〜💜side〜
とある春の、月曜日。朝、8:30──
ガタンゴトン、と電車の揺れる音。プシュー、と電車のドアが開く音。あちらこちらから聞こえてくる、何かの広告の音。ガヤガヤとした、学生たちの笑い声。
普段なら鬱陶しくさえある雑音たちも、浮かれているせいか、少しも気にならなかった。
年相応にはしゃぐ学生たちを横目に、大きめのキャリーケースを引きながら約30分後に到着するお目当ての新幹線を待つ。
私はスマートフォンからチャットアプリを開き、一つのグループチャットにメッセージを打ち込んだ。
💜:おはよー!
💜:そろそろ新幹線乗るよー🚅💨
少しだけ間が空いて、ひとつ既読がつく。
数秒後、すぐにまちこから返信が届いた。
💚:おはよ!!
💚:3ヶ月ぶり?くらいかな、会えるのめっちゃ楽しみにしてる!!
ここ、大阪から新幹線に乗って約2時間半。
──目的地は、東京。
今日は、女子研究大学みんなで初めての旅行。
今日のうちにみんなと合流して、さらに東京から約3時間。新幹線で、旅行の最終目的地である青森県まで行く手筈になっている。
青森県──
4月。春といえば、桜。
青森県に位置する桜の名所といえば、やっぱり弘前公園だろう。毎年200万人近くが訪れる、日本屈指の絶景スポットだ。
行き先の提案は、東北出身でもあるまちこから。
幼い頃に祖母と一度だけ見た夜桜と花筏が神秘的で、幻想的で。心に染み付いて、忘れられないという。
行き先が決まればあとはスムーズに決まっていき、宿は私が手配することになっていた。
💜(……めろちゃんたちは、まだ寝てるんだろうな)
一つしか既読がつかないということは、きっとそういうことなんだろう。ふと考えて、ふふっ、と少しだけ口元を綻ばせる。
みんなと直接会うのは、まちこの言っていた通りほぼ3ヶ月ぶりだ。
普段からバカばかりやっているけれど、メンバーでいるのが楽しいことは事実。笑う大親友の顔を思い浮かべて、今すぐにでも会いたい思いが募ってくる。
気づけば30分なんてすぐに過ぎていって、やってきた新幹線に乗り込んだ。
◆ ◆ ◆
11:40、東京駅──
ホームに降り立つと、むわっとした4月には相応しくない蒸し暑い空気が全身を擽る。先にまちこに聞いて、薄手の服にしていて正解だった。
💜(都会の人口密度とかも、なんか関係あるんかな…)
大阪も大概人口は多いが、首都である東京には敵わない。
今日は特に『夏日』というヤツで、周囲を見回すと半袖を着ている人もちらほらいた。
💚「…あっ、はっち〜!!」
スマホをかざして改札口を出ると、大好きな親友の姿。
ここまで迎えに来ていてくれたらしく、こちらに向かって大きく手を振っていた。
美人が可愛い声で手を振っているのだから、目立たないはずがない。けれども、幸い、私もまちこも顔バレしていないので、誰も私たちが『18号』と『まちこりーた』であることには気づかなかった。
彼女に向かって、タッと駆け寄る。
💚「久しぶり!! 相変わらず、じゅうはちはちっちゃくて可愛いね〜w」
💜「ちっちゃい、は余計です〜。でも、まちこもめちゃめちゃ可愛いよ!」
💚「いやいやいや、そんなことないってw 絶対じゅうはちの方が可愛いから!!」
彼女はそう謙遜するが、素直にまちこに見惚れてしまっている自分がいた。
周りにいた男性たちも、チラチラとこちらを見ているのが分かる。
私よりも歳上のはずなのに、スレンダー体型でスタイル抜群。彼女自身は顔に自信がない、と言うけれど、全くそんなことはないと思う。可愛らしい、というよりも何処か儚げな、美人という言葉が相応しい顔立ち。
今日のまちこの服装は、爽やかなアイスグリーンのストライプ柄チュニックブラウスにデニム生地のタックワイドパンツ。首元では、金のリーフ型ネックレスが揺れている。
対する私は、黒のきれいめカットソーにラベンダー色のロングスカート。耳には大きなリングピアス。
二人で褒めあっていてもキリはなく、笑い合って駅周辺の観光を楽しんでいれば、すぐにメンバーみんなと会う時間は近づいてきて。
❤️「…ん、あれまちこさんと18号さんじゃない?」
💛「え? まじやん。おーいまちこー、じゅうはちー、こっちこっちー」
集合時間である14:30の5分前になってまた駅に戻ると、そこにはざわざわとした女性たちの塊。中心に向かって、彼女たちがチラチラと目配せしているのが分かる。
なんだろうと思って目を凝らすと、輪の中心には、楽しそうに話しているニキニキたち男性陣の姿が見えた。
爽やかにシンプルなモノトーンで服を着こなすめろちゃんと、帽子と眼鏡のニキニキ、しろせんせー、りぃちょ。三人は完全に顔出ししているので変装して誤魔化しているが、めろちゃんも含めていわゆる『イケメン』の部類に入る彼ら。
しかもそれが集まっているとなれば、注目されるのは当然だろう。…約1名、紫ジャージの男もいるが。
💜「…あ、めろちゃん、ニキニキ!」
🩷️「いや俺もいるんだけど?」
💙「おうおう、今日も可愛いねぇまちこちゃん」
💚「いやいやいや…黙れ黙れw」
私たちが彼らのもとへ駆け寄ると、注目度が更に上がった気がして。自分で言うのもなんだが、女研の顔面偏差値は全体的に高い。
