「桜くん!おはよう」
「….おぅ」
こうして彼と挨拶を交わせることが、こんなにも嬉しいなんて。
少し照れたように、頬を赤らめて挨拶を返す桜くんを見て、思わず頬が緩んだ。
「….桜くん、あれ以来、何ともない?」
「あぁ。潮見も見なくなった」
先日の事件で彼の素性がバレて以来、彼は二度と学校に来ることは無かった。
桜くんは少し寂しそうにしてたが、俺たちにとっても、彼にとっても、それが1番良い解決法だろう。
あれ以降、俺たちには再び、平穏な日々が続いた。
「桜ー!!ちょっと屋上に来て欲しいんだけど」
「…何で」
「お前が育てたきゅうりがな、美味しそうに成ってんだ!!」
「…!!」
ちょっと屋上行って来る、っとその場を離れる桜くんは、とても嬉しそうな顔をしていた。
その日の夕方。
「じゃ、俺こっちなんで、2人ともさようなら!」
元気よく手を振る楡井くんを笑顔で見送り、桜くんとの距離を縮める。
優しい夕日が俺たちを照らし、2人の影が地面に仲良く落ちた。
「….なぁ蘇芳」
「何だい?」
ぎゅっ、っと桜くんが強く俺の手を握った。
珍しく積極的な彼に、胸が弾む。
頬が緩めるのを必死に堪え、いつもの上品な笑顔を浮かべた。
しかし。
すっ、と桜くんの顔に、影が落ちた。
「……本当に、俺たちずっと一緒なんだよな?」
____一瞬だけ、世界中の音が無くなった様な、そんな錯覚に陥った。
…彼はいつもこうだ。
鈍いと思ったら、変なところで鋭い。
しかし、今本当のことを言っても、桜くんを傷付けるだけだ。
ならば。
____最後の最後まで嘘を突き通し、絶対俺が病気で死ぬことを隠さなければ。
「….何言ってんの。当たり前でしょ」
そう言ってにこりと笑った筈なのに。
….彼の顔は、暗いままだった。
「なぁ蘇芳」
再び、名前を呼ばれる。
何、と言って彼の方を向いて、思わず固まった。
「これから、俺ん家寄ってかねぇか?」
今まで見た事ないくらい、切ない笑顔で、桜くんに初めて誘われた。
….一体、これから身体を重ねる事は、何を示すのだろうか。
一体、何が彼をこんなにも傷つけたのだろうか。
𝙉𝙚𝙭𝙩 ︎ ➯➱➩1000