今回は「月が綺麗ですね」を題材にした物語となっております。初心者です。なので、文章とかなにかアドバイスあれば教えて下さると凄く欲しいです!
後これ満月が内容に入ってくるのですが、「お題で小説!」の方ではございません。そっちでは別のを書きます。
꒰ 注意 ꒱
BL(太中)
*
キッチンに行き、ワインセラーの取ってに手をかけた。ワインセラーの中には8段の棚の上に4つずつ、ワインが並んでいる。俺は1番上の段の1番右にあったワインを取り出した。
明日は仕事が丁度一段落つき、久しぶりの休暇である。日頃の自分への労いを込めて今まで集めていたワインの1つを開けることにした。
テーブルにワインを置き、入れるグラスを取ろうと食器棚を開けようとする。指先が扉に触れるか触れないかの所で機械音がそれを遮った。
ピーンポーン
誰だ、?こんな時間に……
動作を中断して顔を顰める。俺の家の場所を知っているのはほんの僅かしかいない。それこそ首領か、あるいは……。玄関まで歩きゆっくりと扉を開けた。
「…やっぱり手前か、クソ太宰」
「やあ、中也」
黒い蓬髪(ほうはつ)に鳶色の瞳。
片手を上げてにこやかな笑顔を向けてきたのは、やはりと言うべきか太宰治だった。もう片方の手には何やら紙袋を持っている。
「何の用だ?嫌がらせなら今日はお断り……
「お邪魔しマース」って勝手に入ってんじゃねぇッ!!」
後ろに目を向けると太宰はずかずかとまるで自分の家の様に家に上がり、リビングへの扉を開けようとしている所だった。太宰は憤慨する俺の姿を目に収めると、ため息をついて言った。
「扉を開けたことが運の尽きだよ。大体、横を通り過ぎる時に止めれば良かったでしょ」
「あ”ぁ”?手前が避けたんだろうが」
不法侵入常習犯に呆れたような目をされる筋合いは無い。全くどうしてこうも此奴は俺の楽しみのタイミングで邪魔をしてくるのか。つくづく間が悪い男だ。
「そんな感じで大丈夫なの?仮にもポートマフィア次期幹部候補でしょ?」
煽るように言葉を重ねてくる此奴に苛立ちが募る。
「手前ッ…!ただ煽りに来ただけならとっとと帰りやがれ!!」
もう既にリビングへと入っている背中に向けて声を荒らげる。玄関の扉を閉めて彼奴の後を追った。最悪の休暇始めになるのは御免だ。
「お、ぃ!?」
こうなったらもう力ずくで引きずりだしてしまおうか、本気でそう思った時、太宰が急にこちらを振り返った。外套をつかもうとしていた手が空気を空振りする。そして外套の代わりに目に止まったのは太宰の手に収まっている瓶だった。
「な、手前それッ!」
驚きで目が丸くなる。それは、そのお酒は…!
「之でもそう言える?」
相手の反応を楽しんでいるような、そんな瞳と目があった。口元はいたずらっ子のように口角が上がっている。
太宰を取ってお酒を手に入れるか、太宰を追い出して1人でお酒を楽しむか。両方を天秤にかける間もなく、勝敗は直ぐに決まった。
何せ目の前にあるお酒は市場にはあまり出回っていないのに加えて、原材料が少し特殊でこの時期にしか手に入らないのだ。
「……今日、だけだからな」
お酒の欲にはあがらえなかった。
太宰の後ろで紙袋がパサりと音を立てて倒れた。
*
テーブルの上に出ていたワインはお役御免となり、ワインセラーの中に再びしまわれることになった。代わりに太宰が持ってきたお酒が2つ分のグラスに注がれた。意気揚々とお酒を注ぐ太宰の様子は本当に年相応のように見えて、それに加えて何時もより目に光が宿っているような感じがした。
誰かが太宰の心に何かを与えたのだろうか。
それはあの下級構成員の織田作之助という男か、それとも眼鏡をかけている彼奴か。
何れにしても俺では無いことは明らかで、少し胸の奥がチリッとする感覚がした。
「よし!じゃあ、中也これ持って!」
太宰に声をかけられハッとなる。いつの間にかお酒は注ぎ終わっていたらしい。差し出された手には俺の分のグラスが収まっていた。
「ありがとな」
お礼を言ってグラスを受け取る。振動が液面をゆらりと揺らした。
乾杯をするのかと思って受け取ったまま待っていると、突然太宰は自分のグラスを持って立ち上がった。そのまま窓の方へと足を進める。
