あっという間に日々が過ぎ去り、カレンダーは9月に。
幸い1日2日は土日なので妹の学校が正式に始まるのは3日からだ。
土曜日だというのに朝早くに起き、車に揺られる。匠の家の高級車と違い、うちの車は一般的な乗用車。
シートも革ではない。そのため車独特の香りがする。そして振動も匠の車と比べると大きい。
その香りと振動で酔いそうになるので車に乗った瞬間、スマホにイヤホンを差し、耳に入れ
音楽アプリで「お気に入り」のプレイリストをシャッフル再生する。
Crystal Peanutさんのラップ曲、CReeeeNさんの懐かしい曲、そんな曲を聴いていると
いつの間にか眠っていたようで隣の妹に起こされる。どうやらサービスエリアに着いたらしい。
トイレを済ませて、酔うから朝ご飯を食べなかった僕に母が
「お腹空かない?なんか食べる?」と気を遣ってくれたが
これまた酔うからという理由でなにも食べなかった。
自動販売機で飲み物を買うとすぐにまた車に戻り酔いとの闘い。
音楽を聴き、頭の中で歌っているといつの間にか眠っていたらしく揺れで起きる。
しかしその揺れは妹によるものではなくオフロードを走っているための車の揺れだった。
不思議なことだが微々たる揺れが続くより、大きく揺れてもらったほうが酔わない。そんな気がする。
父方の祖父母は住宅街に住んでいるが母方の祖父母は田舎に住んでいる。
まずは母方の祖父母の家に行くらしい。砂利道を通っていると車の速度が落ちていくのがわかる。
「お兄ちゃんついたよ」
と妹に揺らされる。目を開けるのと同時に車が止まる。
ドアを開け、外に出て深呼吸をする。なぜか東京よりも空気が軽く澄んでいる気がした。
「お母さぁ〜ん!」
「来たのねぇ〜」
母が祖母に手を振る。
「あ、お母さんおひさしぶりです」
「よく来たわね。疲れたでしょ〜。あ、怜ちゃん!」
と祖母が父の元から僕の元に駆け寄る。
「うっす」
「うっす。あ、夢ちゃんも!」
「あ、おばあちゃぁ〜ん!」
妹が祖母に駆け寄り、手を合わせる。すると縁側から祖父が姿を現し
「おぉ〜よく来たなぁ〜。上がれ上がれ」
と言った。家族で荷物を持って家に入る。日本古来の家の造りで、個室はなく、大広間が2部屋広がっていた。
畳の香りがスッっと鼻に入ってくる。落ち着く。
荷物を置いて大広間の大きな座卓の周りに座る。スマホを取り出しホームボタンを押す。
「おはようございます。もう山梨ですかね?」
時間を確認するより先に妃馬さんからの通知が目に入る。
「お兄ちゃんなにそれ。なんのアクキー?」
スマホの下の方でアクリルキーホルダーが揺れる。
「あ、これ?これユナハーと…なんだっけ?なんかのアニメのコラボのやつ」
「へぇ〜」
妹がアクリルキーホルダーを手に乗せてまじまじと見る。
「可愛いね」
「可愛いよな」
「どこで買ったん?」
「Animania(アニマニア)」
「えぇ〜珍しいね。お兄ちゃんアニメとか興味ないでしょ」
「まあぁ〜…ステップとかのやつは見るよ?あと話題のアニメとかは」
「ふぅ〜ん。妃馬さんとおそろ?」
「え?」
「あ、図星」
「まあ…でも匠とか鹿島も持ってるから」
「あ、そうなの?なぁ〜んだ。でも同じやつつけてたり」
「違うね。別のやつ」
「はぁ〜」
妹もアクリルキーホルダーから手を離した。アクリルキーホルダーが揺れる。
妃馬さんからの通知をタップし、妃馬さんとのトーク画面に飛んで、返信を打ち込む。
「おはようございます。もう祖父母の家に着きました」
送信ボタンをタップする。
「サービスエリアかなんかで食べてきたか?」
「ううん。怜夢が車酔いするからって食べてないよ?」
「あらじゃあお腹減ってるでしょ。怜ちゃんなんか食べる?」
「あ、うん。じゃあお願い…します」
「なにがいい?ラーメンとかスパゲッティとか炒飯とか」
「あ、じゃあラーメンで」
「何味がいい?味噌、醤油、豚骨もあるよ」
「じゃ味噌で」
「ん。わかった。あんた達も食べる?夢ちゃんは?」
「うん!食べる!」
