暗い、どこまで歩いても暗闇から抜けれない。
手を握ってほしかった。頭をなでてほしかった。話を聞いてほしかった。
私の生きる意味を証明してほしかった………愛してほしかった。
ハッ…またこんな夢。過去の夢ばかり。
「おいっ!朝だぞ!!」
朝の5時。いつも通りの朝。父が私を呼ぶ声だけが響き渡る。
「おはようございます…」
「チッ、俺が会社行くときにはお見送りだって何回言わせれば気が済むんだ!」
バシッ 痛い‥
「ごめんなさい」
「クズが、消えろ」
バタン…やっと行ってくれた‥
父から殴られ続ける生活にももう慣れた。でも‥心が追いつかない。涙だけはまだ枯れない。
「学校行かないと‥」
私にはどこにも居場所がない。父子家庭の私は愛されて育たなかった。父と母が離婚したのは十年も前。私が6歳のとき。
毎朝聞こえてきたのは父の怒声と母の悲鳴。
ある時友達と遊んだあと家に帰ったら母と知らない男が楽しそうに話してた。初めてあんな顔のお母さんを見た。お母さんは
「私、あなたのせいで人生狂っちゃった。」と悲しそうな目で私に言った。その翌日、お母さんは大きなキャリーバッグを持って、昨日の知らない男の人と手をつないで家とは真逆の方向に歩いていった。
私は追いかけなかった。声もかけなかった。
「私のせいなんだもんね‥」幼いながらにそんなことをぼやいてた。
そこから父の私への暴力が始まった。
1ーAの教室のドアを開けるととんでくる罵声。「また来たぞあいつw」「きっしょw」
もう慣れた。暴力もたまに振るわれる。味方なんていない。
だから私は逃げた
ハァッハァ‥
午後8時、父が帰る前に家を出た。
お金とスマホだけを持って、必死に走った。そして電車に乗って見知らぬ街に来た。
きっと父は探す。でも警察には言わないはず。言ったら虐待してる事実がバレルから。
「これからどうしよ‥」
私は行き先もなくただ歩いた。もう夜遅いから少し怖い。
「お嬢ちゃん、こんな時間にどうしたの?」
中年くらいの男が腕を掴んで尋ねてきた。
「いえ、ただ散歩してるだけなので。」
「こんな時間に?危ないよ、とりあえず僕の家においで?」
ゾクッ、怖い。怖くて声が出ない。周りには誰もいない‥
「ほらぁ、おいで?怖くないよ?」
次は肩に腕を回してきた。
「ヤッ…」
思えば私、男運ほんとにないな。
小学生の頃は担任の先生に先生のあそこを顔に押し付けられた。
中学生の頃は先輩に無理やり家に連れ込まれて‥性欲を満たす道具にされた。
容姿も馬鹿にされたし、暴言も吐かれた。
優しい男性にはあったことがない。
「離してください…」
男の力には敵わない。
「おい、おっさん。何してんだ?」
私の後方から別の男の声が聞こえた。
「な、何って。」
中年の男が動揺して腕を離した。そして逃げていった。
振り返ると茶髪でセンター分けの同い年くらいの男がいた。
「あ、…ありがとうございます‥」
「…お前こんな時間に何してんの。」
「えと‥」こういうときはホントの事いうべきなのかな?
「さ、散歩です」
ホントのことを言う勇気が出なかった。でも彼は
「嘘だろ?」すぐに見抜いてしまった。
「家出だろ?」
「っ、…はい」
「そうか。」彼は理由を聞かなかった。ただ一言
「うち来るか?」とだけ言った。
私はほぼ人間不信に陥っていたけれど、正直もう投げやりになってた。だから
「行きます」と答えた。
彼の家には十分くらいで着いた。その間の会話はなし。
しっかりした二階建ての一軒家だった。
「お邪魔します」
中はとても綺麗に片付けられてた。ただ、リビングのソファーに知らない男が五人座っていた。
「え、誰その女」「おい彼方、俺らいんのに彼女連れてきのか?」
どうやら助けてくれた男性は彼方(かなた)と言うらしい。
「彼女じゃねぇよ。道でおっさんに絡まれてたから連れてきた」
「連れてきたって…あ、もしかして家出?」丸刈りの男が言った。
「あぁ、らしい」
「へぇ、名前は?」
「吹雪って言います」名字は言いたくなかった。
「吹雪ちゃんか、よろしく」名前で呼ばれるのは久しぶりだからくすぐったかった。
「コイツラは俺の家に居候してる奴ら」彼方くんが言った。
「この丸刈りのやつは涼真。んでマッシュのやつが和希。冴えない顔のやつが勇斗。タレ目のやつが紺。身長高い奴が龍。」彼方は適当に特徴を言って紹介した。
「お前寝る場所ここな」
少し狭いけれど個室を用意してくれた。
「ありがと…ございます」
「…吹雪、お前何歳?」
「16です」
「俺は17だ。ちなみにあいつらも。まぁ、一歳しか違わねぇしタメ口でいいよ?」やはり見かけどおりの年齢で安心した。
「うん、分かった」
「吹雪ちゃん、先風呂入っていいよ?」冴えない顔の勇斗くんが言った。
「あ、私着替え持ってきてないから…」
