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鏑木さんが”しのれな”を道具としてしか見ていない、だって?私…俺が会ったあの人は温厚で、とてもそんな風な人には見えなかった。「…あの人が兄と言い争っているところを何度か見かけたんです、……実は、わたしは鏑木に…脅迫されていました。その事を兄に相談したら、僕がなんとかする、って言ってくれて」「そんなことが……脅迫というのは……どういったことをされたんですか?失礼でなければ教えていただきたいのですが」彼女は震える手を強く握りしめて、か弱い声で話し始めた。それは聞くに堪えない内容だったのでここでは伏せるが、まあ、彼女自身の人格や人間性を否定するようなことをされていたということだ。鏑木さん…鏑木がまさか、そんな男だったとは……。俺は彼女のファンとして純粋に腹が立ってきた。「この事を!世間、若しくは然るべき機関に訴えてやりましょうよ!!」彼女は俯いて、短く一言。「証拠が…証拠が……ないんです…」今度はカーテン越しに桜の葉を見つめながら。「…兄の死亡事故…あれは事故ではなくて、鏑木に殺害されたのではないかと…思っています……」「自分が支配下に置く者の兄が歯向かってきて、邪魔になって…ということですか……」「ええ、ひどく揉めていましたから」確かに殺害動機としては充分ありえる話だ。言い方は悪いが、揉めに揉めた末の殺害というのはよくあるパターンだ。しかし、再び私の予”勘”が俺に告げる。俺の頭には、ある疑問が浮かんだ。……犯人が鏑木であるとしても、生活圏から程遠い、郊外のプレハブ小屋まで行って、死体の顔を全焼させる必要はあったのだろうか。そんな面倒なことをせずとも、例えば、近場の誰もいない、防犯カメラもないような路地裏で絞殺……でもよかったのでは?何故、わざわざ、手間も時間もかかる方法を選択したんだ?そもそも、どうやって険悪な仲である筈の達介氏を誘い出したのか。どうも腑に落ちない……。「鏑木は、あの男は兄の死後、一週間の休みを取っていました。怪しすぎます。色んなことが思い起こされて、わたしの心は…耐えられなくなって……事務所からも、世間からも距離を置くことを決めたんです」一週間の休み?は、間違いなく怪しいが……もし、私…俺が犯人だったら、犯行後は敢えて普通に過ごすべく心がけるだろう。疑われる要因を自分で作るようなものだからな。やはり、この事件には何か裏がある。『プレハブ小屋』、『顔の全焼』、『一週間の休み』これら全ての要素が繋がって導きだされる真実が― 次回 第10話「緩 衝」