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室内には血なまぐさい匂いが充満していたが撃った男は大して気にならないのか、その凄惨な現場で呑気に煙草に火を点ける。
「……任務完了っと」
そう一言呟き窓の外を眺めると、先程まで出ていた星は雲に隠れて見えなくなり、作られた明かりだけが、煌々と灯っていた。
「さてと、そろそろ戻るか」
一服し終えた男はそう小声で呟きドアノブに手を掛けると、ズボンのポケットの中でバイブ音が鳴っていることに気付く。
ポケットからスマホを取り出してディスプレイに表示された名前を目にすると、急いで電話に出た。
「――はい」
「伊織、そっちはどうだ?」
「全て片付きました。これから戻るところっす」
「そうか、相変わらず仕事が早いな」
「誰に言ってんすか?」
「だな。じゃあまた後で」
「了解」
電話の相手は彼――伏見 伊織の上司で組織のボス、伏見 忠臣。伊織にとっては義理の父親でもある。
伊織は物心着く前に両親を亡くし、親類も居ない事から施設で育てられた。
十歳の時に伏見家の養子となり、警察関係者の忠臣と心優しい義母の美波の子供として育てられ、穏やかな生活を送っていた。
しかし、その穏やかな暮らしも束の間、約半年後に美波が事件に巻き込まれて亡くなってしまい、忠臣と二人きりの生活になってしまってから状況は一変する。
警察関係者であるはずの忠臣はとある理由から現役を退き、裏社会で生きる事になるのだ。
それというのも近年警察が介入出来ない裏事情のある事件が頻発していて、警察幹部は日々頭を抱えていた。
そこで警察関係者以外で犯罪者を排除出来る人間を集めた組織を発足したいと考えた幹部たちは、牢に入れている犯罪者たちを飼い慣らして使う事を視野に入れていたのだがリスクを伴うという意見が大半を占めて断念。
他の方法で人を集めようとしても、いくら警察公認で相手は犯罪者と言えども『排除=殺人』を意味しているわけで、進んで人殺しをしたいなんて奇特な人が集まるわけもなく、そうこうしている内に犯罪は年々増加の一途を辿る。
そんな状況を見兼ねた忠臣は、元から正義感が強い事や妻の美波も犯罪者の犠牲になった事が引き金となり、これ以上事態を悪化させたくないと自ら警察を退き、警察と裏で密に連携を取りながら犯罪者を排除する、言わば『殺し屋組織のボス』として生きる事を選んだのだ。
そして、そんな彼の助けになりたい、育てて貰った恩返しがしたいと伊織が組織加入を買って出た結果、二人は『殺し屋』という職業に就き、依頼があれば手段を選ばず即刻排除して人知れず日々の治安を守っているのだった。