テラーノベル
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――100年後。2032年某日
世界は、かつての姿を保っているようでいて、確実に“別のもの”になっていた。
テレビでは今日も当たり前のように“能力犯罪”のニュースが流れている。空を飛ぶ人間、炎を操る人間、身体を異形へと変貌させる人間。
それらはもはや都市伝説でも、神話でもない。
「アポスター」
それが、彼らの総称だった。生まれつき持つものや突如能力に目覚めるものなど発生条件は未だ掴めておらず。だが全員能力に目覚める前にはこの言葉を聞くという。
―――授ける。
だが俺にとっては、そんなものは画面の向こう側の話でしかなかった。
少なくとも、あの日までは。
朝。
けたたましい目覚ましの音で叩き起こされる。
「……うるせぇな……」
手探りでスマホを掴み、アラームを止める。
カーテンの隙間から差し込む光が、やけに眩しかった。
いつも通りの部屋。
いつも通りの朝。
いつも通りの――退屈な日常。
「……?」
「あれぇ?」
━━━時計は8時32分を指していた
「やべぇ遅刻!!!」
俺の名前は如月千風、どこにでもいるしがない大学生だ。今は見ての通り講義に遅れそうなもんで急いで走ってる。いいよなぁ、能力者は、空飛んだりめちゃくちゃ速く走ったり、なにかに遅れることなんか無いんだろうなぁ。。。
「ゲッ、信号引っかかっちまったよ〜(泣)」
そんな独り言を呟いているとふと近くのビルのでかいモニターのニュースが目に入った。
『またアポスターによる暴走事件です――』
……正直、どうでもいい。
関わることなんて、一生ないと思ってた。
そう、“思っていた”。
その日の帰り道。
夕焼けがやけに濃く、空気が妙に重かった。
「……なんか、変だな」
人気のない裏道。
いつも通っているはずなのに、今日はやけに静かだった。
――いや、“静かすぎる”。
その時だった。
「……っ!?」
視界の端で、何かが光った。
青白い光。
まるで――心臓の鼓動のように、ゆっくりと明滅している。
足が、勝手にそちらへ向かっていた。
「なんだよ……これ……」
目の前、それはあった。
球体。
不自然なほど滑らかで、人工物にも自然物にも見えない。
触れてはいけない。
本能が、そう警告している。
なのに――
「……っ」
気づけば、手を伸ばしていた。
瞬間。
世界が、歪んだ。
頭の奥で何かが弾ける。
骨が軋み、血が沸騰するような感覚。
「ぐ、あぁぁぁぁあああああ!!」
視界が白に染まる。
その中で、何かが“流れ込んでくる”。
記憶じゃない。知識でもない。
もっと根源的な――“力”。
――授ける。
誰かの声が、聞こえた気がした。
気づいた時、俺は地面に倒れていた。
荒い呼吸。震える手。
だが――
「……なんだよ、これ……」
指先に、淡い光が宿っていた。
確かにそこにある、“ありえない現象”。
その光は、すぐに消えた。
「……はぁ、はぁ……」
息が荒い。
全身が妙に軽いのに、芯の方が焼けるように熱い。
何かが変わったのは分かる。
でも、それが何なのかは――
「……わかるわけねぇだろ……」
ふらつきながら立ち上がる。
その時だった。
――ドンッ!!!
遠くで爆音が鳴り響いた。
「っ!?」
地面がわずかに揺れる。
「……なんだよ、今の……」
反射的に音のした方へ目を向ける。
煙が上がっている。
それも、一つじゃない。
「おいおい……冗談だろ……」
嫌な予感がした。
さっきまで“関係ない”と思っていたものが、急に現実味を帯びてくる。
気づけば、足がそっちに向かっていた。
⸻
現場は、酷い有様だった。
道路は抉れ、車はひっくり返り、ガラスが散乱している。
そして、その中心に――
一人の男。
「アハハハハハ!!!いいぞッ!!! 潰れる……潰れるぞッ!!全部!!」
腕を振るたび、見えない何かが地面を叩き潰す。
まるで空気そのものに“重さ”があるみたいに。
直感的に理解した。
あれは、ただの力じゃない。
空間ごと押し潰しているように見えた。
その時、男がこちらを見た。
目が合う。
「!!!こいつ今日の朝の―――」
ニュースで見た顔。
間違いない。
逃走中の暴走アポスター。
「……いいところに来たなぁ」
男が笑う。
「試す相手が欲しかったんだよ」
(やばい……)
俺は本能的にその場から逃げようとする。
――が。
「ぐっ……!?」
体が、動かない。
空気が重い。
さっきの比じゃない。
肺が潰れるみたいに苦しい。
「どうだ?立ってるだけで辛ぇだろ?」
男が一歩近づく。
その一歩で、さらに圧が増す。
膝が震える。
(……死ぬのか?こんなとろで?嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだいやだいやだ!!!)
「うわあああああッッッ!!!!!」
俺は無意識に手を前に押し出した。
その瞬間。
ゴウゥッッ!!!
「何イッ!!!」
ドォォォォン……
刹那、男が吹っ飛ばされ俺にまとわりついていた圧は消え、その場にうずくまった。
「ハァ……ハァ……ゴホッゴホッ……」
とはいえ俺も無事ではない折れてはいないがだいぶ全身が痛い。押しつぶされかけたからね。
(と……とりあえず逃げなき)
ズドン
「おい。」
(!?)
「さっきはよくもやってくれたなぁ……ッ!!!」
(畜生ッ!もう戻ってきやがったのか!)
「よくもやってくれたなぁ……なかなかに痛かったぞ……次は確実に殺す!死ねぇい!!!」
「待ちなさーーーーい!!!」
「な……ッ!!!」
ズドン!!!!
刹那、男はなにか落ちてきた物に押しつぶされるような形で地面に叩きつけられた。何が落ちてきたかは煙のせいでよく見えない。
「何が……起きたんだ?」
煙が晴れてきた、男は完全に伸びていた、なんなら首ぐらいまで地面にめり込んでいた。そして゛それ ゛をした人物が見えてくる、筋骨隆々のゴツイ上裸の男だった。
「フゥ〜ッ!!!やり甲斐のない男ね、男はもっと根性付けなさいよね!!!」
「げぇッ!」
オカマだ、多分、いや確実にオカマだ。
「げぇって何よーあなた失礼ね!……まぁよく粘ってくれたわ、あなた、授物(ギフト)を貰って間も無いでしょ?」
(ギフト?何言ってんだ?)
「おいおい、何言ってんだよ、俺はただの一般人だよ」
「……あー、そういう感じね、分かったわ。まずは現実を受け入れなさい。」
すると男は手鏡を差し出し俺を写してくれた
そこに映る“自分”。
「……は?」
思考が止まる。
黒髪だったはずの髪が――
「……なんだよ、これ……」
白く、変わっていた。
その中に、紫が混じっている。
見たこともない色。
見慣れたはずの自分じゃない。
「……嘘だろ……」
指先が震える。
だが、その奥で――
風が、静かに揺れていた。
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