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最終話「記録される未来へ」
オルドの構造が崩れ、名もなき兵士たちは、それぞれに“名乗る”ことを覚えていった。
それは一種の革命だった。
だが、革命に対して国家は必ず「揺り戻し」を起こす。
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軍上層部が動いた。
セツナの行動は「命令違反」「記録外通信」「士気低下を引き起こす扇動」とされた。
処分要求が再提出された。
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その日の午後。
セツナは一度、本部へと呼び戻された。
重い空気の中、作戦室に入る。
けれど、そこにいた幹部たちは誰も彼を責めなかった。
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ロボロが言う。
「……セツナ、お前の“声”が届いた。
各地の駐屯地で、自発的に名乗り始めた兵士が何十人も出てる」
シャオロンも続ける。
「しかも、“名前で呼ばれた兵士は、命令より仲間を選ぶ”って傾向が出始めてる。
いい意味で、組織が“変わりつつある”」
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グルッペンが処分命令書の束をゆっくりと燃やした。
「これはもはや、“個人の処分”じゃない。
“国家の歴史”が問われてるんだ」
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その日から、軍は新しい制度を発表した。
【記名制度】
• 全兵士が「自身の名」を申告する権利を持つ
• 申告された名は、記録として保存され、戦死者名簿にも反映される
• 監査局はこれを定期調査し、記録として保全すること
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そして、制度発表の翌日。
セツナは《オルド》を正式に離任した。
部隊の中には、今や“名前”を持つ者が過半数を超えていた。
誰ももう、彼を止めはしなかった。
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別れ際、かつての最古参兵・イプシロンが帽子を脱いで言う。
「名乗るってのは、ちげぇな……お前がそれを教えた。
……黒瀬。元気でな」
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セツナは、静かに敬礼する。
「あなたの名前、いつか聞かせてください」