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第8章 光輝の君
(王立警察署内――実験施設)
カタカタ、パチパチ、カタカタ
ブクブク――。
キュイーン、ビー。ビー。
――6% 適応不可、不完全一致
カタカタ、パチパチ、カタカタ
キュイーン、ビー。ビー。
――30% 適応不可、不完全一致
ブクブク――。
カタカタ、パチパチ、カタカタ
キュイーン、ビー。ビー。
―17%、適応不可、不完全一致
カタカタ、パチパチ、カタカタ……――。
コツン、コツン。
「――解析はどうだ?順調か?」
あたりは暗闇が広がっていた。だがところどころ人工的な光の照明が、微かに周囲を照らしている。
パソコンのモニター画面には、この前闘技場に現れた謎の怪物の映像が映し出されていた。その暗がりの奥から一人の顎鬚を生やした男が、モニターへ齧り付くメガネかけていながらもクマが酷くボサボサな髪の男へ声をかけた。声をかけられた男は、背後の人物を見ず、作業を続行したまま返答した。
「そこに置いてあるデータが頼まれてたものだ。それと、もう少しで解析結果が終わる」
男の指示した近くのテーブルには、紙の束が積まれていた。それは闘技場に現れた例の異形の怪物の一件についてだった。
王立警察は秘密裏に怪物の一件を追っていた。この一件を王立警察側は、南門周辺から徐々に広がっている怪物目撃事件の情報と何か関係があるとみていた。
そっと紙の束受け取って中身1ページ、とさらに巡り男は内容を確認していく。
「……人が関与した形跡は見られない、か」
「それが、王の左・腕・というお偉い方々が導き出した結果だそうだ、間違いないだろう。――そしてこっちの解析も終わった。
帝国内、その他同盟国の生物による生態判定もこの通り一致なし。つまり、あの化け物は完全に外部の侵入だ。外のもんだ。こりゃ、警備が杜撰すぎると言われるわけだ。セキュリティバリアを上げろと上からお達が来るわけだ、、」
モニターの画面と同時並行しながら男は器用にも背後の人物へ答える。
ふとページを捲っていた顎鬚の男はある一点がきになった
「……少年少女を執着に追いかけ回し、襲われた。後に阿暁一門により討伐……か」
「あぁ、被害者の少年は避難しそびれた少女を救出、その際、少女を庇い怪我をおった――と、将来有望な子だな。…結局この一件は、セキュリティの不備による外部の侵入って事でかたがつくそうだ、はぁ眠ぃ〜」
男は大きなあくびをする。
顎鬚の男はじーと、闘技場の怪物の件の資料、文字、画像を見続け深く考え始めた。
「――割に合わんな」
男がポツリと呟く。
「俺らが働いた時間と給料が見あってないって話なら同感、」
「違うそうじゃない」
間髪入れて訂正した。
「――なぁ、お前が怪物なら、獲物を前にして数日間耐えられるか?」
「おい、おい、急にどうした?まさか……巷で広がってる怪奇な事件がこの怪物襲来騒動の一件と何か関係があると思ってるのか?ハスイ」
顎鬚の男――ハスイと呼ばれた男は答える。
「少なくとも何かしら繋がっていると思っている」
「おいおいハスイよ、考えすぎだぞ。近頃の怪奇な虐殺事件も闘技場の怪物も別件だろ」
「リオル、なぜ別件と言い切れる?その虐殺事件も初めは南門の真偽不明の噂から頻繁に起き始めたんだ……いや、そもそも南門の噂の始まりも奇妙な点があるが」
ボサボサな髪にメガネをかけたクマの酷い男――リオルのメガネが傾いた。
「はぁ、、まず、南門の噂の出所なんて今更だろ?昔からあそこ一体は皆不気味がってた。勘違いした市民の噂が一人歩きして尾鰭ついてでっかくなってるだけだろう。それに怪奇な――複数の虐殺事件の方は、起きてるのは全て貧困地域に集中している。正直なところ人間同士のいざこざって線も捨てきれん。あと仮に、仮にだ!その虐殺事件と闘技場で現れた怪物が同じだったとしたら、街を襲っていた怪物は今までどこに隠れてたっていうんだよ?」
