『 さぁぁむっ♡』
そう言い俺に抱きつく。
始まった。
3ヶ月に1回、多ければ1ヶ月に1回くる、侑のちょーーーーデレ期。 正確に言えば、赤ちゃん返り。この衝動はいつ、どこで、どれぐらいかかるのか全く分からない。
ある時は夜寝る前になり、ある時は登校中に、ある時は部活の休憩中や、家族全員でテレビを見ている時などだ。期間は長いときで1週間。短いときで半日と言ったところか。
分からないことだらけのこの衝動だが、1つ言えるのは俺がそばにいる時。誰にでもデレる訳では無いらしい。
今は授業と授業の間の休み時間である。
いつも何となしに廊下に出て、俺と侑、それと角名と銀の4人で集まるのだ。その時に発動した。
一緒に居たのが角名と銀で良かったと、心の底から思う。
この2人は侑のこの行動に慣れてしまっている人達。なので別に驚くことも、引くことも、笑うことも無い。 何も見えていないんじゃないかって言うぐらい平然と話を続けているのだ。
それは俺も同じ。
“ちょぉ、無視すんなやぁ“ 何て駄々を捏ねている侑を、さも空気かのように華麗にスルーしている。それをツッこんでくる人は、誰1人と居ない。
そんなこんなで侑を無視していると、あからさまに不機嫌になり頬を膨らます。 “俺うさぎやから、無視されたら死んじゃうで…“ そう述べれば、俺の背中にグリグリ頭を押し付ける。
俺は観念して口を開いた。
『ちょっ、痛いて、それ。
離れてや 。お前の何処がうさぎやねん。 そんな可愛ええもんちゃうぞ。』
『えー?可愛ええやろ??どっからどうみても!
ややぁ~ フフッ 絶対離れへんっ』
罵ったつもりだったが、俺が返答したことが嬉しかったのだろうか。 嬉しそうにしては、へにゃりと笑う。そう考えると無視したら死んじゃう、というのはあながち間違ってないかもしれない。
けどまぁ、別にこーゆーのは嫌いではない。
侑やし、別にええか、って感じ。
夏の暑い日とかは、ホンマにやめて欲しいけど、まだ今ぐらいの季節なら許せるぐらいやし、ホンマに嫌なら無理やり引き剥がす。俺の方が力強いしな。
嫌なのは数人の男子の目。 侑を見て、ヒソヒソ話している。 少し気持ち悪い笑い方をし、ニヤニヤするその雰囲気が、ものすごく嫌なのだ。それに気づいていない侑は、周りのことなんか気にせず俺の名前を連呼し、ひっついてくる。こいつ、隙ありすぎやろ。。
侑の第一印象を聞いたら、多分ほとんどの人が、怖そうとか、話しかけにくそう、と答えるだろう。まぁ、実際女子とか、バレー下手くそな奴に対してはそうかもしれん。けど、身内認定した人達の前では人が変わったように幼くなり、甘えだす。だから、この侑を見た事ない奴は、ギャップに心惹かれるのだ。そしてまた俺の敵が増える。ホンマ、女にも男にもモテよって…
こんな侑知ってんの、俺だけでええのに………
そんなことを考えていると授業の始まりのチャイムがなった。
皆急いで教室に入っていく。
しかし侑は俺の服を掴んだまま離そうとしない。
んまぁ、いつものことである。
先戻ると言い普通に俺らを置いていく銀と角名を見送りながら侑の顔を覗き込む。
『ツム、戻らな。もう授業始まる』
そういう俺に、『ややっ。サムと離れたない…』
なんて負けじと言い返してくる。
同じ顔で、ほぼ同じ身長、体重の双子の片割れを時折とても可愛いと思ってしまう。だが伊達にずっとひとつ屋根の下で暮らしてる訳ではない。この感情を表に出すことはもちろんない。ポーカーフェイスが得意な方で良かったと思う。
『……次の時間もまた来てええから、』
そう述べれば優しく侑の右頬にキスをする。
ずっと駄々を捏ねていたのが嘘のように静かになって、少し顔を赤く染め、俺がキスしたところに手をあてる。
俺が想像していた反応とは少し違うかったから、ちょい楽しくて、もう1回やったろかなって思ったけど『っサムのアホ////』とだけ言って自分の教室に入っていってしまった。
後ろから見ても分かるぐらい耳まで真っ赤にして。。
誰も知らない侑の弱いところ。
それを俺は知っている。
侑は俺だけに見せる顔を何個も持っている。
それは俺だけのもんやし、勿論俺も侑にしか見せない顔を持っている。
俺しか知らない侑を独り占め出来んのは、
結構気分が良い。
侑が教室に入っていくのを見送ってから、
俺もその隣の教室に入っていく。
きっと侑も見た事ないような、
悪い笑みを浮かべながら。
コメント
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あー…フォロー失礼しますもう大好物です(?)