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天空神・ルグナツァリオの、私に対するお願いとは、一体どのような願いだろうか。


「聞かせてもらえる?」

『出来る限り、”楽園”の外の生命体を、徒に攻撃しないでもらいたいんだ』


私の力ならば、”楽園”の内外関係なく破壊の限りを尽くすことは可能だろうからな。ルグナツァリオが私をそういう目で見るのも、不思議ではない。しかし、私のことを最初から見続けていたというのなら、ちょっと失礼じゃないか?

私が何のために”楽園”の外へ赴き、人間達の元へ向かうのか分かっている筈だ。


「元よりそんなことをするつもりは無いさ。私の目的は破壊では無いんだ。”楽園”の外に求めるものは、まず第一に情報、次に技術、そして三つ目に加工品。それぐらいの物さ」

『今はそれでいいかもしれない。だが、知的生命体、特に人間と言う生き物は、貴女が考えている以上に多種多様だ。いずれ貴女は、そんな人間達に対して、種族そのものに敵意を抱きかねない』


多種多様であると言うならば、人間達に対して偏見を持たないで欲しい、ということで良いのだろうか?

確かに、私は人間と言う生き物をよく知らない。直接見たことがあるのも、今のところ死体だけだ。人間達の性格や思想は、実際に会って関りを持ってみなければ分からない。


そうして人間達と関わっていく内に私にも当然、心境に変化が出てくるだろう。その時に一部の人間達を理由に、人間全体を評価することを、ルグナツァリオは望んでいないのだろうな。いい意味でも、悪い意味でも。


「貴方の言いたいことは分かったし、貴方の要求も拒否するつもりは無いよ」

『ありがとう。実を言うと貴女の前に姿を現したのは、このお願いをしたかったからなんだ』


それが理由で、か。しかし解せないな。彼ほどの存在ならば、お願いなどと下手に出ることも無いと思うのだが。

彼は先程サラッと述べたが、私の所有する魔力量は彼よりも大きいと語っていた。それが原因か?


「遜る様な頼み方をしたのは、私の魔力量が貴方の魔力量を上回っているからかな?」

『それもあるが、正直なところ、貴女が私を滅ぼそうとした場合、私ではどうにもできないのさ。実際に一度、私は貴女に滅ぼされかけているからね』


滅ぼされかけている?彼とは初対面の筈だが…。

一体、何が原因で………ってあれか!!例の雨雲を消し飛ばした時の!!


「もしかしなくても、雨雲を消し飛ばした先に、貴方が…?」

『あぁ、見事に直撃してしまったよ。あの時ばかりは、己の死を覚悟したものだ。ちなみに、私はそれまでに死を覚悟した経験は無かったりする』


なんてこった。まさかそんなことになっていたとは。あの時の魔力の奔流はつくづくやらかしてくれたというわけだ。


「その、何というか、済まない…。それにしても、よく無事でいてくれたね…」

『貴女がアレを放つ向きが此方を向いているのが、放たれる前に確認できたからだね。此方に奔流が届く前に全力で防壁を張ることができなければ、間違いなく滅んでいたよ。尤も、防壁を張ったところでその防壁を突き破られて滅びかけていたのだけれどね…。まぁ、謝罪の必要は無いよ。私は今こうして、生きて貴女と語り合うことができているのだからね。それに、例え私が滅びたとしても、数百年ほど時間を掛ければ私の記憶や意識は、再び肉体を得て蘇る』


彼ほどの者が全力で防壁を張っても防ぐことの出来ない威力だったのか。本当に、よく無事だったな。

それにしても、肉体が滅びても復活が可能なのか…。私が言えたことでは無いかもしれないが、紙と崇められているだけあってルグナツァリオも大概、超常的な存在だな。


「しかし、誰だか知らないが私が色々とやらかした大元の原因であるあの雨雲を用意した者には、一度文句を言ってやらなければ気が済まないな」

『貴女の気持ちも分からなくは無いが、彼女を、魔王をあまり責めないでやってくれると有難い』


魔王とな?王と呼ぶ以上、何かしらの上に立つ存在のようだが、一体何者なのだろう?


「その、魔王と言うのは?」

『それを説明するには魔王の民である魔族について説明が必要だが、聞くかい?』

「是非、お願いしよう。」


また長い話になるかもしれないが、今回は”楽園”に干渉してきた者についての話だ。しっかりと聞いておいた方が良いだろう。


『魔族も人間達同様、この世界に生きる、私達が生み出した生命体を祖とする知的生命体だ』

「人間達と区別するのは、何か明確な違いがあるから?」


彼等が生み出した生物を祖とするならば、人間達と区別する理由は何なのか。姿かたちが違うのだろうか?