「あっ、そうなん?彼方〜服貸してあげれば?」
「あぁ、いいぜ。吹雪が風呂入ってる間に脱衣所に置いとく」
「ありがと。」
シャワーを浴びるとやはり腕や脚、お腹の傷が痛む。
彼方くんが置いてた服は半袖半ズボンだった。
傷がバレル。私が来てた服は長袖長ズボンだったけど、夏だから暑かった。でも傷がバレないためにはそれを着るしかなかったんだ。
(やばい、どうしよ‥)私の着てた服は洗濯されてる最中だ。下着だけは残されてた。ただ、下着を見られた恥ずかしさなんてない。
(着るしかない‥)それしか選択肢はなかった。
「お先でした。」できる限り傷が見えないように腕は後ろに回してたけど、違和感しかなく脚はどうも出来ないからバレた。と思った。
いや、確かにバレていた。彼方くんだけには。他のみんなはテレビに夢中だから気づいてない。
「吹雪、案内し忘れてたとこがあるから二階来て」そう彼方は言った。
そして二階に上がると
「お前その傷誰にやられたんだ?」
「…お父さん」
「っ‥そうか。ごめんな。今薄い長袖と長ズボン持ってくるから。」優しかった。彼方くんは事情を知らなかったんだから仕方ないのに。
「これどうかな?って、吹雪?どうした?」
私は知らず知らずのうちに涙が溢れてた。
「あっ、ううん。何でもない」
ギュッ
視界が暗くなったと思ったら私よりも身長が高い彼方くんの腕の中にいた。
「何でもなくないだろ?」彼方くんは、辛そうにそう言った。
なんで?なんで彼方くん抱きしめてくれてるんだろ?
「大丈夫だ。俺が守るから」
初対面なのになんでこんなに優しいんだろ?赤の他人のはずなのに家に入れて、寝る場所を与えてくれて、気を使ってくれて…抱きしめてくれた。
こんな温かさ知らない。
話してもいいと思った。家庭のこと。学校のこと。過去のこと。
この人ならきっと‥
「彼方くん」気がつけば口を開いていた。
「私ね、死にたい訳じゃないんだけどね。生きる理由が見つからないんだ‥」
そして話した。彼方くんは黙って聞いてくれてた。
話し終えたあと、彼方くんは、また抱きしめてくれた。
プルルル
電話の音がスマホから聞こえる。父からだ。
私が青ざめていると彼方くんは、「俺がついていく。だから本音を伝えろ。」って言ってくれた。不思議とすんなり頷けた。
「駅にいる。」それだけを父に伝えて電話を切った。
駅についたが、父の姿はまだ見えない。
緊張して震える手を彼方くんは握ってくれていた。
「吹雪っ!」父の声が聞こえた。大丈夫。怖くない。そう自分に言い聞かせる。
「誰だ?その男は」父が眉間に皺を寄せて言う。
「父さん。この人は今日私を助けてくれた人。」
そこから何分くらいだろう。私の本音をぶつけた。父は怒った。今までに見たことないくらい。私に殴りかかろうともしてきたけど、彼方くんが阻止してけれたおかげで言いたいことは最後まで言えた。
結果、父とは縁を切ることになった。泣いていた。父は初めて私の前で泣いた。私の心は冷めきっていた。だから言うことは一つだった。
「さようなら。おじさん」
認めたくなかった。こんな人が父だなんて。でも事実だから私は背負って生きるしかなかった。
その後、彼方くんは家にずっといていいって言ってくれた。でも居候になるのは嫌だからバイトをして稼ぐことにした。
十一月五日
彼方くんの誕生日が来た。私は石鹸をプレゼントした。そして手紙を読んだ。
彼方くんへ
誕生日おめでとう。彼方くんと出会った日から今日までこんなに幸せな日々は初めてでした。
出会った日、抱きしめてくれたし手もつないでくれたね。あんなに温かい経験したことなかった。私のこれまでの世界は暗くて、光なんて一筋もなかった。でも君が私の世界に入ってきてくれた。私の人生、彼方くんがいてくれることでとても鮮やかになったよ。世の中にはこんなに優しい人がいるんだって知った。決してこの世は腐ってなかった。それに気づかせてくれたのは君だよ。大好き。これからも君と沢山やりたいことがあるんだ。もっともっと一緒に歩んでいきたい。私の生きる意味を作ってくれてありがとう。
産まれてきてくれてありがとう。
吹雪より
彼方くんは、涙を流しながら
「俺も吹雪に会えて良かった。もしよかったら‥」沈黙のあと彼は言った。
「付き合ってください。」
私には悩む時間なんてなかった。必要なかった。
チュッ
初めてキスをした。しかも私から。恥ずかしさより喜びのほうが遥かに大きかった。
そして言った
「喜んで」
END
コメント
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初めて小説を書きました。文脈とかめちゃくちゃかもしれませんが、最後まで読んでいただけると幸いです(^^♪あと、実話ではないです。