「そこだよ、リオル」
「は?」
「俺が気になっているのはそこだ。闘技場の怪物と虐殺事件の共通点は、傷の付け方や行動が酷く凶暴且つ加虐的であるのに対して、南門の噂で流れた怪物は、その様子が見られない――つまり明らかに別者だ」
「?……おい、ちょっと待て。なんで南門でそもそも怪物が現れたってお前が分かるんだよ?それは噂の域をでないだろ?――――まさか証人が現れたのか?い、いや仮に本当に証人がいたとして一般人の場合は動転してる可能性がある為、信用に足らない。‥だがお前が断定してるって事は、その発見者、証言者は、、まさか」
「……あぁ、お察しの通り。この帝国唯一、王の右腕とも言われるエキスパートさ。その一門の片割れ、阿暁一門の一人だそうだ」
「お前、それ早く言えよ!!!え?じゃあまじで南門に怪物がいたのか?!」
「いや、証言者である阿暁一門の者は怪物自体は見ていなかったそうだが、痕跡自体は発見したそうだ。そして闘技場と南門の怪物が別物とも断言した――」
――――――――――――――
遡ること一週間前
あの後、現れた闘技場の怪物の一件、再度開幕式は各家庭でホログラムを通して行われた。
それ以降、仕事の日々に忙殺され本当にあんな事があったのかと思うぐらいには頭の片隅で思い出となりつつある頃、事は起こった。
僕――ポッドは王宮にいた。そう僕の人生を変えてしまった。あの良い印象のないラグーン宮殿だ。今日は連れてこられたと言っても過言ではない。
僕の額から汗が止まない。早くこの空間から逃げ出したかった。
そう僕は今、開幕式時、怪物をわざと引き入れた犯人として疑惑がかけられ――
犯人にされかけているのだ!!
本当に王宮には良い思い出がない!!
「ぼ、僕はやってません!!」
この言葉を何度も言ってはいるが、聞き入れられる様子はなかった。
不審に思うもの、不憫に思うもの、真意を探るもの各々ポッドに疑いの目を向けていた。
――――
王宮――審判の間にて
とある殺風景な一室にポッドは壇上に立っていた。いや、立たされていた。彼の両脇に厳つい男性が二人いて逃れないように配置している。顔を上げて周囲を見渡すと、目の前には顔を隠した人物が大勢座って話し合いをしている。どの人も王宮の人々であろう事は、その衣服や態度から見てとれた。一部には仮面をとっている人もいる。
そしてそこに唯一の顔見知りがいた。
一人は由良だった。今回の闘技場怪物襲来の件にて、一門の代表として出席していた。
もう一人は、花瓶を割ったときにいた王宮の人だ。名前は分からないし分かりたくもない。
なぜ関わりのないこの人が、僕の前で紛糾しているのか、もしかして関係があるのか、真意は分からない。だが、僕の立場を悪くしているのは理解した。
ふと目線を、俯いていた由良へ移した。
彼女は、険しい顔をしながらポッドを見上げた。
………………
審判の間には、ポット、警護人、市民と王川で事情聴取をする王立調査団の数名、そして王立警察の数名、そして当時者である阿暁一門の由良で行われる筈だった。
突如、現れた王宮の人間(名は知らないが位が高いであろう人)が現れた事で場が騒ついた。
「おやおや、こんな埃被った部屋で話し合いなんて!これから我が王国を脅やかした|犯人と話し合うというのに!!」
「「!?」」
皆が入口に注目し、ザワザワと囁き出す。
由良はその男が何者か分からなかったが、その特徴的な頭部(ツルツルハゲ)と周囲の反応を見るに王宮のお偉いさんなんだろうなとといった印象で、まさか幼馴染をどん底に突き落としたきっかけを作った人物などとは、彼女はこの時知らなかった。
追い詰めるような言い分を始めた彼に、事態は少年の不利な方向へ進んでいるように見えた。それまで両者対等であった話し合いでだったのにだ。
