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窓の外は静かで、遠くで聞こえる車の音だけが微かに耳に届く。カーテンの隙間から入り込む街灯の光が、薄い影を床に落としていた。
俺はソファに座り、水の入ったグラスを手に持ったまま、その揺れる水面をただぼんやりと見つめていた。
特に理由はなかった。仕事も概ね順調。
しかし、こうして一人きりになった時、色々と考えてしまって気分が落ちてくることは少なくない。
一度考え出すと、どんどん悪い方に考えてしまう癖は、大人になった今も変わらない。
こうなると、浮かんでくるのは自分の欠点ばかり。
──特別な人達ばかりの芸能界という世界は、ただ頑張っているだけでは評価されない。
この世界で戦うには、自分はあまりに脆く、普通なのだ。
それでも平気なふりで、自信いっぱいの顔をしてステージに立つ。
そんなことを考えながら、自嘲気味に息を吐いた。その時だった。
ドアが音もなく開いた。振り返るまでもなく、その気配だけで誰だか分かる。俺の部屋に勝手に入ってくるのは、兄しかいない。
「やっぱりなー」
軽い調子のひでの声が、暗い部屋に響いた。
俺の顔を見てすぐ、予想通りと言うように。
「……かってに入ってくるなよ」
「お前が呼んだからだろ?」
ふざけたような言い方に、俺は反射的に顔をしかめた。
「呼んでない」
短く答えたが、俺の声には明らかに力がなかった。背中に感じるひでの視線が、何かを見透かすようで居心地が悪い。
部屋の空気が少し重たくなった気がした。
「お前さ、隠してるつもりなんだろうけど、」
ひでが近づく気配がした。
「俺にはバレバレだよ、全部」
思わず背中が強張った。振り返らず、少しでも平静を装おうとわざと柔らかいトーンで返した。
「何の話だよ」
「自分が嫌いだって話?」
__その言葉が静かに、それでいて鋭く俺の胸に突き刺さる。
息を飲んだ。
何も言い返せない。兄の言葉が図星だったからだ。自分の身体が小さく震えるのを感じた。
「そういう時のお前、すげえ分かりやすい顔してるよ」
そう言って、ひではさらに近づいてきた。気づけばもう、すぐ目の前に立っている。顔を上げれば、その表情が嫌でも見えてしまう距離だ。
「……放っといてくれ」
言葉を絞り出すように呟く。でもその声は弱々しく、自分でも情けなくなる。
「放っとけるわけないだろ」
ひでは俺の顎に手を添え、強引に顔を上げさせた。あまりにも近すぎて、目をそらしたくてもそらせない。
「お前は、自分の悪いとこばっかり見てるけどさ」
ひでは俺の目をじっと見つめながら続ける。
「俺から見たら、その悪いとこって全部が良いところなのに」
そう言うと、ひでは俺の瞼にそっと口づけた。
「……な、なにして…っ」
驚いて声を上げるが、ひでは全く気にしていない様子だった。
それどころか、さらに顔を近づけてくる。
「お前が嫌いなところ、俺が全部愛してるって教えてやってんの」
その囁きが耳元に響く。心臓の鼓動がうるさいほど早くなった。ひではさらに俺の頬に唇を落とし、唇の端に触れた。
「や、やめろ……」
震える声で言うけど、抵抗する力が湧いてこない。身体が固まって動けない。
ひではそんな俺を見下ろしながら微笑んだ。
「やめてほしいなら、ちゃんと言えよ。でもお前、言えないだろ?」
ひでの指先が俺の首筋に触れる。その指先が滑らかに動き、まるで俺を支配しようとしているようだった。
「逃げようとしても無駄だぞ。お前の考えてることなんか全部見えてるんだから」
言葉とは裏腹に、その声色は酷く優しかった。
____
もう抵抗する気力なんてなかった。
ただ、胸の奥で渦巻く罪悪感と、兄の言葉に縋りたい自分の気持ちの狭間で揺れていた。
触れられるたび、俺の中の何かが静かに崩れていく。
その唇は喉元を辿り、鎖骨に落ちる。
ひでの柔らかい金髪が顎を掠めてくすぐったい。
余裕の無い目で見つめられ、自分の呼吸が浅くなるのを感じた。
俺は何も言わず、ひでの首に腕を回し、自分の胸に引き寄せた。
その瞬間、ひでは小さく舌打ちをして、性急に羽織っていただけのパーカーが肩から落とされる。
タンクトップ越しの胸に舌をぐるりと押し付けられ、思わず声が漏れる。
「ぁ……ゃっ…」
自分から出た声とは思えないほど甘ったるい媚びたような声で、耳を塞ぎたくなった。
____
突然、胸の尖りを舌で押しつぶされ、全身がビクンと揺れる。
「………アッ、」
「……強くされるのがいいんだ?えろいねお前」
そんな意地悪を言ってくる兄に、あまりの羞恥で涙が零れた。
向けられた目はいつもの穏やかな兄のものじゃなく、熱く欲が滲んだ色をしていて、頭がドロリと溶けそうになる。
「ぁ……はぁっ……ァンッ、」
再び胸元に顔を埋めたひでは、より主張を強めた尖りを食むように優しく噛んだり、舌で潰したりして遊ぶ。
力が抜け、呼吸が荒くなる。
目線の下にある丸い頭に縋るように抱きつくと、より一層強く吸いつかれる。
「ア゙ッ……、…もぅそれ、ゃ……っ」
「…腰、揺れてる」
指摘されて初めて気づき、顔に熱が集まる。
俺は無意識に腰を揺らして、ソファに膝を立てるひでの太ももに、そこを擦り付けていた。
「……だって、……ひでのせいだろ……っ」
「そうだね。俺のせいだ」
ひでは溶けそうなほど甘い瞳を細めて、優しく笑った。
____
腹筋に舌を滑らせ、臍をぐるりと舐められる。
ひでが口付けたところ全てに熱が残るのを感じた。
__スウェットを下ろされ露になった布越しのそれは、苦しそうに膨らんで、藍色の布にシミを作っていた。
ひでの頭が下がり、そこに高い鼻が掠ったことに気づいて、慌てて両手で丸い頭を掴んだ。
「…ひでっ、そこだめ!」
そんな俺を気にも止めずに、そのままスンッと鼻を鳴らした。
「…………も…、さいあく……」
ひではそこにもキスをして、小さく啄んだ。
観念した俺は、諦めて顔を覆い、声を漏らすことしか出来なかった。
____
「しゅーと、声抑えないで……っ」
「……んっ…んっ…んアッ、ヤダぁっ……」
口に押し当てていた腕を剥ぎ取られ、耳を塞ぎたくなるような自分の声が部屋に響く。
「俺にぜんぶ、かわいいから、……その声も……、ぜんぶ…っ」
「…ァっ……も、…イっ、」
トンを奥を突かれ、目の前が白く弾ける。
身体が大きく痙攣し、俺は呆気なく果てた。
震えて力が入らない体ごとすっぽりと包まれる。
「…お前はそのままでいいんだよ」
__まるで檻の中に閉じ込められたようだった。
しかし、俺はそこから逃げることはできず、その中に留まることを選んでしまう。
俺たちは間違っている。
でも、この檻の心地良さに、俺はどうしようもなく抗えなかった。