『人間は多少の差異はあれど、総じて二足歩行の形態をしているが、魔族には獣とあまり変わらない姿の者も居るよ。だが、そこはあまり重要なことではない。祖になった生命体が違うんだ』

「今いる生物の祖は複数存在するというで良いのかな?」

「ああ。人間以外にも、今生きている生命体の祖になった者達がいるのだけれど、そのほとんどはこの星の原生生物を元にして生み出している。だが、魔族の祖だけは違う」


なるほど。今この星で生きているほとんどの生命体の祖が、か。

つまり、今この星に生きる生物の殆どが星の外から来たルグナツァリオ達と、この星との間に産まれた子供と考えても良いのかもしれない。それならばこの星に生きる者達を慈しみ、見守り続けるのも納得ができる。


ルグナツァリオからは、何故か後ろめたさを感じるが、今は話の腰を折るところでは無いだろう。

殆どの生命体がこの星と彼等との間に生まれた子だとすると、魔族の祖とはどのようにして生まれたのだろうか?


『魔族が魔族と呼ばれる所以は、その祖が魔力から産まれた存在であるからだ。こういう言い方はあまり好かないが、ある意味、魔法で生み出された生命体、と言えるだろうね』

「ならば、貴方達は魔力と言うエネルギー体だけで、一つの命を生み出したというのか!?」


ルグナツァリオは静かに頷く。

だとするならば、流石に驚きを隠せない。いくら彼と同格の存在が複数いたからと言って、無から生命体を作り出したのだ。私ではどうやってもできる気がしない。


「途方もない話だな。私ではそれはできそうもない。大変だったんじゃないか?」

『実際のところ、私達も随分と無茶をしてね。そうして産まれた生命体が、この星で私達が最初に生み出した生命体になるのだけれど、しばらくはそれ以外の生命体を生み出すことができなくなってしまったよ』


流石に、無から生命を生み出したことによってかなりの負担が掛かったらしい。だが、その生命体が彼等の生み出した最初の生命体だったとはな。

てっきり最初に生み出した生命体は、もっと原始的で単純な生物だと思っていたのだ。


『私達が生み出した最初の生命体は、この星の原生生物から見れば、あまりにも生物強度が低くてね。それ故に、私達は必死になって生み出した我が子を死なせないために、その子を魔力で覆い、魔力を認識させ、魔力による事象の発現させる術を教えた』

「それが魔術の元になった、ということで良いのかな?」

『そうだね。そうしてこの星の生命体と子を成してくれれば良かったのだけれど、そうはいかなかった。生物としての作りが、根本的に異なるためだろう』

「だから、最初の生命体が子を成せるように、貴方達はこの星の原生生物を元に、新たに生命体を作り出した」

『その通り。結果、最初の我が子は、この星で子孫を残すことができるようになった。それが魔族の始まりだ』


壮大な話だな。彼等の感覚で話しているだろうから、それまでの間にかなり長い時間が掛かってるんじゃないだろうか?それに、気になることがある。


「子を成したのは、一種類だけでは無かったりする?」

『勿論だとも。最初の生命体は、私達が生み出した、他の全ての生命体との間に子を成したよ。だからこそ、魔族達の姿は人間達以上に多種多様に存在する』


それは凄いな。と言うか、生物の種族関係なしに子を成すことができるって、とんでもないことじゃないだろうか?一体どのような姿をしていたのだろうか?

…駄目だ。全く想像がつかない。素直に教えてもらうとしよう。


「貴方達が最初に生み出した生命体の姿が想像がつかないのだけれど、どのような姿をしていたの?とてもじゃないけれど、人間のような二足歩行の生命体とは思えない」

『そうだね。最初に私達が生み出した生命体は、多くの種族の子を成せるようにしたかったため、相手の種族に、性別問わず変身出来る力を最初から与えていたよ。本来の姿は、変幻自在に他の生物の姿を模れる不定形の粘性生物だ』


なるほど。一時的に相手の種族に変身することで自分の子を増やそうとしたのか。

しかし、生物の作りが根本的に違っているため子を成せなかった。だから、その粘性生物と同じ因子を持った生命体を生み出して子を成せるようにしたのか。そして、その試みは上手くいったようだ。


