「出ていけ!」
「どこぞでのたれ死んだほうが世間様のためよ!」
あぁまたこの夢だ。
太宰さんに拾われてからもう何ヶ月も経った、仕事にも慣れて、鏡花ちゃんも探偵社に入社して、毎日が充実しているのにこの夢を見る。最近だと任務中にも院長の顔が頭にちらつく。
もう気にしているつもりはないのに彼の声が時折聞こえて、気持ち悪い。
お陰様で先日の任務の報告書が全く進まない。今朝起きると頭がズキズキするし、お腹が中から殴られるように痛い。体も少し火照っているような気もする。それでも今日は非番じゃないので出社するしかない。
朝ごはんもあまり手を付けず、僕は鏡花ちゃんと寮を出た。
まだ朝の8時なのに昼間みたいに暑い。頬から垂れた一滴の汗は鉄板のように熱気を発する石畳の上にぽたりと落ちた。
「大丈夫?」
と鏡花ちゃんが顔を覗き込んで聞いてきた。僕は年下に心配なんかさせまいと強く決めていたので、大丈夫だよ。探偵社についたら冷たい麦茶をもらおうか。と返事を返した。
鏡花ちゃんは納得したようですたすた歩きはじめ、ぴっとある場所を指さした。
「クレープ食べる?」
と質問するとコクリと首を縦に振り駆け足でクレープおじさんのところに駆け寄った。
鏡花ちゃんの買ったクレープはももアイスクレープ。確かにこの気温だとぴったりかもしれないが何しろさっき朝ごはんを食べたばっかり。
大丈夫?と聞いてもたぶんクレープは別腹と言うに違いないので。口いっぱいに甘いものを頬張る鏡花ちゃんを見守ることにした。
「敦、報告書進んでるか?」
声をかけてくれたのは国木田さん。大方僕の報告書の提出が遅いから心配してくれたのだろう。僕は「はい。」とだけ答えて作業を進めた。2、3時間後ふっと冷房が落ちた。たちまち社は灼熱地獄と変わり果てた。
国木田さんが急いで倉庫から扇風機を出したものの行き渡る風はジメジメとした熱風。鏡花ちゃんは黙々と作業を続けるが他の社員はそうは行かない。
太宰さんは国木田さんに文句が増え、国木田さんは狂ったようにタイピング、乱歩さんは浮き輪を片手にプールに行ってしまった。僕は朝からの体調不良もあったことで人一倍気分が悪かった。はぁはぁと走ってもいないのに息が切れる汗で服がぺっとり体について気持ち悪い。
頭にもやがかかったような感じがする。腹痛もますますひどくなった。報告書がようやく終わったので印鑑をおそうと思ったら朱肉が直美さんの机の上においてあった。
フラフラの体を腕力で持ち上げ足に力を入れたその時、カクッと力が抜けて体は床に叩きつけられてしまった。
「敦くん!」
太宰さんに呼ばれたような気がした。僕は誰かに抱きかかえられたまま意識を手放した
目が覚めるとひんやり冷たい風がほおをくすぐった。エアコンが治ったようだ。起き上がろうとしたその時ズキッとお腹に痛みが走った。
そうだ僕倒れたんだ。
「この阿呆。」
ドアを少し乱暴に開けて入ってきたのは国木田さんと太宰さん
「体調が優れないなら休め。無理をするな」
「敦くん、君働きすぎ。」
確かに今月で僕は15件の任務の解決、ポートマフィアと3回鉢合わせて乱闘、言われてみれば少し働きすぎたのかもしれない。でも無理するのはなれてる、苦しいのも我慢できる。だから大丈夫。今この瞬間でも院長の言葉が頭をよぎる。
すると太宰さんが口を開いた。
「敦くん君の中で院長さんはどんな存在かは私にはわからない。君を傷つけるものかい?それとも君の傷口を舐めてくれる存在?どっちにしろ君の人生だ。敦くん自分の道は自分で選び歩みなさい、私たちは其れを手伝うだけだよ。」