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頭バグってる作品です。
俺の彼女――ないちゃんは、可愛い。泣きぼくろのある目元も、柔らかい髪も、笑った時のえくぼも、全部可愛い。
……ただ、一つだけ問題がある。
ちょっとだけヤンデレだ。
いや、「ちょっとだけ」って言い切るのも、もしかしたら俺の願望かもしれない。周囲からしたら「だいぶ」なのかもしれないが、そんなことを認めると俺が怖い目に遭うので深く考えないでおく。
今日は昼休み。俺はいつものようにパンを買いに購買へ向かい――向かおうとした瞬間、後ろから腕をがっしり掴まれた。
「……りうら? どこ行くの?」
振り向くと、ないちゃんがじとーっとした目で俺を見上げていた。
「いや、購買。パン買いに行こうと思って」
「ふぅん……購買、ねぇ」
じりじりと目が細くなっていく。
「……ひとりで?」
「ひとりで」
「ほんとに?」
「ほんとに」
間髪入れずに問い詰めてくる姿勢、さすが俺の彼女である。
「……もしかしてさぁ」
ないちゃんは俺の腕を掴んだまま、ぐいっと身体を寄せてくる。
「購買の……パン売ってる、あの可愛いお姉さん目当て?」
「違う! 完全にパン目当てだよ!」
俺、パン食べたいだけなんだけど。
「嘘。絶対嘘。りうらってさ、ああいう姉系のお姉さん好きでしょ?」
「好きとかじゃなくて、ただパンを売ってくれるだけの人だよ?」
「ふぅん……」
ないちゃんの眉がすっと上がる。
「じゃあ証拠見せて?」
「何の!?」
「『あたしのほうが好きだよ』って言って?」
はい出た。
俺の彼女は、怒ると甘やかされ要求スイッチが入るタイプだ。
「……え、ここで?」
「なんで恥ずかしがるの? 別にいいじゃん。彼氏なんだから」
頬を少し膨らませる。
これがまた可愛いんだよなぁ……って顔を見てたら、余裕そうな笑顔になった。
「あ、今『かわいい』とか思ったでしょ?」
「思ってない」
本当は思ってたけど言ったら調子に乗るから言わない。
「ふーん……じゃあさ」
ないちゃんは俺の首に腕を回して、ひきよせてきた。
「もっと好きって言わせる」
「ちょ、ちょっと待て、近い近い近い‼︎」
けれど、彼女は絶対離さない。
「早く言って? 言わないとお昼ずっと抱きしめてるから」
「脅しじゃねぇか……」
周りがこっち見てるんですけど……!
「……あたしのほうが、可愛い?」
「……可愛いよ」
「甘い声で言って?」
「無理だよ!!」
ないちゃんはにこ〜っと笑って、さらに腕をぎゅっ。
「じゃあ、購買行くのやめよっか」
「……俺のパン……」
「もー、あたしの彼氏なんだからさぁ。パンよりあたし優先でしょ?」
「いや腹減ってるんだよ……」
「じゃ、あたしがパン買ってきてあげる」
「神か?」
「その代わり――」
にやり、と悪い笑み。
「帰りにスイーツ奢って?」
「………………交渉上手すぎるだろ」
「彼女だからね?」
……彼女って名乗ればなんでも許されると思ってない?
「じゃ、ついてきて。一緒に行こ?」
「いいけど、さっき“行かせない”って顔してただろ」
「だって……りうらがあたし以外の女の人と話すの、嫌なんだもん」
ぽつりと、弱い声。
その瞬間、俺は胸を掴まれたみたいにキュッとなった。
「……おい」
「な、なに?」
「そんな顔されたら怒れないだろ」
ないちゃんはびっくりした顔になる。
そして次の瞬間、
「…………っ」
耳まで真っ赤になった。
「な、なにそれ……反則……」
「俺が悪いわけじゃなくない?」
「だって……そんな優しい言い方されたら……」
もじもじして、視線を泳がせるないちゃん。
ほんと、このギャップがズルい。
「……うれしいじゃん……」
「ほら、行くぞ」
「……ん」
手を繋いだら、ないちゃんの顔がぱぁーっと明るくなった。
「あたしね?」
「ん?」
「りうらがあたしを好きでいてくれるなら、それでなんでもいいの」
「だいぶ重いな」
「重くないよ!」
「めっちゃ重いよ」
ぷくーっと頬を膨らませる。
「だってさ……りうら、かっこいいんだもん。他の女に取られたくないじゃん」
「取られねぇよ」
「ほんと?」
「ほんと」
即答すると、ないちゃんはまた顔を真っ赤にして黙り込んだ。
「……そんな真っ直ぐ言わないでよ……照れる……」
可愛い。
いや、ほんとに可愛い。
でも本人に言うと調子に乗るし、“じゃあもっと言って?”って無限ループになるから心の中で留めておく。
「じゃー、パン買って……そのあとスイーツね?」
「……はいはい」
「あと今日はりうらん家行く」
「勝手に決めるよな」
「行くの!」
即答。
「りうら、あたしと一緒にいたくないの?」
「いや、いたいよ」
「じゃあ行くでしょ?」
「……行きます」
「よろしい!」
