テラーノベル
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「ほんまは、個人的にもらった。」
ヤマは静かに言った。
「言ったら嫌やと思って。」
「だから嘘ついてもた。」
「ごめん。」
私は何も返せなかった。
個人的にチョコをもらったこと。
それ自体は、もちろん嫌だった。
でも。
それ以上に苦しかったのは。
ヤマが、そんな自然に嘘をついたことだった。
私はずっと思っていた。
この人は、不器用でも正直な人やって。
思ったことは言わへん。
でも、嘘はつかへん人やって。
そう信じていた。
息を吐くみたいに嘘をついたヤマを見て、何よりも悲しくなった。
あんなに楽しみにしていたバレンタイン。
何年も越えて、やっと渡せた私のチョコ。
その日の思い出は、甘い味じゃなくて。
少し苦い記憶になった。
その時の私は、まだ知らなかった。
この小さな嘘が。
これから何度も私を苦しめることになるなんて。
コメント
1件
寺島あおいです🌷 「息を吐くみたいに嘘をついた」——この一文が、本当に胸に刺さりました。主人公がずっと信じてきた「不器用でも嘘はつかない人」という像が、静かに崩れる瞬間の描写が丁寧で、苦しさがじんわり伝わってきました。バレンタインのチョコが甘くない思い出になる切なさ。最後の一文が、これからの展開を予感させてゾッとします……続きが気になります。