母 「ごめんね…ごめんね…!」
そう言って母は私を置いて行った。
赤ちゃんポストに入れて。
赤ちゃんポストとは、何らかの理由で乳児を育てられない母親が、
最後の頼みの綱として利用する物。
赤ちゃんポストに預けられた子供は両親が分からないことが殆どだ。
この場合出生不明の棄児として扱われ、戸籍が無くなってしまう。
その為市役所が新たな戸籍と名前を与えてくれる。
社員さん 「君の名前は今日からエクスデスくんだよ」
私 「あ〜う?」
あかりさん 「よろしくね、エクスデスくん」
このように市と地域住民が協力して、棄児を家庭復帰させようとしてくれる。
私の新しい家族があかりさんとゆうとさん、そして、ゾディアークだ。
私を助けてくれた。
あかりさんは私をぎゅっと抱きしめてくれた。
ゆうとさんは私の頭を優しく撫でてくれた。
あかりさん 「この子…緊張してるのかなぁ?」
ゆうとさん 「きっとそうだね、慣れれば大丈夫だよ」
ゾディアーク 「う〜う〜」
あかりさん 「大丈夫だよ、ゾディアークの事も大好きだよ」
ゾディアーク 「あう!」
私は母親に雨の日に捨てられたショックで
笑えなくなっていたのだろう。
緊張しているのかストレスかは分からないが、心が壊れていたのは確かだ。
私もゾディアークも5歳の時だった。
私は他の子よりも多少賢かったみたいだ。
おもちゃやぬいぐるみなどでは遊ばず、本ばかり読んでいた。
ゾディアークとは打ち解ける事が無かった。
そんなある日だった。
ゾディアーク 「ねぇねぇ!あ〜そ〜ぼ!」
私 「えっ?」
ゾディアーク 「あそぼ!」
ゾディアークは無邪気に話しかけてくる。
自分が持っていたぬいぐるみを私に渡して、遊びに誘ってくる。
でも私は当時ゾディアークが好きでは無かった。
母親と父親を取られる気がして怖かった。
ゾディアークの家族なのにな。
私 「…いい…」
私は冷たく返してしまう。
ゾディアークはこちらを見ながら、きょとんとした顔をする。
それすら可愛い子ぶっているようでイライラした。
今となっては大人気ないと思っている。
ああ、ゾディアーク、ごめんな。許しておくれ。
私 「僕本読んでるから、あっちで遊んで」
ゾディアーク 「う〜ん、エクスデスくんはぬいぐるみすき?」
私 「別に…」
ゾディアーク 「そっか〜なんのほんよんでるの?」
私 「英語の本、君には分かんないよ」プイッ
今となっては本当に申し訳ない…
ゾディアーク…本気でごめんなさい…
ゾディアーク 「…!あした、エクスデスくんのおたんじょうびでしょ?まっててね!」
私 「?」
そう言ってあかりさんの所に駆け寄って、何かを話していた。
9月29日
あかりさん 「エクスデスくんお誕生日おめでとう!」
私 「…ありがとう…ございます…」
何回も祝ってもらっているが、未だに慣れなかった。
その時、ゾディアークが袋を持って私に駆け寄って来た。
ゾディアーク 「エクスデスくん!これあ〜げ〜る!」
私 「何?これ?」
開けてみると、そこには一冊の本とぬいぐるみが入っていた。
ゾディアーク 「おたんじょうびプレゼント!」
ゆうとさん 「えっ?でもこのぬいぐるみってゾディアークのじゃなかった?」
ゾディアーク 「エクスデスくんにあげるの!いいでしょ?」
ゾディアークは昨日私に渡してきたぬいぐるみをくれたのだ。
子供が一生懸命考えてくれたプレゼントだったのだろう。
本だってもちろん嬉しかった。
でも何より、冷たくしてしまった私に優しくしてくれたのがどんな事よりも嬉しかった。
ゾディアーク 「いやかな?」
私 「ううん!ありがとう!」ニコッ!
私は今まで上手く笑えなかった。
でもあの時、笑えるようになった。
ゾディアーク 「えへへ!エクスデスくん、これからもよろしくね!」
私 「うん!」
こんなのがもう30年前だとは…早いなぁ…
ゾディアーク 「何やってるんだ?」
私 「ゾディアーク!?こ、これは…//」
ゾディアーク 「私が渡したぬいぐるみまだ持ってるのか!?」
私 「しょ、しょうがないだろ!私の宝物なんだから…」
ゾディアーク 「あら嬉しい…ありがとな」
今は一緒に暮らしては居ない。
偶にゾディアークが実家に帰ってくるからこうして話している。
ありがとう、あの時、私に優しくしてくれて。
これからもよろしくな。
コメント
2件
ゾディアークさんの気持ちがエクスデスさんに届いたんですね!!大人になってもぬいぐるみ大事にしてるの尊すぎる😇😇