機嫌がフル回復したようで、ないちゃんは俺の腕にぎゅっと抱きついた。
そしてにんまり笑いながら言った。
「ね、りうら?」
「なんだよ」
ないちゃんは少しだけ照れながら、それでも強気に言いきった。
「ヤンデレ彼女って――単純なんだよ?」
「……いや、自覚あるのかよ」
「あるよ? だってあたし、りうらのことだーいすきだもん」
嬉しいけど、ちょっとだけ怖くて、でもやっぱり可愛い。
これが俺の彼女。
単純で、真っ直ぐで、重くて、可愛い――ヤンデレのないちゃん。
今日もまた、俺の昼休みは彼女に振り回されながら過ぎていくのだった。
ヤンデレ彼女は単純です ― MAXモード ―
世の中には「彼女がちょっと嫉妬深くて困る~」なんて甘い悩みを言っている奴がいるが、そんなのは正直羨ましいくらいかわいいもんだ。
俺の彼女・ないちゃんは、嫉妬深いとかそういう次元じゃない。
純度100%ヤンデレMAX
しかも本人に自覚があるタイプだ。
だけど……これがまた、めちゃくちゃ可愛いから困る。
◆朝から修羅場はじまる
「りうら、おはよー♡」
朝教室に入ると同時に、ないちゃんが駆け寄ってきて俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。
「お、おはよ」
「今日はね? りうらが誰とも話さなくていいように、スケジュール全部考えてきたから♡」
「……スケジュール?」
「そう♡ “りうらが余計な女と話しそうな時間帯”を全部潰しておいたよ♡」
なんか聞き捨てならない単語が混ざっている。
「まずね、一限目の前に寄ってくるあのロングの女の子、りうらに“プリント落とした?”とか聞いてくるでしょ?」
「ああ、たまにあるな」
「今日からその子、別の教室に移動になったから!」
「……ちょっと待って。なんで?」
「んふふ……♡ なんか先生でてんやわんやしてたけど、うまく誘導できた♡」
──ヤバい。
これ以上深掘りすると俺の精神が死ぬやつだ。
「二限目のあと、りうらのこと好きって言ってた陸上部の子、覚えてる?」
「いや、知らないけど?」
「あの子、今日から陸上部やめてバスケ部に入ったよ」
「なんで??」
「ほら、バスケって放課後に体育館行くでしょ? りうらはグラウンド側の道通るから絶対会わないじゃん♡」
「……お前が誘導したのか?」
「うん♡」
怖い。
でも笑ってしまうのは、ないちゃん本人がめちゃくちゃ楽しそうに言うからだ。
◆昼休みの過保護
昼休み。俺は弁当を持って屋上に向かおうとしていた。
が、ないちゃんが先回りして入口を塞いでいた。
「どこ行くの?」
「いや、屋上で飯食おうかなって」
「ダメ♡」
「何がダメなんだよ」
「屋上って、風が強くてスカートひらひらする女いるじゃん?」
「知らねぇよ」
「昨日いたの! だからダメ!」
理由がおかしすぎる。
「じゃ、教室でいいよ」
「ダメ♡」
「なんで?」
「教室にはね、りうらのこと見てる女の子が二人、机の位置計算したら“20度角度を傾ければりうらを視界に入れられる席”に座ってたの」
「そんな数学みたいな分析しなくていいから」
「だから、今日は別の場所♡」
ないちゃんは俺の手をぐいっと引っ張って――
「保健室いこ♡」
「なんで保健室!?」
「先生いなかったから♡ 鍵も開いてた♡」
「鍵勝手に開けたの!?」
「開いてたんだよぉ~? たぶん♡」
絶対嘘だ。
◆保健室、そして監視スタート
「あたしね、今日ね、これ持ってきたの」
ないちゃんはカバンからノートを取り出した。
「何それ」
「“りうら観察ノート”♡」
「やめてくれ」
表紙にハートと俺の名前が大量に書いてあった。怖いけど、ちょっと可愛い。
「今日の観察項目はね――」
ないちゃんはページをめくりながら読み上げる。
「① りうらが笑った回数
② りうらが女と話した秒数
③ りうらがあたしの手を握り返した瞬間の心拍数」
「③どうやって計るんだよ」
「りうらの手、脈でわかるよ?♡」
そのまま俺の手首を掴んで、じぃ〜っと見つめてくる。
「……今日、心拍速くない?」
「お前のせいだよ!!」
「……うれしい♡」
ほわっと顔を赤くして笑う。
……もうダメだろこの子。
いや、俺もだいぶ甘やかしてる気がするけど。
◆事件発生
弁当を食べ終わった頃、保健室のドアがガラッと開いた。
「ん? 誰かいるのか?」
保健の先生だった。
「やっば……!」
「り、りうら、隠れて!!」
俺はないちゃんに押されてベッドのカーテンの裏に隠された。
「ないこさん? 何してるんだ?」
「べっ別にぃ!? 具合悪くて、休んでたんですぅ!!」
演技が下手すぎる。
「そうか。ちょっと熱測るか?」
「だっ大丈夫です!! むしろ元気すぎて困ってるくらいで!!」
元気なら帰れよ。
先生がベッドのカーテンに手を伸ばす。
(やばいやばいやばい!!)
