テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
縁側に並んで座る二人の間を、冷たい空気がゆっくり流れていく。直哉は膝を抱えて、庭を見ていた。
隣にいる気配は分かっているのに、顔を向けるのが少しだけ怖い。
甚「……今日は、もう行くわ」
ぽつりと落とされた声に、直哉の指がわずかに震える。
直「…あっそ」
短く返して、立ち上がろうとする甚爾の気配。
その瞬間、直哉は考えるより先に手を伸ばしていた。
指先が、甚爾のシャツの裾を掴む。
直「……待って」
自分でも驚くほど、弱い声だった。
甚爾が動きを止める。
直「なあ」
直哉は視線を上げないまま、裾を離さずに続ける。
直「これから、どうするん」
少し間が空く。
直「また、来る?」
言い切りじゃなく、問いにしたのは、逃げ道を残したかったから。
甚爾はため息みたいに息を吐いて、隣に座ったまま言う。
甚「先のことは決めてねぇ」
直「……そやろな」
直哉は苦笑して、でも手は離さない。
直「でもな」
声が、少しだけ強くなる。
直「来ぇへんって言われる方が、しんどい」
沈黙。
庭の木が、風に揺れる音だけが聞こえる。
甚「……直哉」
名前を呼ばれて、胸が跳ねる。
甚「ここにいる限り、顔出すくらいはする」
ぶっきらぼうだけど、嘘じゃない声。
直哉はゆっくり顔を上げて、ようやく甚爾を見る。
直「ほんま?」
甚「約束はしねぇ」
直「それでええ」
直哉はそう言って、ようやくシャツの裾を離した。
直「曖昧なん、嫌いやのに」
小さく笑う。
直「甚爾くん相手やと、しゃあないわ」
甚「変なやつだな」
直「今さらやろ」
二人はそれ以上、何も言わなかった。
でも、隣にある体温は確かだった。
禪院家は、今日も変わらずそこにある。
それでも直哉は思う。
―この曖昧さは、終わりじゃない。