悲しいことにポッドが犯人ではないと証言ができない事に、一向に進展は見せなかった。
あろう事かその王宮の男は、ポッドを捕まえるべきだと喚く。疑わしきは罰せよの精神だった。
残念ながらその男に同意した人間が少なからずいた事に、表情こそ動かないでいたが、内心由良は驚きを隠せなかった。
なおも男はある事ない事喚き散らし続けた。そのほかの人間が「それは違う」、「一理ある」「否定もできない」だの、そんな口論が続いた。ポッドは否定をし続けるの繰り返しだ。
だが、その男が
「この少年を信じるのですか?!この前の王宮の花瓶を割ったのもそいつなのですよ!!言い訳などいくらでもつける!」
「それはっ!!」
「私も怪しいと思い調べたところ、こいつの家庭は借金まみれ!真っ当な生き方もできぬ!学もない人間、親もろくでなし!その子供だ!大金に目が眩み王宮に怪物を引き入れる事なんぞしそうだ!」
「ち、違う!家族は、関係ない、、」
ポッドは否定する。
「それに貴様、――南門に行ったな?」
ドクリとポッドの鼓動が嫌に高鳴った。
「な、なんで知って、」
どうしてこの男が南門に連れて行かれた事を知っているのだろう?
「それは本当ですか?」
「確か、肝試しのようなものだと、報告が上がってはいたが、、」王立調査団と王立警察。
「確かに僕は南門に行きました。……でも僕の意思で行ったんじゃありません!本当です!連れて行かれたんです」
「……それを証明できる人はいるかい?」
「い、」
――いない。いじめっ子達は僕に協力しないだろう。
声が、、――
「ふんっ、やはりな!禁を破る事など簡単にしそうだ!!皆様これで分かったでしょう?こういつは嘘つきであると!子供だからと同情はしないで頂きたい!!我々はこの国を、王を守る義務がある!!正当な判断を!!」
――通らないっ!
「(どうすれば、、)」
――疑心暗鬼
それが正しい表現なのだろうか。少年はあくまで犯人ではない、その疑惑があるだけ。だが男の話が本当だとするとその判断も少し考えねなおさねばならない――
そう、正式な尋問を通して聞かなくてはいけなくなる。
――どうしたものか、、
そういった空気が審判の間に流れていた。
そこに、凛とした声が響き渡る。
「彼を犯人扱いするのは検討違いかと思います」
声の主は由良だった。彼女は続ける。
「仮に王族の殺害が目的ならば、主犯が命の危険を犯してまで自作自演する真似をするのでしょうか?ましてやなんの力もない子供ですよ。もしそうならば、犯人はよっぽどマヌケかと思いますが」
由良は淡々と言い放つ。それに男がくらいつく。
「分からぬだろう、それも計算のうちかもしれぬ。犯人は別にいて其奴は何も知らずに消耗品の手駒として扱ってるのやもしれぬのだぞ?!考えようはいくらでもあるわっ!」
「……(やけにしつこいわね)そのような考えである事は、何か証拠を掴んでから申し上げを。失礼ですよ」
「だから、これから其奴をじっくりと尋問するのだ!何も問題なければ解き放てばいい!それを否定する事こそ、私は怪しいと思うがね!」
「尋問ですか……ただの一般市民に?それも非力な少年に?」
「…これはこれは阿暁一門のお方が、何を仰るか!――まさかその少年に同情しているのですか?先ほどもいいましたが、彼には前科、、王宮のものを破損、そして南門の侵入もしている!信用に値するものはない!」
「っそれは、違います!花瓶もわざとじゃない!」
「ふんっ、なんとでも言え!……王族代々伝わる花瓶を割った事!恥を知れ!!」
不穏な空気が辺りに漂う。
「……なるほど、分かりました。確かに彼では信用に値しないですね」
由良のその発言にポッドは絶望した――かに見えた。
「では――私が申し上げましょう。
彼は犯人ではないと。断言いたします。」
「そうですとも、……はっ?!え、」
「「?!」」
