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傘村トータ様の楽曲「明けない夜のリリィシリーズ」の曲パロです。
展開は全て個人的解釈ですのでご注意下さい。
bl有り
・ ・ ・
壊れていたのは、世界だろうか。
間違っていたのは世界だろうか。
「大変申し上げにくいのですが…、トラゾー様は、漸進性記憶崩壊症候群、通称、忘却症です」
「……は?」
「病名自体馴染みがないかもしれませんが、記憶が徐々に失われていく病気です。世界でも症例が少なく、治療法も見つかっていません。ご本人も、もう正常な判断がごく稀に出来なくなるまで進行している。なので、えと…、クロノア様が、どうされるかを決断していただきたいです」
どうであれ、トラゾーとの朝はもうやってこない。だから、貴方の「おはよう」はもう聞けない。
時が戻れば、なんて思いながらも、俺はトラゾーを医療施設に入れる決断をした。
でも、いつか、気付いてくれるはず。
そんな期待を込めて、毎日お見舞いに行った。
医師によると、トラゾーは、自分が誘拐されて、この場所に閉じ込められていると思い込んでいるらしい。
だから、俺は極力環境の事は触れないようにしながら、毎日他愛もない話をして帰ってくる。
でも、家に帰ると、家が無性に広く感じて、仕方がない。
ねぇ、トラゾー、またいつか、色んなところを手を繋いで歩こうね。
空の青さも忘れちゃってて、全く本当に馬鹿だなぁ。
なんて、思考を無理やり明るくしようとしても、目からは涙が頬を伝って落ちて行った。
ある日、お見舞いに行くと、トラゾーが珍しく自分から口を開いた。
「もっと、ずっと、ここに居てください」
それは、この部屋で暮らせ、という事だろう。それは、医師に確認しないといけない。
「ちょっと待ってね」
「俺も、トラゾーの病室に居ていいですか?安心材料になってやりたくて…」
「構いませんよ、ただ、過去には身内に暴力を振るった例も有りますから、そういうことが有りましたら、すぐにおやめ下さい」
「はい…。ありがとうございます」
「いい、よ」
病室に戻り、トラゾーにそう告げる。
トラゾーは嬉しそうな、安心したような顔になった。
それから数日、考え事をしていたトラゾーが急に、
「……、クロノアさん、俺、クロノアさんの笑顔、好きですよ」
と言ってきた。
「何、急に?でも、ありがと」
トラゾーも、もう記憶が無くなってきていることに、気付いているのかもしれない、という嫌な考えが頭をよぎった。
それから数日、何事も無くトラゾーと過ごしていたが、ある日、事件は起こった。
急にトラゾーが殴ってきたのだ。
俺はその衝撃で床に横たわり、トラゾーは正気に戻ったようだ。
『過去には身内に暴力を振るった例も有りますから、そういうことが有りましたら、おやめ下さい』
医師の言葉が思い出される。
…、もう、潮時かな。
前は、俺の顔にかすり傷でもついたら、大丈夫ですかって、すぐに駆け寄ってくれたのに。もう絶対に怪我しないでくださいって言ってくれたのに。
「クロノアさん…、ごめんなさい。大丈夫ですか?」
「あぁ、うん。大丈夫だよ」
傷は大丈夫だ。傷は。でも、もうこんなトラゾーを見てられない。
でも、嘘で固められたこんな環境でも、ごめんね、トラゾーに生きてて欲しいんだ。
時が戻ればなんて思いながら、もう俺は少しだけ諦めてたけど、今日ので、もう戻らないな、って確信した。でも、トラゾーの事を嫌いになんてなれる訳が無い。嫌いになれたら楽だったのに。こんなに苦しまずに済んだのに。
結局、トラゾーに会いにきて、一緒に病室で生活したのは、トラゾーだけじゃ無くて、俺の精神のためでもあったわけで。
俺は、トラゾーの顔に手を伸ばして、頬を撫でた。
「ねぇ、トラゾー、知ってる?明けない夜は無いんだよ」
これは君が教えてくれた事。もう、忘れてるよね。
いつも、俺の手を引いてくれたトラゾー。またいつか、2人で、手を繋いで歩こうね。
「トラゾー、忘れないからね」
「クロノアさん」
「なに?」
「ねぇ、俺、本当に貴方が好きです」
「クロノアさん」
「なに?」
「クロノアさんは?」
「俺も」
好きだよ。
ああああああ
76
ラカ
89
#ぺいんと
しもつき
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コメント
1件
うわあああ…読み終わってしばらく動けなかった😭💔 「明けない夜は無いんだよ」を教えてくれた本人がそのことを忘れてしまってるのが切なすぎる…。クロノアが「もう戻らないな」って確信しながらも「忘れないからね」って頬撫でるところで涙腺崩壊したよ…。最後の「好きだよ」のやり取り、記憶が無くなっても心の奥底では繋がってるって信じたくなるような、そんな美しさがあったな。 藍乃さんの描く静かな絶望の中にある温かさ、めっちゃ刺さりました…!次話も絶対読みます🌸