「貴方達が新たに生み出した生命体は当然、元になった原生生物との間に子を成せたのだろうね」

『ああ、新たに生み出した生命体と、この星の原生生物との間に子が産まれ、その子達が更に子を成していき、今の生態系が出来上がっていった。とても、永い年月が過ぎた。今ではもう、生み出した子達の因子が広まり切って、純粋な原生生物は確認できないほどにね』


それが理由か?彼が生み出した生命体を話す際に、後ろめたさを感じたのは、自分達の干渉によって、この星の純粋な原生生物がいなくなってしまったからなのか?


「純粋な原生生物は居なくなってしまったかもしれないけど、その生物達の因子は確実に受け継がれているのだろう?あまり後ろめたく思うのは、今を生きている者達に対して失礼だと、私は思うよ?」

『貴女の言う通りだ。仲間にも、友にも、同じことを何度も言われているよ』


私が思うに、ルグナツァリオは気負いやすい性格をしていると思う。だが、彼にはそれを窘めてくれる仲間も友もちゃんといるようだ。何かの要因で突然暴挙を犯すようなことは無いだろう。


『話を戻そうか。新しく生まれが魔族達の中でも特に強い力を持つことができた者がいてね。ここの内容を詳しく話すと、更に長い話になるけれど、聞きたいかね?』


そうだった。壮大な話だったから頭から抜けていたが、魔王についての話を聞きたかったのだ。ここから更に話が長くなると、どれだけ時間が掛かるか分からない。


「その辺りは、興味が無いわけでは無いけれど、またの機会にお願いするよ」

『そうかい?では、簡潔に話すけれど、強い力を持った者が最終的に魔族を統括し、国を興し、魔王となった。彼等は代替わりをしていき、今では魔族としてはかなり若い少女が、魔王を務めているよ』


本当に簡潔に述べたな。多分、詳しく話されたら聞き入っていたからいいけれど。


「で、その魔王を務めている少女が、”楽園”に特別な雨を降らせた理由は聞けるのかな?」

『無論、話すとも。事情も説明せずに要望を求めるつもりは無いさ』


出会って間もないが、彼は随分と律儀な性格をしているようだ。相手を一方的に利用するようなことを良しとしないのかもしれない。


『まず、この星に住む者達が貴女の魔力を観測したのは、私も含め、貴女が目覚めるよりもほんの少し前になる。貴女が目覚めるまでの間に、各国で観測された魔力の対応に忙殺されていたところだ。魔王の治める国は、君が最初に寝床にしていたあの崖の向こう側でね。それなりに距離はあるが、それでも、国としては貴女の住まいから最も近い位置にあるんだ』

「となると、当然、観測した魔力の正体を知りたくなるか」

『ああ、そうして貴女の魔力を精査し、それが生物である可能性が高いと知った時、魔王は自分達の国へ干渉されないよう、貴女のいる”楽園”の範囲を凍結封印しようと試みたんだ』


あの時は魔力を微塵も抑えていなかったからな。近くにいたのなら相当な脅威として見るのは自然なことだ。

何らかの勝算があったのだろうな。少々気が早い気もするが、大勢の命を預かる身としては、私がいる範囲の”楽園”を凍結封印しようと考えるのも、おかしくないのかもしれない。

まぁ、その魔王とやらに一言文句を言ってはやりたいのは確かだが、結果的には魔王が奪った命は無かったのだ。

もとより雨雲を仕掛けた相手をどうこうするつもりは無かったのだし。軽く小言を言うくらいで良しとするさ。


『どうか、魔王をあまり責めないでやって欲しい。あれで、幼くして苦労を抱えているんだ。』

「もとよりあまり責める気は無いよ。だが、此方が迷惑を被ったのも事実だ。多少の小言ぐらいは言わせてもらうよ?」

『構わないとも。彼女は少々、この時代としては強すぎる力を持っているからね。少し強気に出すぎたのだろう。私の要望を受け入れてくれて感謝するよ。”楽園”の主、ノア。最初のお願いも含め、礼と言っては何だが、貴女が知りたいことならば、私の知る限りの全てを答えよう』


今の私にとっては望外な報酬じゃないか。流石に気前が良すぎやしないか?


折角の申し出だけれど、この報酬を、そのまま受け取るわけにはいかないな。

ドラ姫様が往く!!

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