辺りに衝撃がはしった。
「阿暁一門の者がっ断言するのか?!」
「……由良様、そこまで揺るがないのは何か理由があっての事でしょうか?」
王立調査団の一人が問う。
「はい。私はその少年と共に南門に向かいました。真実かどうかを確認する為に。そして現場に辿り着いた時、怪物の姿はなかったものの、その痕跡なるものをこの目で見ている」
またしても辺りが騒ついた。その中でも彼女の声はまっすぐ揺るがなかった。
「先日怪物と対峙した私だからわかる。南門で感じられた気配と、闘技場で発せられた怪物の気は明らかに別物だ。
――このことを阿暁一門の名において、嘘はないと誓いましょう」
またしても周りに動揺が走る。そしてポツリポツリと呟き出した。
「なるほど、南門に赴いたのは貴方でしたか!通りで王立警察内の伝達がスムーズにいったのも納得です」
「阿暁一門の方がそこまで仰るのなら、少年の話は信用に値する価値がある…」
警察側も調査側も口々に囁く。
ザワザワと辺りが先ほどよりもうるさかった。
男の誤算はポッドの幼馴染が由良である事と南門に彼女も同行している事を知らなかった事だった。
「それで、――貴方は何の根拠があって、彼をそこまで追い詰めているのでしょうか?それに足りうるものを差し出して頂きたい」
「なんだと?!」
「……貴方が、市民1人の声すら公正に聞き入れぬ人間、不愉快だと言っている。この場からご退場願おう」
「ぐぬぬっ、」
王宮の人間と阿暁一門の二人が両者譲らず、緊張が走る。
「小娘が、、偉そうにっ!――」
男が何かを発しようとした時、
――それ以上はよせ。
「っ!ハルト様!何故貴方がここに!?」
男は焦ったように入口をみた。
「何故って僕もその場にいたからな、様子を見に来るのは当然だろう」
そこには王位継承者候補のハルト・ルネギルス本人とそのつかいがいた。
「さぁ、続けようか」
※
ハゲ男は動揺していた。なぜなら王族のましてやハルトが来るなんて思いもよらなかったからだ。
「――解剖班から検査の結果、怪物がどこから来たか分からないとの事だ。ここまではいいか?」
ハルトが調査団に確認を取った。
「はい、上空からの侵入経路は不明だと。王族を狙った犯行の線もあると、今は真偽を確認中です……」
ちらりとポッドに一瞬視線を向けたがすぐ戻した。
「その事に関して、私たちからも言いたい事がある。闘技場へ怪物は堂々と現れた。戦闘を交えた結果、翼竜は凶暴ではあったが、戦闘経験が鈍すぎるのが目立ったわ。正直、殺戮目的にしてはぬるいわ」と由良が続けて言う。
「「(あれでぬるいのか、、)」」
とポッドや一部戦闘を見ていた者達は疑問に思ったがスルーした。
「ふむ……王立警察側からは何かわかったか?」
今度は王立警察側に目線をやったハルト。
「警備に至っては怪しいものは見られなかった。また、翼竜出現後数人戦闘に加わりましたが、恥ずかしながら歯が立ちませんでした。……由良様とそちらの少年が時間を稼いでいなければもっと被害が大きくなっていたでしょう……データ解析に関しては、未だ解析中です」
苦い顔をしながら男は告げた。
「――その少年が呼び出されたのは?」
「それは私から申しあげましょう!!」
ツルツルハゲ男が声を荒げて申し出た。
彼はニヤリと口角をあげゆっくりと告げた。
「――王の左腕から、
ポッド・ペダムを重要参考人として真偽してほしい、と通達がありました」
ハルトとマララに疑問が浮かんだ。
――王の左腕、それは王立研究所の事を指す。
そこでは様々な技術が秘密裏に研究されているようだ。
パルベニオン帝国が、他国よりも神域に近い技術力を持っていると謳われているのもこの研究所のおかげだ。――それが
「……なぜその少年を?先王はその事を知っているのか?」
そう、そこが疑問だった。