何をしようとしているのか。
不思議に思ってそのまま背中を見送っていると、太宰が窓の鍵に手をかけた。カラリと軽い音がして夜の涼しい風が部屋に入ってくる。太宰の髪がふわりと舞った。
「今日は外で飲まない?」
太宰の手が窓の外に続くバルコニーを指さす。珍しいなと思いつつも俺は太宰の提案に頷いた。
バルコニーに設置されたテーブルに向かい合わせで座る。気温は丁度良くて風の流れが心地良い。今日は天気が良かった為、星が良く見えた。
空に浮かんだ満月が夜の街を静かに照らしていた。
それはここも例外では無くて、この一瞬だけ光の世界に足を踏み入れたかの様だった。
「「カンパイ」」
2人の声とグラスが重なった。カンと軽やかな音を立て、2人同時にお酒を口に含む。豊潤な香りが鼻腔を刺激した。フルーティーな味が口の中に広がる。
「……!うま」
「ね、美味しい」
感想を伝えあった後、暫く無言の時間が続いた。どちらも話しかけること無く静かにお酒を飲む。
テーブルはカフェによくあるものと同じぐらいの大きさなので相手の顔がよく見えた。白く透明な肌に顔のパーツが行儀よく収まっていて、どこから見ても顔の良さがはっきりと分かる。細くしなやかな指先が流れるように目の前で動いた。どうやら1杯目が飲み終わったようで、次の2杯目がグラスに注がれる。瓶を持ち上げる時、夜風に吹かれてさらりと目元に前髪が落ちた。太宰が顔を上げて、鳶色の瞳と目が合った。なんだかどぎまぎしてしまって慌てて目を反らした。この夜の雰囲気のせいだろうか。顔だけは良いんだよな、と思いながら見ていたせいかもしれない。彼奴の顔をまともに見ることが出来なくて下を向いてお酒を飲んだ。
暫く経って、よく考えたら摘みも何か持ってくるべきだったかな、と思い始めた時、ぽつりと静寂が破られた。
「……月が綺麗ですね」
透き通った、静かな声だった。
最初、誰が言った言葉なのか分からず、でもここには目の前に座っている彼奴しか居ないはずで、だからこそゆっくり視線を前に向けた。
太宰は、
月では無く、まるで愛おしいものを見るような目で俺を見ていた。
その瞳を見た瞬間、ドッと体温が上がった。心臓が早鐘をうち、太宰に聞こえてしまうのではないかと思うほど大きく、まるで体自体が心臓になってしまったかのようだった。先程とは比じゃない熱が生じ、顔が熱くなっていくのを感じる。
何だよ、これ…………。
胸元の服をぎゅっと握りしめ、太宰から目を逸らす。今日の俺は何だかおかしい。必死で平静を取り戻そうと深呼吸をする。そして、この動揺を悟られぬように、かろうじて言葉を返した。
「そうだな」
下を向いたままでしかも囁くように小さな声だったから聞こえたかどうか心配になったが、今の俺にはこれを返すだけで精一杯だった。太宰が椅子から立ち上がり動く気配がする。
返答を間違えただろうか。
顔を上げようとすると、月の光を遮って影が俺に落とされた。
「覚えておいてね。これが”僕”の最後の嫌がらせだよ」
「は、ぁ?」
突然耳元で囁かれた音に、びくりと体がはねた。驚いて声が裏返る。
「じゃあね、中也。今日はありがとう」
最後にこの呟きがかけられ、再び明かりが戻ってくる。太宰はもう出入口の窓の傍に居て、後ろ手に手を振ってバルコニーから出て行った。
バルコニーに出た時と同じように軽い音がなり窓が閉まる。
外に取り残された俺はこの胸の高鳴りはきっとこの空の満月の美しさのせいにしてグラスにまだ残っていたお酒を飲みほした。
テーブルに置かれた空の2つのグラスは月光に照らされて寂しい光を放っていた。
─────その次の日、太宰は俺の前から姿を消した。
コメント
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うわぁぁぁぁぁぁッッッッ最っっっっ高過ぎるッッッ!! 最後の日にこれをやるとは……太宰さん貴方って人は本当に…ッッッ!! 文章力も凄すぎるし中也可愛すぎるしるな先輩天才過ぎるし…好きです(
いや好き!次の話も待ってます!次は22歳になった時バージョンかな?