身バレ防止のためにも注目を浴びるのは避けたくて、駆け込むように改札口を抜けた。
◆ ◆ ◆
時刻はちょうど、15:00──
6人揃って、やってきた新幹線に乗り込む。
座席はニキニキとりぃちょ、その後ろにまちことせんせー、そしてその後ろに私とめろちゃんだ。
💛「いやー、やっぱ俺がイケメンすぎて駅にいた人みんな見惚れてたねーw だよねまちこり?」
🩷️「ざんねーん、見惚れられてたのは俺でーす。ね、まちこりもそう思うよね?」
💚「はいはい、ニキニキもりぃちょも、せんせーもキャメさんもみんなでしょ。そんなつまんないことで喧嘩しないの」
💙「そんなこと言っちゃってぇ〜、まちこは俺のことしか見てへんもんな。他のメンツのことなんて知らんに決まっとるやろ」
💚「いやいやいや…そんなことないからw」
いつも通り軽口を叩き合うニキニキとりぃちょに、まちこが巻き込まれて。そんな彼女をまたカップルネタで弄り倒すせんせー。
相変わらず不憫で可愛いな、と、目を細めて口元を緩めていると、しばらく黙っていためろちゃんが口を開いた。
❤️「…そういえば18号さん、大阪から東京来るまで変な人に絡まれたりしなかった?」
💜「え? …ふふっ、うん。大丈夫だったよ」
少しだけ笑って、言葉を返す。
💜(…やっぱり、めろちゃんは優しいな)
「そっか、良かった」と微笑むめろちゃんを見て、思った。
性格も全部引っ括めて改めてメンバーを見たら、やっぱり一番“イケメン”なのはめろちゃんなんだろうな、って。
突然意識し出してしまい、慌てて視線を前に戻す。彼の服の爽やかな香りが、鼻を擽った。
💙「──まちこは俺と二人部屋やんな?もちろん」
💚「え、普通に嫌だけど……w」
💛「まちこりは俺と一緒が良いんだよね、うんうん」
🩷️「え、いやいやいやw まちこりは、俺だよね?」
そういえば、宿の部屋割りはまだ決めてなかったんだっけ。
先程めろちゃんと話してから数十分。
また話しかけようと隣に視線を向けるが、その会話は叶わなくて。彼はすぅすぅと小さな寝息を立てて、端正な横顔を見せて眠っていた。無意識のうちに、頬が少しだけ赤くなる。
振り払うように考えをすり替えて、
💜(……まあ、現地に着いてから決めればいいよね…!)
そのときは、呑気にそんなことを思っていた。
自分がややこし過ぎる部屋の取り方をしていたことになんて、1ミリたりとも気付かずに。
◆ ◆ ◆
🩷️「いぃぃやっふぅぅぅぅ!!!! 来たぜ青森!!」
18:00、新青森駅──
無駄に綺麗な白髪を揺らして、りぃちょが叫ぶ。
午後六時。これから観光に行くには微妙な時間帯だが、前々から予約していた旅館には19:00くらいにお邪魔すると伝えてあった。
💜「七時ぐらいには行くって言っといたから、ひとまず泊まる旅館行こっか!」
「「はーい」」
私が声をかけると、皆から一斉に返事が来て。
もともと東北に住んでいたまちこの案内で、駅から歩いて宿泊する旅館に向かった。
「いらっしゃいませ、六名でご予約の○○様でお間違いないでしょうか。お部屋のご準備は完了しておりますので、どうぞごゆっくりお過ごしください」
💚「ありがとうございます、お世話になります」
そう微笑む女将さんから受け取った部屋の鍵は三つ。
一人部屋の『桜の間』、二人部屋の『紅葉の間』、そして三人部屋の『若葉の間』の三部屋だ。
❤️「そっか、一人二人三人で分かれるんだね。部屋割りはどうする? 基本的に女性陣が二人一緒で一部屋が良いと思うんだけど……」
めろちゃんが気を利かせて、そう言ってくれる。
でも、それを遮るようにして、せんせーが口を開いた。
💙「え、俺もまちこと二人で寝たいんやけど」
💚「は? バッカお前っ、」
まちこが驚いたように彼を見る。咄嗟に零れたであろうその言葉は、誰にも聞いて貰えなくて。
💛「えー、俺もまちこりと一緒がいいー」
🩷️「えっじゃあ俺も俺もw」
💚「いやあの、えっと」
ノリを合わせるようにして、ニキニキとりぃちょが続く。少しだけ間が空いて、ニキニキがすぅっと深呼吸。
💛「…ま、ここは潔くジャンケンあたりで良いんやない?」
💙「……分かった。その勝負、乗ったわ」
🩷️「…はっ、絶対負けないから」
どこか漂う、ピリピリとした空気。私も結局、まちこのことが大好きな親友なのだ。
💜「私も忘れないでよね? まちこのことは譲らないから」
ガッツリ宣戦布告して、勝負に乗ってしまった。
❤️「まぁ…少なくとも、18号さんはまちこさんとの二人部屋か一人部屋が良いと思うよ」
💚「え、ちょ、私の意見は? 誰も…キャメさんもじゅうはちも聞いてくれないの!?」
相変わらず不憫で可愛いまちこの話は、やっぱり誰も聞いておらず。めろちゃんは、またも私やまちこに気を遣ってくれる。
当の本人を無視して進められた、ニキニキが仕切るまちことの相部屋権の争奪戦。結局、立候補しなかっためろちゃんも含め、メンバー五人によるじゃんけんで決まることとなった。
コメント
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まちこちゃん不憫枠でそれは見てるじゅうはちが微笑ましい( ◜ω◝ )