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「あ、またそのコーヒー飲んでるんっすか?」
職場の後輩が俺に声を掛けてきた。俺の隣に座り、缶コーヒーを見ながら聞いてくる。
「先輩は、そのコーヒーしか飲まないっすよね。なんでっすか?」
缶コーヒーを両手で持ち、下を向いて「これだけは好きなんだ。」と言った。後輩は俺の顔を見て「そーなんっすね!」と大きな声で言った。相変わらず元気だ。
俺はコーヒーを一口飲んで、後輩を見る。彼はまるで小さな子供のように目をキラキラさせて缶コーヒーを見つめていた。
「なんだ?」
「いや、あの…先輩の特別なコーヒーなのかな〜?って思ったんっす!」
特別なコーヒーか、と考え込む。
「特別と言ったら、特別だな。」
彼はワァァ!!と口を開け「いいっすね!」と言う。
「特別って、なんか…うん。凄いっす!」
「そうか、ありがとう。」
「どういたしましてっす!」
へへっと笑う彼の姿は、あの人にそっくりで少し泣きそうになる。
ダメだ、後輩の前で泣くんじゃない、と涙をこらえて腕時計を見る。
「そろそろ休憩終わりだな。先に行っててくれ。」そう言うと、彼は背伸びをして立ち上がり「わかったっす、また後で!」と大きく手を振って戻っていった。
あれから2年が経つのか…。
7月22日、大切な人が居なくなった日だ。
残りのコーヒーを飲み干して空を見上げて手を伸ばす。彼女の好きなコーヒーを飲んで空に手を伸ばしたら、きっと届くかもしれない。そんな馬鹿なことを考える。 『お疲れ様』という声が聞こえたような気がした。
「頑張るよ、俺。」
握り拳に力を入れて、決意したかのように目をパッと開く。 腕時計を見ると、もう休憩時間がとっくに過ぎていた。
「やばい…早く行かないと!」
缶をゴミ箱に捨て、走って戻る。
こんな姿を見て今日も彼女は笑っている。