コメント
1件
独特な雰囲気ですきです…!! ぶくしつです!
お久しぶりですˆ ඉ́ ̫ ඉ̀ ˆ
時間無いながらにちまちま書いてたお話完成したので👏
モブsideなのとあまり綺麗な話ではないのであ、無理かもと思ったら閲覧辞めていただけると😣💦
短めです
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「入って」
その優しい声色になんの躊躇いもなく足を踏み入れた。
扉が開かれた際にこちら側へと漂う冷たい空気はどうやら気のせいではなかったようで部屋は夏だと言うのに随分寒かった。
これはなんの香りだろうか。香でも炊いているのかあまりにも強い匂いが部屋中に広がっている。
「ただいま莉犬」
先程自分へ投げられた声よりも優しく、甘い。
同居人がいたのかと挨拶をしようと目線をあげた。
「初めまし…て、…?」
言いかけて違和感に首を傾げた。
違和感…いやこれは
「ぁの、さとみさん…」
「お茶入れてくるからくつろいでていいよ」
「あ、はい…」
質問は投げかけられないまま莉犬さん?の斜め前の席へと腰掛けた。
静寂が気まずい。
ここにいるのは…。
成績優秀で将来を期待されている医療研究者であるさとみさんから話が聞けると思い飲みに誘ったのを早くも後悔し始めていた。
それにしても寒い。
今が冬であると錯覚してしまいそうな程に。
短い袖を心ばかり手の方へと引き寄せてから腕を摩った。
「ごめん遅くなったね。紅茶だけど大丈夫だったかな」
木のテーブルとガラス食器のぶつかる音が2回。カップの中の液体からは微かに湯気がたっていた。目の前に置かれたのはホットの紅茶だった。
「大丈夫です!!飲めます!」
本当は苦手な紅茶だけれど器から感じる温かさ喉を通るお湯の感覚にそんなことは重要ではなかった。
生き返る。暖かい。
まさかこんな真夏の日に暖かい紅茶に感謝する日がこうようとは思わなかった。
「部屋の温度を下げられなくてね」
「上着を持って来るから少し待っててくれるかな」
そういい再び部屋を出て行ってしまうさとみさん。上着を持ってきてくれるのはありがたいけれどあまり2人きりにしないで欲しい。
電気も付けないままの薄暗い部屋。
カーテンも締め切っている。
もう一口紅茶を口に入れた。もう冷め始めている。
「おまたせ。俺のだと大きいかと思って莉犬の上着を探してたんだ。」
渡された上着はとても暖かそうなコートだった。微かにホコリを被っている。
貸してくれた本人の前ではらうのも申し訳なく思えてそのまま着たけれどやはりホコリの匂いがする。見た目では分からなかったけどどうやら新品のようだった。
「暖かいですありがとうございます。」
安心したように微笑んだあと莉犬さんの隣へと腰を掛けたさとみさん。
流れるようにそれに口付けをした。
思わず目を逸らしてしまう。
「あの莉犬さん…は..えっと、」
「ん?莉犬?」
「はい、あの…」
「?」
どう言葉を選ぶべきか迷ってしまう。頭に浮かぶのはさとみさんを怒らせてしまいそうな言葉ばかりだ。
さとみさんの顔はどこまでも穏やかだ。研究室で見るような張り詰めた顔ではない。莉犬さん..の前…だからだろうか。
「莉犬は人見知りでおとなしいんだ。決して君のことが気に入らない訳ではないから安心して」
壁に飾ってある写真を見た。その写真の莉犬さんはどれも無邪気に笑っている。
「そう..なんですね。」
安心しました。というのが正解だっただろうか。
分からない。
ずっと聞きたかったこと。意を決して聞いてみようと口を開いた。
「あのっ」
「君は人は死んだらどうなると思う?」
「…え?」
「君も研究者だろう?どう思っているのか気になってね。」
あぁそういう事か。
気づかないうちに前のめりになっていた体を引っ込めた。
「どう…なると思っているのが正解なんでしょう。我々は命を預かる立場の医者とは違いますから、研究のために人の死すら利用しますから、」
我々は大切な人を亡くしたからすればあまり誉められる立場ではない。
「魂が入っているだけの容器だという話。君は聞いた事は無い?」
「聞いた事あるかもです。授業で少し」
「そう。それが本当なら死体が再び動き出した時そこに同じ魂は入っているのかな。」
「?」
「死んだら魂はどこかへ行ってしまうらしいね。なら魂が消えた容器はその人として認識してもいいのかな。」
「俺はね。魂なんか無いと思っているよ。死体はもう一度動き出すと信じている。血が無くならない限り。心臓が綺麗に保たれている限り。脳が形を保っている限り。」
「さっきから..なにを、」
その話が意味をするのはまるで…
「俺はね。後悔しているんだ。」
「後悔…?」
「諦められなかった。まだ救えるとありもしない夢を抱いている。」
「莉犬はね。もう息をしていない。」
幾度か投げようとした問に彼は気づいていたのだろうと口を閉じた。
「もし魂を捕まえられるなら他の人間に莉犬の魂を移し変えてさ。そしたら今も莉犬といられたのにね。」
「でもそんなものはないんだ。」
「莉犬の体は二度と動かない。変な気分だ。会っているのにまた会いたいだなんてね。」
椅子にもたれ掛かる体には力が入って居らず項垂れるようにそこにいたこと。
開いた瞳に光がともっていないこと。
こんなに寒い部屋に居続けたであろう莉犬さんがTシャツ1枚でそこにいること。
部屋が異様に寒い事。
部屋の香りが強いこと。
置かれた紅茶が2人分なこと。
コートに埃が被っていること。
そして今。彼が死者蘇生について研究していること。
話を聞きたい1番の目的はそこだった。成績優秀なのに死者蘇生などありえない事に時間を割く理由はなんなのだろうと。
答えはこの部屋に全てあったのだ。
「息をしなくなったからと言ってその人を諦められる理由にはならないんだよ。」
「部屋に…自分をあげて良かったんですか..」
「どうして?」
「君は最近ずっと俺の事調べ回っていただろう?」
「だから教えてあげようと思ってね。」
「でも、だって…こんなこと他の人に言いふらされたらとか考えますよね、」
「そうだね、でもその心配はないから君を部屋にあげたんだ。」
「どうして」
そう言いかけた所で自分の体が正常に動かない事に気がついた。
コートを着て温まったはずなのに震えが止まらない。
腹から這い上がってくる気味の悪い感覚に手を口元へともちあげる。口から吐き出されたのは赤い液体だった。
「なんで、」
「バレたら困るからね。仕方なかったんだよ運が悪かったと思って諦めて。」
「大丈夫死体はしっかり弔ってあげるよ。君がこの部屋に残る必要は無いからね。」
意識が遠のいていく。
全てを後悔したところでもう遅いのだ。
「いくら知り合いでも寒くても出されたものを容易に口にしては駄目だよ。」
「じゃあね。おやすみ」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ねぇ莉犬。何時になったらまた口を開いてくれるの?」
「その目に俺を写してくれる?」
冷たくなった手を握る。子供体温でいつも俺より暖かかったはずの手は二度と俺よりも暖かくなることは無い。
床に転がるそれと目の前の莉犬。同じはずなのに何倍も愛おしく感じるのは莉犬の方なのだ。
いつかは朽ちるとしても今はここに居てくれ願ってしまう。
だからきっと魂なんて存在しない。
「愛してるよ莉犬」
何度目かの口付けをした。