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翌日の朝。
いつものように、栞月の家の前で蒼寿は待っていた。
「蒼寿、おはよー!」
「……おはよ」
「なんか眠そう?」
「別に」
「昨日遅くまで起きてた?」
「まあ」
「珍しいね」
栞月が隣に並ぶ。
いつもなら自然に歩幅を合わせる蒼寿だったが――
今日は少しだけ無言だった。
「……蒼寿?」
「ん?」
「今日、静かじゃない?」
「そう?」
「うん」
「普通だけど」
「絶対普通じゃない」
栞月が顔を覗き込む。
蒼寿は思わず目を逸らした。
近い。
「……栞月」
「ん?」
「顔、近い」
「え?」
「朝から近い」
「幼なじみなんだからいいじゃん」
「……それ、俺が言ったやつ」
「そうだっけ?」
「言った」
蒼寿は小さく笑った。
「……ほんと、何も考えてないよね」
「失礼!」
⸻
教室に着くと、昨日の男子が栞月のところへやって来た。
「花房さん、おはよ」
「おはよ!」
「昨日言ってたやつ……」
男子が小さな紙袋を差し出した。
「これ」
「え?」
「昨日、話したかったのこれなんだ」
「なに?」
栞月が袋を受け取る。
その瞬間。
「栞月」
後ろから蒼寿の声。
「……何してるの?」
いつもと同じ優しい声。
だけど――
目が全然笑っていない。
「蒼寿! これもらった!」
「……何?」
「昨日話してたやつなんだって」
「ふーん」
蒼寿が紙袋を見る。
「誰から?」
「え?」
「それ」
「この子」
「……そっか」
蒼寿は男子を見る。
「ありがと」
「え?」
「栞月に渡してくれて」
「……う、うん」
なぜか男子の方が圧に負けている。
「じゃあ俺、席戻るね」
男子が去っていく。
栞月は袋を眺めながら、
「何だろ〜」
と楽しそうに呟いた。
蒼寿はその隣で、
「……開けないの?」
「今?」
「うん」
「蒼寿も見る?」
「……見る」
二人で中を見る。
入っていたのは、小さなキーホルダー。
「わ、可愛い!」
栞月が嬉しそうに笑う。
「よかったじゃん」
「うん!」
「……」
「蒼寿?」
「何でもない」
「またそれ」
蒼寿は栞月から視線を逸らした。
胸の奥が、なんとなくざわざわする。
――別に。
ただのキーホルダー。
ただの幼なじみ。
そう思おうとする。
なのに。
「これ、カバンにつけよっかな」
その一言に、蒼寿は思わず口を開いた。
「……やだ」
「え?」
「それ、つけないで」
「なんで?」
「……」
理由なんて言えるわけがない。
『他の男子からもらったものを毎日持ち歩いてほしくない』
なんて。
「……なんとなく」
「なんとなく!?」
「うん」
「変なの〜」
栞月は笑った。
「じゃあ蒼寿が何かくれたら考える」
「……え?」
「蒼寿からもらったものなら、絶対つける」
「…………」
今度は蒼寿が固まった。
「……それ、本気?」
「もちろん!」
栞月は何気なく言っただけ。
でも蒼寿にとっては、とんでもない一言だった。
「……分かった」
「何が?」
「今日、帰り寄り道する」
「どこ行くの?」
「秘密」
⸻
放課後。
蒼寿に連れていかれたのは、駅前の小さな雑貨屋だった。
「何ここ?」
「好きなの選んで」
「え?」
「一個」
「なんで?」
「俺からのプレゼント」
「え、いいの!?」
栞月の顔がぱっと明るくなる。
その笑顔を見て、蒼寿も嬉しそうに笑った。
「うん」
栞月は店内を見回す。
「これ可愛い!」
手に取ったのは、小さな月のチャーム。
「これにする!」
「月?」
「うん。可愛いし!」
「……栞月っぽい」
「私っぽい?」
「なんとなく」
会計を済ませる。
店を出たところで、蒼寿はチャームを栞月の手のひらに乗せた。
「はい」
「ありがとう!」
栞月はすぐにスクールバッグにつける。
「どう?」
「……似合ってる」
「ほんと?」
「うん」
蒼寿は満足そうに笑った。
そして――
「じゃあ、あれは?」
「え?」
「昨日もらったやつ」
「あ!」
栞月がバッグを見る。
「外す?」
「……うん」
「蒼寿、嫉妬してる?」
「してない」
即答。
「ほんと?」
「ほんと」
「顔赤いけど」
「暑いだけ」
「今日そんな暑くないよ?」
「……うるさい」
栞月が笑う。
「じゃあこれ、大事にするね」
月のチャームを指で触れる。
「蒼寿からもらったものだから」
「…………」
その言葉だけで、蒼寿の機嫌は一気に直った。
「……ならいい」
「単純!」
「栞月が悪い」
「なんで!?」
「俺のこと、もっと大事にして」
「え?」
「……幼なじみとして」
蒼寿は誤魔化すように前を向いた。
栞月は首を傾げる。
「もちろん大事だよ?」
「…………」
――今は、それでいい。
でも。
いつか絶対に。
「幼なじみとして」じゃなくて、「好きな人として大事」って言わせる。
蒼寿は、バッグで揺れる月のチャームを見ながらそう決めた。
一方の栞月は――
「蒼寿って今日なんか優しいね」
「いつも優しいでしょ」
「そうだっけ?」
「……覚えといて」
「何を?」
「俺が栞月のこと、どれだけ大事にしてるか」
「?」
「……ほんと鈍い」
蒼寿の小さなため息が、夕暮れの街に溶けていった。
コメント
1件
いやもう、蒼寿の嫉妬が可愛すぎるだろ…!「つけないで」って思わず口に出しちゃうとこ、めっちゃ分かるわ。それで自分からプレゼントして、栞月がつけてくれたら機嫌直るとか単純すぎて笑った。でも「大事にして」って言いながら「幼なじみとして」って濁す感じ、もどかしいけど青春だなあ。月のチャーム、ちゃんと伏線回収してて気持ちよかった。続き気になる!