「いえ。通達自体は王の左腕からです。しかし、先王は何としてでもあの怪物が自然現象だろうと、刺客だろうと、何かしらの黒幕を見つけ出し討伐しろとの事です。彼らはそれを是と判断しました」
「何?」
「……先王は慈悲深い。ですが、王の左腕は納得いかなかったよで、、、それに其奴には前科があります。疑わしきは罰せよとの事。今回は、真偽を確かめに来たのですが、、」
「私がその少年は犯人ではないと断言したのです」
「……なるほどそれで」
帝国法
第13項 王の左腕・右腕は、王の次に優先されるべき発言権(誓い)を持つ。
王以外のいかなるものは従わなければならない。
ただし、両者が同時に発言権を実行した場合、王以外の王族の者が、どちらかの誓いに賛成したかによって、発言権は賛成した方に行使される。
「誓いは、阿暁一門が行使した。ならば決まっているだろう。
――彼は犯人ではない。
誓いを立てた者が誓いを破れば死と決まっている。
彼女は、少年が犯人ではないと確信を持っている。故に命をかけた。
対して、貴方はその証拠を覆すものを持ってないと言う事ですね」
「……はい、」
ツルツル男は悔しそうに顔を歪めた。
「怪物に対しての進展はない。彼が犯人であると言う証拠もない。そして王の右腕はそれはないと誓いをたてている。
ならば、この調査自体不要だ。――よって、ここは解散とする」
「「意義なし」」
※
皆退散する傍ら、ツルツル男は柱の一角に立っていた。
そしてあたりを見渡して呟いた。
「――申し訳ありません。尋問するまでには至りませんでした」
ツルツル男は柱の向こうに立っている人物に伝える。
柱の向こうに立っている人物は影っていて誰だか見えない。
「今回は邪魔が入ったな、仕方あるまい。再度機会を伺う、連絡があるまで待機しろ。それと最近嗅ぎ回ってる者が多いようだ用心しろ。……くれぐれも失敗するなよ――アレは貴重だ」
「仰せのままに……」
男は伝え終わると、奥の扉へと姿を消した。
…………………………
ポッドは尋問を受け解放されると、ハルトを追いかけた。すごく見覚えがあったからだ
「(彼、きっとあの時の!)やっぱり変装してたのかな?」
なぜ彼だと思ったのか?
ポッドには確信があった。
――図書館で出会った彼
――開幕式を開いた時に見た瞳
――先ほど間近でみた瞳
それが例の少年にそっくりだったのだ。
別の人の可能性もあるけど、、でもあんなに綺麗な瞳を持ってる同じ人間はいないだろうな――そう思った。
「(聞いてみるしかないっ!)」
ポッドはあの時図書館で出会った少年に謝りたかったのだ。まさかこんなところでその少年かもしれない?人物と会えるとは思ってもみなかったかが……。
この心のモヤモヤを打ち明けたかった。
数メートル先に足早に退場した黒髪の少年を視界に捉えた。
「あの!すみませんっ!!」
ポッドは大声をだした。
「?――君は……」
その声につられてハルトも振り返る。
――ゆっくりと黄玉の瞳がポッドを見つめ返した。
「っ!お急ぎのところすみません!えっと、、こんな事を突然言うのは恐れ多いのですが、――この前、図書館で僕に――罵声を浴びせられた方でしょうかぁぁ?!」
それを聞いて場に静寂が広がった。
「「……」」
ポッドは言って我にかえった。
「(僕めっちゃ変な奴だって思われてるうぅ!!)」
変な汗がポッドの頬をつたう。
問いかけてきたポッドに対して、ハルトは一瞥した。
「……人違いじゃないか?」
そう答えてその場から去ろうとした。
「あ、待って――」
そう言いかけた時――向こうから誰かが走ってくる。
遣いの男――マララだった。走ってハルトを探しているようだ。
「ちょっと、ハルト様!急にいなくならないでくださいよ!この前の本借りに行く時みたく変装してないんですから・・ん?」
空気が覚める。マララは近くにいる少年に気がついた。
遣いの男であろう人物は、ハルトより背が高いくタレ目で、顔立ちが整っている男だった。