「じゃあ、お願いします」
「私も手伝うよ」
「じゃあ野菜切って」
「はいはい〜」
と祖母と母が料理を始めた。
そして野菜タンメンかな?と思うほど多くの野菜の入った味噌ラーメンと
氷の入ったグラスに麦茶、麦茶のパックが入っている容器「麦茶ポット」というものも
テーブルの上に出してくれた。祖父母も含めた家族全員でいただき
汁まで飲まなかったラーメン丼ぶりをシンクまで運ぶ。
お皿洗いは祖母と母がやってくれた。父は祖父と話しており、妹と僕はテレビを見ていた。
「お兄ちゃんこのタレント知ってる?」
「あぁ。こないだも深夜のバラエティー出てた」
「この人なんか調子乗ってない?」
「怖っ。イジメするやつの言い方」
「違うよ。なんてーの?大御所の人にタメ語使ったりするじゃん」
「するね」
「調子乗ってるプラスふつーに好きじゃない」
「あぁ。もっさんと似た思考」
「もっさんて?」
「森本さん。前写真見せたろ?えぇ〜!?可愛いぃ〜!って言ってた人」
「今の私のマネだったら殴るけど」
「え?そうだけど?」
肩に鈍痛が走る。
「いった!マジ?可愛い妹の力加減じゃないぞ?」
「え?可愛い?私?」
「あの力で殴っといてぶりっ子しても恐怖でしかない」
「で、どの人?」
「あの激変顔してた」
「あぁ〜!はいはい!あの人ね」
「あの人も調子乗った芸能人マジ嫌いらしい」
「やったぁ〜美人とお揃いだぁ〜」
「嬉しいんか」
「嬉しい」
「変なの」
父は祖父とお昼からお酒を飲み、妹と僕はただテレビを見ていた。しばらくテレビを見て
妃馬さんからの返信があるかと思いスマホのホームボタンを押し画面をつけると
匠から個人LIMEが届いていた。
「あれ。そういえば怜夢、実家行くの今日だっけ?」
無言でその通知をタップし、ひさしぶりに匠との個人LIMEのトーク画面へ飛び、返信を打ち込む。
「なう」
とだけ打って送信ボタンをタップする。「なう」というメッセージがトーク画面に表示される。
送った時刻のその上にすぐに「既読」がついた。どうやらトーク画面を開きっぱなしらしい。
寝たか?
と思いながらトーク画面を去ろうとすると匠側にメッセージが表示される。
「行けたら、ついででいいんだけど、オレの人生を救ってくれた作品の聖地が山梨でさ
マジで行けたら、ついででいいんだけど写真撮ってきてくんない?
道の駅とか等身大パネルとか、あと自動販売機とかもその作品仕様になってるはずだから
マジ行けたら、ついででいいからお願いします」
と送られていた。父に車で…とも思ったが、運転できる祖父も父もアルコールを入れてしまっている。
しかしこれから夜までまだまだ時間があった。事情を話して母にお金を借りて
「ちょっと散歩してくるわ」
と慣れない町を散歩することにした。よほど暇でやることがないのか妹もついてきた。
「どこ行くの?」
と当たり前のように聞かれたので、これから行くところを話した。
妹とほんとにのどかで、家と綺麗なお庭、畑がある道を歩く。
木々も生い茂っていて自然の中の町という感じだった。車の行き来も少なく
カブと呼ばれる郵便配達のバイクのようなバイクのほうが多く走っている気がした。
「ガードレールから落っこちんなよぉ〜」
「落ちないよ。…うわっ、崖だ」
「嘘?…崖…でもねえじゃん」
「まあ崖では…ないね」
「おぉ、サビサビのガードレール。東京じゃ見ないな」
「たしかにね!わっ、ザラザラ」
「触んなよ」
「いや、触りたくなるでしょ。…クサッ!」
「鉄クセェだろうな」
「ほら」
「いいいい。嗅がないから」
「ほれほれ」
「来んな」
そんな話をして迫る妹から走って逃げた。しかしさすがは現役バスケ部。体力もあるし足も速い。
「はぁ…はぁ…タンマタンマ…」
「はぁ…はぁ…お兄ちゃん息上がりすぎ…はぁ…あと止まらない。
…はぁ…走ってていきなり止まるとダメらしいよ。ほれ歩く」
妹にパンッっとお尻を叩かれ、渋々歩く。
「あとどんくらい?」
「はぁ…はぁ…」
