熱かったです。司令官が「何が外してるって?」って言われてからの反応が、読んでて一緒に笑っちゃいました。銃や装備の描写にリアリティがあって、ただのバトルじゃない、世界観の厚みを感じます。 それにしても、あの構造物を通り抜けた先が完全に別の世界だった、っていうオチの重さ……。これからどうなるのか、すごく気になります。続き、めっちゃ楽しみにしてますね。