ポッドも一瞬見惚れていた。
「……はぁマララ、君はなんでこうタイミングが悪い」
ポッドは目を見開いて、確信に変わる。
「やっぱり!あの時の方ですよね?」
ハルトは隠せないと思い、ため息を吐いた。
マララはこの状況がまだ分かってなくて困惑している。
そんなマララをよそに、ハルトは続けた。
「いかにも君が探しているこの前図書館出会った、罵声を浴びせられた人物は僕だが、なんだい?君は僕の弱みでも―」
―握るつもりか?と言おうとしたところで。ハルトはポッドが、王宮の人間が町の図書館に変装して出入りしている事を弱みに交渉を持ちかけてきたのだと思っていただ。
だがその読みはポッドが勢いよく頭を下げた事で予想が外れた。
「ごめんなさい!」
勢いがつくほどの綺麗な謝罪だった。腰が90度に曲がったまま頭を上げない少年。
「「?!」」
急に謝罪するポッドに対して、ハルトは困惑した。
ハルトも少し間をあけていった。
「……顔を上げろ――なぜ謝る?」
ポッドはゆっくりと腰を起こして顔を上げた。
「なぜって、、君は冷たい奴だと、僕が勝手に思いこんで酷い事を言ってしまった。――君はただ説明しただけなのに……それが僕にとって図星で何も言い返せなかった、、だから僕は、それを認めたくなくて、、怒りに、感情に任せて暴言を吐いてしまった。君の話も何も聞かず……だからごめん」
ハルトは純粋に驚いていた。
――慣れていた、形ばかりの謝罪は。非を認める事は、ある種こちらの負けを意味する。だが、荒事は避けたい。波風立てないやり方は必要だと学んだ。それが円滑に物事を収めるやり方だと、世渡りの為、ここで僕が生きていく為には身につけざるおえなかった術。
――小さい時から、自分に謝罪をする奴はいつも形ばかりで、顔色を伺っている者が多かった。金のため、地位のため、名誉の為、そんな形ばかの謝罪だと分かっていた。
別に形式云々を言っているのではない。本当に誠意のある奴は眼を見ればそんなのすぐ分かる――眼は口ほどにものを言う、まさにその通りだった。
――何が悪いのかも分かってないクズばかり。
ほんとここは反吐が出る者の集まりばかりだ。
でもそれらに浸りすぎて、何が悪くて何が正しいのか判断も分からなくなりそうな場所だ。有象無象の者達の声に対応するのも面倒で、結果を出す事に意識を向けていく――。そんな毎日なのに
だが、――
※
ポッドは――誠意を込めての謝罪をしている。ハルトはそれを身をもって知った。そして感じた。
「(あぁ……それが誠意を向ける者の瞳なのだな)」
――後悔、詫びの情も入っているが、
……もう間違えないという強い意志を感じる、そんな目だ。
数秒の間だった。
だが近くにいたマララは、ハルトの小さな変化に気がついた。
「……ハルト様?」
「――はぁ、僕の方も君のことを良く知らないのにずけずけと言ってすまなかった」
「!」
ハルトも謝罪をした事にマララは驚く。
マララはこの二人のやり取りをみて(これはハルト様が絆、友情をはぐぐむチャンスなのでは?!この機会を流したらきっと、心躍った。そして助け舟をだす
「……ハルト様、ポッド様に何かいう事あるんじゃないですか?」
「?急にどうした?」
「ほら、あれですよ、手紙のやり取りでもいいですからほら、友好的な、、」
「… ?有効的な?」
「(同音異義語の弊害!!絶対違う方で勘違いしてる!!)そっちじゃなくて!!ポッド君もほら、何かハルト様に他に言いたい事何かあるんじゃないんですか?」
――喧嘩をして謝って仲良くなる!これは定番です!!※いつの時代だ?とマララの心に突っ込む奴はいなかった。
「……この前嫌いっていって、誠に申し訳ございませんでした」
「ちがう!」
「……マララどうしたんだ変だぞ?」
「どこか具合悪いですか?」
(なんでそこだけぴったり?!)
