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【笑うあの子の裏事情】
Episode.7 名前を呼ぶ、ということ
《🎼🍍side》
四時間目のチャイムが鳴る。
🎼🍍「はい、教科書出せー」
1年1組。
俺の担当、歴史。
窓際のカーテンが少し揺れて、
外の光が教室に差し込む。
──天気は、今日もいい。
黒板に板書しながら、
何気なく、教室を見渡す。
前の方で、姿勢よく座っている生徒。
後ろで、机に頬杖をついている生徒。
いつもの、いつも通りの光景。
🎼🍍「今日は、平安時代の続きだ」
ページ数を告げると、
紙の擦れる音が広がる。
🎼🍍「じゃあ……」
チョークを持ったまま、視線を一人に定める。
🎼🍍「紫雨いるま《シバウ イルマ》」
名前を呼ぶと、
すぐに顔が上がった。
🎼📢「はい」
声ははっきりしている。
🎼🍍「この時代、貴族が重視していた文化は?」
🎼📢「……和歌や、物語文学です」
🎼🍍「具体的には?」
🎼📢「『源氏物語』などです」
🎼🍍「正解」
短く頷く。
教室のあちこちから、
「さすが」「またかよ」なんて小声が漏れる。
紫雨いるまは、
“できる生徒”だ。
授業態度も、理解度も、
申し分ない。
🎼🍍「じゃあ次」
今度は、その後ろ。
🎼🍍「黄野みこと《オウノ ミコト》」
🎼👑「……えっ、俺!?」
一瞬、目を見開く。
🎼🍍「同じく、この時代の政治で、力を持っていた人物は誰?」
🎼👑「えーっと……」
みことは、教科書をぱらぱらめくる。
🎼👑「えっと……なんか……えらい人!」
🎼🍍「……名前は?」
🎼👑「ぅえ、名前!?」
周りがくすっと笑う。
🎼👑「えー……藤……なんとか……」
🎼🍍「ヒントはないぞー」
🎼👑「うっ……」
みことは、完全に固まった。
🎼👑「……ぅ分からないです…」
🎼🍍「正直でよろしい」
教室が少しざわつく。
🎼🍍「藤原道長だ」
🎼👑「あー!」
みことは頭を抱えた。
🎼👑「それ昨日言ってたやつや……」
🎼📢「言ってたな」
🎼👑「うわ、俺聞いてなかった……」
🎼🍍「次は聞け」
🎼👑「はい……」
肩を落としながら座る。
──いつもの光景だ。
授業はそのまま進む。
説明をしながら、
俺の視線は、自然と紫雨いるまに戻る。
板書を写す手。
時折、頷く仕草。
問題ない。
あまりにも、問題がなさすぎる。
*
チャイムが鳴った。
🎼🍍「今日はここまで」
「起立」
「礼」
「ありがとうございました!」
教室が一気に騒がしくなる。
🎼🍍「いるま」
片付けをする背中に、声をかける。
🎼📢「はい?」
🎼🍍「次、移動教室だな」
🎼📢「まぁ、はい」
🎼🍍「遅れるなよ」
🎼📢「遅れるとしたらアイツです」
即答しながら、いるまはみことを指さす。
それ以上、続く言葉はない。
🎼👑「なつ先生ー!」
横から、みことが来る。
🎼👑「俺、次の小テスト、絶対やばいですよね…?」
🎼🍍「自覚はあるんだな」
🎼👑「あるから言ってるんです!」
🎼🍍「復習しろ」
🎼👑「それができたら苦労しないんですよっ!!」
そう言いながら、
みことは友達に引っ張られて廊下へ出ていく。
いるまも、
その流れに乗って教室を出た。
振り返らない。
表情も、歩き方も、
何一つ変わらない。
──異変は、ない。
だが。
保健室で見た、
あの明るすぎる笑顔が、
頭の片隅に引っかかる。
同じ年。
同じ学校。
同じように名前を呼ばれているのに、
抱えているものの形は、きっと違う。
教師は、
名前を呼ぶことしかできない。
その先に踏み込む理由を、
まだ、俺は見つけられていなかった。
next.♡700
コメント
12件
兄弟なら、親に期待されて、それにたえようとした紫にきと耐えられずに崩壊しちゃった瑞ちゃんって感じなのかな。どちらにせよ2人ともつらい思いしてるよね、
いるま君とみこと君ももしかして何かあったりするのかな…、?
📢くん出てきた!!頭良いんだね✨ (((その頭脳くだs((殴 ☔くんと兄弟…??双子?…だよね? 続き楽しみにしてまっする(๑و•̀Δ•́)و