テラーノベル
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耳まで響く鳴り止むことのない蝉の声 。
教室まで聞こえてくる部活生の声 。
「ねえ 、 あれ常磐先輩じゃない!?」
1人の女子が窓越しに校庭で活動してる野球部を指さす、指差した先に目を向けると格好良いで有名な1人の先輩がいた 。
『ほんとだ 、常磐 捺月…だっけ?フルネーム 。』
ふとその女子に問うと「そう !」と目をキラキラさせて答えた 。
「噂なんだけど、お父さんが大手企業の社長 ?みたいな、!本当すごいよね」
『そんな噂あったんだ … 常磐先輩の家庭は裕福なんだね 。』
多分、私だけこの噂は知らなかったと思う、常磐先輩のファンなら知ってるはずの噂 。
水筒の麦茶を口に含んで飲み込みながら常磐先輩の方へと目線を移した、相変わらず整った顔をしている 。
「染宮 、どうかした ?」
『んや、暑いなって思ってただけ。』
ぼー っと常磐先輩を見つめていたのを誤魔化そうとした結果、下手くそな言い訳する羽目になった 、すると「あー 」と共感の声が聞こえる 。
「確かに、今日の気温34だっけ?」
『真夏にも程があるよね 、どうにかなんないかなー。』
「紫外線強いのだけはやめて欲しい、日焼けしちゃう 。」
『日焼け止め塗っても日焼けしちゃうの嫌だなぁ。』
自然と話が弾んでいると、休憩しにきた野球部員たちが一斉に水道へと駆け寄った。その中に、常磐先輩の姿もあった。
「あ、先輩こっち見た!」
隣で友達が弾んだ声を出す。慌てて視線を外そうとしたけれど、それよりも早く、常磐先輩と目が合ってしまった。
彼は首にかけたタオルで汗を拭いながら、ふいっとこちらを見て、ほんの少しだけ、困ったように笑った気がした。
『え、今の … 』
友達の「私のこと見たよね!?」という興奮した声が遠くに聞こえる。
私は、胸の奥がチリッと焼けるような感覚を覚えた。
駄目だ、染宮。あの子は、彼女がずっと前から好きだった人… 私はただ、名前と噂を知ったばかりの部外者なはずなのに 。
「ねえ、染宮も今の見たでしょ!?絶対こっち見たよね!?」
隣で顔を上気させて詰め寄ってくる彼女――親友の芽衣は、中学の頃からずっと常磐先輩を追いかけている。
芽衣の真っ直ぐな瞳を見るたび、私の胸のチリつきは、じわじわと苦い後悔に変わっていく。
『……うん、見てたね。芽衣のこと、気づいたんじゃない?』
嘘はついていない。でも、目が合った瞬間に感じたあの「困ったような笑み」が私に向けられたものだったなんて、口が裂けても言えなかった。
「やっぱり!?……ねえ、お願い染宮。私、今日こそ部活終わりの先輩に差し入れ渡したいんだけど、一人じゃ勇気出なくて。一緒に来てくれないかな?」
『え……私が?』
「お願い!染宮がいてくれたら、私、ちゃんと話せる気がするの」
芽衣の切実な声に、私の心臓が嫌な音を立てる。
断る理由なんて、どこにもない。だって私は、ただの「部外者」のはずだから。
『……わかった。放課後、一緒にいこっか』
無理やり作った笑顔が、夏の熱気で溶けてしまいそうだった。
窓の外では、また練習に戻った常磐先輩が、砂埃を上げて白球を追いかけている。
その姿が眩しければ眩しいほど、私の心には影が落ちていった。
放課後。
校門のそばにある大きな楠(くすのき)の影で、私と芽衣は立っていた。アスファルトからは昼間の熱気がまだ立ち昇っていて、じっとしているだけで汗が滲む。
「……ねえ、変じゃないかな。髪、ボサボサになってない?」
芽衣はさっきから何度も手鏡を覗き込み、前髪を気にしている。その手には、丁寧にラッピングされたスポーツドリンクと、小さなメッセージカード。彼女の本気度が伝わってきて、私は自分のポケットの中で握りしめていたハンカチを、より深く押し込んだ。
『大丈夫。芽衣、すごく可愛いよ。』
本心だった。好きな人を待つ女の子は、こんなにも表情が動くんだ。それに比べて私はどうだろう。応援する側のふりをして、心の中では「先輩が来なければいいのに」なんて、最低なことを一瞬でも考えてしまった。
「あ、来た……!」
芽衣が短く息を呑む。校舎の方から、数人の男子部員と一緒に、常磐先輩が歩いてくるのが見えた。エナメルバッグを肩にかけ、少し疲れたような、でも練習をやり遂げた後のような清々しい表情。
沈む夕日が、先輩の横顔をオレンジ色に縁取っている。昼間に遠くから見た時よりも、ずっと大人びて見えて、私は思わず息をするのを忘れた。
先輩たちが私たちの方へ近づいてくる。芽衣が私の腕をぎゅっと掴んだ。その震える指先が、「これは彼女の恋なんだ」と残酷なまでに思い出させる。
「お、常磐、今日の練習よかったな!」
一緒にいた男子部員が常磐先輩に話しかけ、先輩たちの足が止まった。常磐先輩は少し驚いたように目を細め、それから、私たちの正面に立った。
「……あ、えっと、常磐先輩!これ、もし良かったら飲んでください!」
芽衣が精一杯の声を振り絞って、差し入れを差し出す。先輩は一瞬だけ、差し出された袋に目 を落としたけれど。
「……ありがとう。でも、ごめん。気持ちは嬉しいんだけど、個人的な差し入れは受け取らないことにしてるんだ。」
申し訳なさそうに、でもきっぱりとした声。芽衣の肩が、小さく跳ねた。
その場の空気が凍りついたような気がした。何か言わなきゃ。芽衣をフォローしなきゃ。そう思った瞬間、常磐先輩の視線が、芽衣の隣に立っていた私へと動いた。
「…君、見たことあるね。」
先輩の言葉に、心臓が跳ね上がる 。
コメント
3件
おっとこの展開は好きすぎる、、。なんか最初の「困ったように笑った」とかもう好きすぎるんだが!?てかノベルも上手すぎ。ほんとに好きだわこれ、、。なんか設定とか会話とか細かくて好きだし展開も好きだし場面も好き。 あなたの脳みそ好き。(?) 続き待ってます、、
書籍化まだ?