「と・も・だ・ち!」
「「!?」」
「……になられるのはどうでしょうか?ほらハルト様も王族だけでなく、王族以外の方と触れ合うことで、より市民の事を知れるのではないでしょうか?!(いい感じに言えた)」
「……ハア、マララ僕はそんな生ぬるいことするわけないじゃないか」
「そうですよ、僕が王候補のハルト様と友達なんて恐れ多いですよマララさん・・住む世界が違うし。むしろ失礼を働いた僕が未だ生きていることが奇跡っていうか、、(本当は友だちになれたらいいけど、僕は借金あるし、そもそも身分が、、」
「ポッド君はそれでいいんですか?!そんな王族だなんだというだけで!?諦めるんですか?君そん引き腰でいいんですか?あ、さては友達いないでしょ?」
「な、なんでそれを知ってるんですか!!!てか友達いないの」
「いいえ友達と明言するものではなくいつの間にかなっているものなんです!そうそれが男の友情というものなんですよ!」
「は、はぁ、、」
……
そんな側でハルトはふと考えこんだ。
「(なるほど、駒として扱うのならちょうどいいか、かけてみる価値はある)
※彼は環境のせいで捻くれていた!
君が――特殊外交特攻部隊に合格したら考えてもいいかな」
「は、ハルト様?」マララは笑顔を硬直させた。
「……え、?」
「ポッド君、間に受けないでください!ハルト様は少し、いやだいぶ性格が捩れてしまっているだけで、本心はとっても優しい方なのですよ!」
「本気だ」
「ハルト様?!」マララが汗をダラダラさせて止めようとしたが。
「……なんで君に命令されなきゃならないんだ?それにその試験て確か生死が伴うって……」
「あぁ、どっかの命知らずが話していたのを聞いただけさ。頭の片隅にでも覚えておいてくれ、君にできるとは期待していないよ、借金まみれのポッド君?でも君は外の世界に興味があったから。応援するのは友達の役目なのだろう?」
挑発するようにポッドに言うハルト。
「まあ、受けるうけないもキミシダイさ。それじゃ――さようならっポッド・ペダム君」
「あ、」
その別れはもう一生合う事はないと決別だと言っているようだった。
「ちょ、ハルト様!」
ハルトは振り返らずに行ってしまった。
「なんだよアイっつ!やっぱりムカつく!でも、――なんで最後あんなに寂しそうだったんだろう?」
ポッドはふと疑問に思った。
「申し訳ありませんポッド君、私が余計な事をしたせいであなたを傷つけた。でもハルト様を嫌いにならないでください、できれば仲良くして欲しい、、」
ポッドに振り返ったマララはそう言った。
「仲良くできなさそうな雰囲気でしたけど?むしろ煽られたのですが、、」
「……ハルト様には、支える方が必要なのです
「?」
「ずっと一人でしたから。……本当はもっと思いやりのある方なのですよ。環境があの方をああも変えてしまった。あの鋭い物言いかたは攻撃してくる者達から、身を守るための防御なのです。口だけは達者ですが、きっと心の中はいつも誰かに助けを求めている……」
「全然そう見えなさそうでしたが、、むしろ他人なんていらないと考えていそうじゃないですか?」
「ふふ、そうです、その通りなのです、そしてそれを実行できてしまう。あの方は一人で何でもできすぎてしまった」
「それならいいじゃないんですか?」
「よくはありません。でもそのあり方を私は否定できない。……本当は私以外にも頼れる方が必要だと常々思っておりました、ですから……ポッド君」
「?」
「どうかポッド君、――ハルト様のお友達になってくれませんか?」
