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🩷💛
夕方のスタジオは、いつもより少し静かだった。
「……なあ、仁人」
ソファに寝転がったまま、佐野がぽつりと声をかける。
「なに」
スマホをいじりながら、吉田は顔も上げずに返した。
「今日さ、なんか冷たくない?」
「は?」
ぴたり、と吉田の指が止まる。
「別に普通だけど」
「いやいや、絶対冷たい。俺わかるもん」
「何その自信」
「長年の勘」
「どこで培ったのそれ」
少し間が空く。
佐野はごろっと寝返りを打って、吉田の方を見る。
「……構ってほしいんでしょ」
「は???」
即座に顔を上げる吉田。
「ちがうけど?」
「いや、そういう顔してる」
「してない」
「してるって」
「してないって!」
声が少し大きくなって、すぐに自分で気づいたのか、吉田は咳払いをした。
「……別に、普通」
「じゃあなんでさっきから俺のこと一回も見てないの」
「見てるけど」
「いや見てない」
「……今見た」
「今は見たけど」
佐野はにやっと笑う。
「ほら、やっぱ構ってほしいんじゃん」
「違うって言ってるでしょ」
「じゃあ証明して」
「どうやって」
「俺に興味ないって顔して」
「……は?」
「はい、どうぞ」
佐野が腕を組んで、じっと見てくる。
その視線がやけに真っ直ぐで、吉田は一瞬言葉に詰まった。
「……」
「……」
数秒。
「……無理なんだけど」
「ほら」
「いや違う、そういう意味じゃなくて」
「どういう意味?」
「……なんでもない」
吉田は再びスマホに目を落とそうとする。
でも、その前に。
「なあ仁人」
「……なに」
「こっち来て」
「なんで」
「いいから」
「やだ」
「ほら」
佐野が手を伸ばして、吉田の腕を軽く引く。
「ちょっ、なに」
吉田おいちゃん
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「いいから座れって」
半ば強引に、ソファの隣に引き寄せられる。
距離が近い。
思った以上に。
「……近いんだけど」
「そう?」
「そうだよ」
「嫌?」
「……別に」
「じゃあいいじゃん」
佐野は満足そうに頷いた。
そのまま、じっと吉田の顔を覗き込む。
「……顔赤くない?」
「赤くない」
「赤いって」
「赤くないって!」
「いや赤い」
「うるさい!」
吉田は思わず顔を背ける。
耳までしっかり赤い。
「ほら、やっぱり」
「……」
「構ってほしい顔」
「……違う」
声が小さい。
さっきまでより、明らかに弱い。
「じゃあ何」
「……」
しばらく黙る。
佐野は急かさない。ただ待つ。
その沈黙が逆にプレッシャーになって。
「……ちょっとだけ」
ぽつり。
「ん?」
「ちょっとだけだから」
「なにが」
「……構ってほしいとかじゃないけど」
「うん」
「……その……」
吉田はぎゅっと拳を握る。
「……疲れてるだけ」
「うん」
「だから……ちょっとだけ」
「うん」
「……いいよ別に」
「何が?」
わざと聞き返す佐野。
「……っ」
「ちゃんと言って」
「……言わせるの?」
「うん」
「……最悪」
吉田は顔を真っ赤にして、しばらく葛藤したあと。
小さく、小さく。
「……甘えてもいい」
その一言。
言った瞬間、耳まで真っ赤になる。
「……ふは」
佐野が思わず笑う。
「笑うな!」
「いやだって、かわいい」
「うるさい」
「いいよ」
佐野は優しく言う
でも確かに寄りかかっている。
「……重くない?」
「全然」
「……そう」
「もっと来てもいいよ」
「いやそれはいい」
「なんで」
「恥ずかしいから」
「今さら?」
「今さらでも恥ずかしいものは恥ずかしいの!」
「はいはい」
佐野は笑いながら、そっと頭に手を乗せる。
一瞬びくっとする吉田。
でも、嫌がらない。
むしろ少しだけ力が抜ける。
「……ほんと素直じゃないよね」
「うるさい」
「でもちゃんと言えたじゃん」
「……二度と言わない」
「また言うよ絶対」
「言わない」
「賭ける?」
「賭けない」
「じゃあ俺の勝ち」
「意味わかんない」
しばらく、そのまま静かな時間が流れる。
外はもう夕焼けから夜に変わりかけている。
「……なあ仁人」
「なに」
「満足した?」
「……ちょっとだけ」
「ちょっとかよ」
「全部は無理」
「じゃあまた今度ね」
「……うん」
小さく頷く。
そのまま、もう少しだけ寄りかかる。
「……ありがと」
ぼそっと。
聞こえるか聞こえないかの声。
「どういたしまして」
佐野はちゃんと返す。
その声は、少しだけ嬉しそうだった。
ℯ𝓃𝒹