その瞬間、ないちゃんが先生の手を掴む。
「そ、それ以上来たら……ダメです!!」
「な、ないこさん……?」
「この奥には……危険物が……!!」
俺のことを危険物扱いすな。
先生は呆れた顔をして出ていった。
ないちゃんはカーテンを開けて俺のところに飛び込んでくる。
「りうらぁ……無事でよかった……!!」
「いや、別に危険じゃないから」
「危険だよ! 先生が入ってきたら……二人でいるのバレちゃうでしょ!!」
「別にバレても平気だろ」
「ダメ!! バレたら女が寄ってくる!!」
「なんでだよ」
「だってりうら、かっこいいもん……!!」
言い切ったあと、ないちゃんの顔が真っ赤に染まる。
「……か、かっこいいんだよ……」
その言葉が妙に刺さって、俺は照れてしまう。
するとないちゃんの目がきらりと光る。
「ねぇりうら……照れた?」
「……別に」
「照れたよね? 照れたでしょ? 可愛い……!!」
興奮してきた。
ヤンデレMAXのスイッチが入ると、ないちゃんのテンションは異常に上がる。
◆放課後、拘束タイム
「りうらん家、今日いくから!」
「予定聞く気ないよな?」
「あるよ?」
「じゃ聞いてみて」
「今日りうらん家行ってもいい?」
「ダメだよ」
「え、なんで?」
「勉強あるから」
「……じゃ、あたしも一緒にやる!!」
まさかの逆ギレ。
「ねぇりうら……最近、あたしといる時間、減ってない?」
「いや、普通だろ」
「普通じゃない!! 昨日なんて、帰り道にあたしの手を握るまで7秒も間が空いた!!」
「7秒で怒るの!?」
「怒るよ!!」
怖いけど、笑ってしまう。
「りうら……逃げようとした?」
「いや、逃げないけど」
「ほんと?」
ないちゃんがじわじわ距離を詰めてくる。
背中が下駄箱に当たる。
「ほんとに逃げない……?」
上目遣い。
ちょっと涙目。
俺を見る目がまっすぐすぎる。
「逃げないよ」
俺が言うと、ないちゃんはぱぁぁあっと笑顔になった。
「りうら大好きっ!!」
ぎゅーーーーっと抱きついてきた。息ができない。
「ねぇりうら?」
「……ん?」
「ヤンデレってね?」
「怖いだろ普通」
「……違うよ」
ないちゃんは俺の胸に額を押しつけて、にっこり笑う。
「“好きな人は絶対逃がさない”ってだけなんだよ?」
「……だいぶ怖いんだが」
「でもね?」
ないちゃんは俺の手を取って、ぎゅっと握る。
「りうらが“好き”って言ってくれれば、それだけで全部落ち着くんだよ?」
そう言って、無防備に笑う。
その笑顔が、たまらなく可愛い。
「……はいはい。好きだよ」
「っ……!!」
ないちゃんの顔が真っ赤になって固まる。
「り、りうらぁ……♡」
「満足したか?」
「……うん♡ すっごく♡」
「スイッチ切れた?」
「切れた♡」
コロッと落ちついた。
本当に単純なんだよ、この子は。
◆結論:ヤンデレMAXでも単純
ないちゃんはヤンデレMAXだし、
ちょっと怖いし、
たまにやりすぎるけど、
「あたしね、りうらが好きすぎてどうしていいかわかんないだけなんだよ?」
俺を抱きしめながら、そう言った。
……まぁ。
可愛いから、いいか。
「……はいはい。これからもよろしくな」
「うんっ!! 一生よろしくね!!」
元気よく返事する。
――このテンションが、そのまま一生続くんだと思うと、怖いけど楽しい。
ヤンデレ彼女はMAXでも、やっぱり単純でした。