「え、なんで僕なんですか?」
「…君だからこそです。先ほどのやり取りで確信しました。あなたならきっとハルト様と仲良くなれる」
「微塵もそんな雰囲気なかったと思うのですが。。」
「ふふ、貴方はとても正直ですね……それとよかったらこれを」
――カサッ
そう言うとマララはポッドに紙切れを渡した。
「これは?」
「これも何かの縁でしょう、そちらの連絡先と紋様があればハルト様に繋がる、いわば通行証のようなもの」
「!こんな大切なもの僕いただけません!」
「いえ、持っていて欲しいのです、使う使わないは貴方次第です。帰って捨てるのも、誰かに売るでも構いません」
「?!」
「私はこの奇妙な、ハルト様と貴方の縁を……切らせたくないのです、どうか」
そう言うとマララはポッドに紙切れを渡してハルトの後を追った。
ポッドは放心してその場に突っ立ったままその紙を見つめていた。
……
「ハルト様……なぜポッド君をわざと試験を受けさせるように誘導したのですか?」
マララはハルトと合流し先ほどの事をといかけた。
「気づいていたかのか。なに……かけだよ」
「かけ」
「市民の誰かと情報を交換する事は、選挙にとって有利に事がはこべる。ましてや王族に弱みをにぎられていうる弱者だ。でも駒でも使えなければ意味はない。これは試験をクリアできたらの話だ。受かれば奴は使える人間という事になる」
「……ですが、ポッド君は受けるかどうかわからない、ましてや死ぬかもしれない試験。――受ける受けないは彼にゆだねられる思いますが、」
「 ――彼は受けるだろう」
「?どうしてそう思うのです?」
「……(回想図書館とさっきのポッドの力強い瞳をハルトは思い出していた。ごくごく一般人の取るに足らない少年だった。だがハルトが唯一驚かされた、図書館でであった時も、怪物と戦っていた時も、そしてさっきのやり取りの時も)
どうしてか、か、、なぜなら彼の瞳は、諦めていない――まだ光りを宿していたからな」
ハルトは図書館であった時の彼の瞳を思い出した。夢を語り諦めだと言うような発言をしていたものの、
その瞳は光り輝いていた。
「!……そうですか」
――この方は仮面を貼り付けでながら、他人をどこか信頼していない節があった。最初はハルト様も他者を信用していたが、それがいつしか裏切られるのを繰り返していくうちに相手を信用しなくなっていた。
あなたは、自分の力しか信じず、他人に期待や、信用をしなくなった。
……けれど、お気づきですか、ハルト様。切り捨てていきながらも、貴方はまだ他者の可能性を捨てきれていないことに。
普段なら誘導すらしていないのに、なぜがポッド君にはそれをした。
――不思議ですね彼は。どこにでもいる少年。又聞きだが、彼自身は自分のことを臆病者だと言っていたそうだ。自信がない人間、典型的な内向型、でも他人の為に動く事ができる善人。……それだけのこと。
けれどなぜだか分からないが、、目が離せない子でもある。調査の関係上、彼の経歴、生い立ちを知ってはいた。まだ幼いながらも決して恵まれた環境でない事や今後の事も知ってはいる。
正直、人生を諦観しやさぐれでいてもおかしくないレベルだ。諦めの念がその瞳に宿っていると思っていたが、
彼の目は……
死んでいなかった。
それを感じたからこそ、ハルト様あなたも試したくなったのではないですか?
人を試すその行動は、今までなかった事だと言う事を。この方は気づいているのだろうか――。
「(……どうかこの出会いが、いつか信頼を築き上げる仲になれたらと、、願うばかりだ)」