スマホのロックを解除する。地図アプリでルート案内をお願いして
そのまま電源を落としていたので開くとルート案内された地図が出る。
「あと…1時間32分」
「は!?1時間32分!?」
「あ、今31分になった」
「は!?なにそれ!?鬼歩くじゃん」
「だから言ったじゃん。家出るときに歩くよって」
「んなの30分くらいだと思うじゃんか!」
「田舎舐めんなよ」
「うっ…」
「都会感覚だろ。道の駅なんかアホほど遠いぞ」
「ぐうの音も出ん…」
「ま、田舎は車とかバイクが移動手段として基本だろうからな」
「どっか自転車借りれるとこないの?」
「あぁ!なるほどチャリか。調べてみるか」
と言って調べてみたものの、田舎すぎてレンタサイクルなどはなかった。
仕方なくそのまま歩いて向かった。妹と大声で歌ったり、しりとりをしたり
妹が今ハマっているものを聞いたり、1時間以上も時間はあったのでたっぷりと話した。
やっとこさお目当ての道の駅が姿を見せた。
利便性も良くない、特にこれといってめぼしいものもないはずなのに
その道の駅だけはなぜか駐車場にもそこそこ車が停まっており、道の駅自体もどこか小綺麗な気がした。
「うわぁ〜こんなとこあったんだ?」
「こんなとこあったんだって。地元民でもないくせに」
「たしかに」
すぐに匠の言った自動販売機が目に入った。4つ並ぶ自動販売機はどれもアニメ仕様になっていた。
「かわいー!なにこれ!」
「お目当てのです」
「え、お兄ちゃん好きな作品なの?」
「匠が好きなの。ちょっとどいて。写真撮るから」
そう言って妹をどかし4つ全部まとめて写真を撮った。すぐに匠に送る。
「へぇ〜小野田くん好きなんだぁ〜。オタクになったって言ってたもんねお兄ちゃん」
「そそ。とんでもないオタクにね。んでここがその匠の好きなアニメの聖地らしい」
「そーなんだ」
道の駅に入るとき、奥の方にテントが複数あるのが見えた。どうやらキャンプ場らしい。
道の駅に入るや否やビックリした。その道の駅はそのアニメ一色と言ってもいいほどだった。
匠の言った通りそのアニメの女の子と思われる5人がまるで戦隊モノのようなポーズを決めてた。
「かわい〜!お兄ちゃん写真撮って!」
「そのつもりです」
僕はその5人を撮るつもりでいた。6人になった。
「あぁ、そーゆー」
アニメのキャラクターが5人並んでいる真ん中の女の子の前で妹がしゃがみ
真ん中のキャラクターと同じように両手を広げる。
「はい行くよー」
カシャ。
「3枚くらい撮って」
「はいはい」
言われた通り3枚、合計4枚撮った。
「可愛く撮れた?」
「知らん」
「送っといて」
「はいはい」
妹がこっちに来たので5人だけを写真に収めた。
匠に送ろうとスマホのホームボタンを押し、画面をつけると匠からLIMEが来ていた。
「おぉ!可愛い!最高じゃん!なにこれマジか。ありがとう親友よ。これでまた1年生きていける」
どんだけだよ
と心の中で笑いながら写真を送信し
「じゃあまたこれでもう1年生きられるなw」
と送った。そして他にもグッズ売り場や
探偵のような格好をした2頭身のキャラクターのパネルや、アニメの場面を切り取った写真や
映画のポスターなどが飾られている小さな展示場みたいなところも写真に収めた。
「これこれ!これ…うわぁ〜…直で見たかったわぁ〜…免許取ろうかな」
「あれ?6人になってる?w」
「夢香ちゃんはしゃいでんなw可愛い」
「夢香」
「ん?」
「良かったね。可愛いってさ」
「なにが?」
「夢香が」
「誰が」
スマホの画面を見せる。
「んー?あ、小野田くん!…おい!なに送ってんだよ!」
「ごめん。間違えて送っちゃった」
「絶対わざとじゃん。恥ずいわぁ〜」
「匠には可愛く見られたいもんな」
「うるさ。イケメンに可愛く見られたくない女子はいません」
そんな話をしながら写真を送る。すると匠から
「スクーターなかった?スクーターの写真も頼む」
と送られていた。そうえいば5人の戦隊モノのようなポーズをしたパネルのすぐ側に
空色というのか水色というのか、綺麗な色の可愛いスクーターがあった。
どうやらそのスクーターもアニメに関係あるものらしい。そのスクーターも写真に収めた。
そこでグッズを少し買って外に出た。匠はLIME越しでもわかるくらい大いに喜んでくれていた。と思う。
道の駅の奥に見えた広場に行く。キャンプ場というよりは遊具のない公園のような広場だった。
恐らくそのアニメが好きな人たちなのか
純粋なキャンパーなのか、テントが複数あった。一応そこも写真に収めた。
「じゃ、帰るか」
「えぇ〜また2時間歩くのぉ〜」
「しゃーない。歩かな帰れん」
「そりゃそうだけど…はぁ。飲み物買って!」
「はいはい」
妹の分、そして自分の分の飲み物を買って帰り道を歩き始める。
幸い12時前に出たというのもあって、まだ祖父母の家付近に着くまで陽が暮れることはなかった。
妃馬さんに送るため、その道の駅からの帰り道、写真をたくさん撮った。
祖父母の家に帰り、妃馬さんに写真を送ったり
メッセージのやり取りをしながらテレビを見ていると夜ご飯に。
その夜は祖父母が娘が来るから、娘の旦那来るから、孫が来るからと思ったのだろう、すき焼きだった。
まだ暑いのにすき焼きかぁ〜。とも思ったが、やはりすき焼きは美味しかった。
昼から飲んでいた祖父と父は夜ご飯が終わると早々に布団を敷いて寝てしまった。
山梨でも盛えているところは違うと思うが、母方の祖父母の家のある町は東京と違い、夜になるとすごく暗い。
一軒家しかなく高いところの明かりは街灯しかない。そのため星が綺麗に見える。
もちろん綺麗だなと思ったけど、毎年見ているし
なによりついこないだ行った旅行での露天風呂で見た星空の感動がすごかったので
少し感動が薄れた。祖父母が予め買っていてくれたらしい花火を出してくれて
庭で祖母、母、妹、僕で花火をした。
本来は千切るらしい先端のピョロっと出た紙にライターの火をつけ、途中で消えてまたつけ直したり
妹が動画を撮ってほしいということだったので花火をしている妹
花火を振り回している妹を動画に収めたり、花火を楽しみ尽くした。
祖父と父が寝ているほうではない大広間に布団を敷いて、ひさしぶりに家族で川プラス1の字で寝た。
隣で妹がまだスマホでなにかしていたので僕もスマホで妃馬さんとやり取りした。
「匠に頼まれて匠の好きなアニメの聖地行ってきました」
写真を複数送信。
「あ、このアニメ恋ちゃんも好きなやつ!」
「この方は怜夢さんの妹さんですか?」
「そうなんですね」
「あ、そっか。妃馬さん妹の顔見たことないんでしたっけ」
「小野田さんに見せてもらってるかな?」
「ないですないです。可愛いですね!」
「あぁ、写真ですか。見せてもらってるかもですね」
「可愛い…まあ、可愛いほうかな?顔は」
「送ってみてもいいですか?」
「可愛いです可愛いです!嫉妬するくらい可愛い」
「いいですよ」
「嫉妬するくらいw」
妹が花火を振り回している動画。
「送ってみよー」
「身近にこんな可愛い妹さんいるから私が霞んじゃうかなーって」
「花火!いいですね!手持ち花火!」
「どうぞどうぞ」
「霞んじゃうw霞まないですよ全然」
「煙すごいですけどねw」
「霞まないです?」
「たしかにw線香花火しました?」
「全然全然。敵わないからw」
「僕はしてないですね。見てました」
「敵わない。妹さんの可愛さに私が?」
「見る専w」
「逆逆ww」
「祖母、母、妹でしゃがんでやってました。パチパチと」
「逆と言いますと?」
「簡単にイメージできますねw」
「わかってるでしょw」
「線香花火はしゃがんでするイメージですもんね」
送信ボタンをタップする。あくびが出る。今日は歩いた。1週間分くらい歩いた。
その疲れからなのか、はたまた朝早起きしたからなのか
早くに眠くなってしまい、ひさしぶりにスマホを握ったまま寝落ちしていた。
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