『海にでも行こうか』
『別にいいよ』
『ふふ』
にこりと微笑む寂雷を見て僕はむず痒くなる。
その反動かそっぽを向いた。恥ずかしい気持ちとかまたむず痒くなってしまうのが嫌だったんだろう。
『随分と素直になったね』
『はぁっ?!なんのことだよっ!』
『そういう口の利き方とかですかね、あ、次の電車は……』
人の勝手に分析しては本人に言ってくる。分析するのはどうだっていいが本人には普通言わないだろう。
偽物の笑顔だとか、作ったキャラクターだとか、変なことを言ってくるところがムカついた。
僕のことを何でもかんでも知ってるかのようなそんなところが酷く嫌いだった。
なのにどうしてここまで暖かいのだろう。
胸にひとりと染み付くその暖かさは僕の心を離れなかった。
いつしかそれが離れそうになる度にそれを寂しく感じ引き止めそうになる。それが事実であった。
『早く行かないと電車がっ!』
『はいはい』
寂雷にからかわれるかのように言われた。
その「はいはい」という言葉は、まるで親が子に向けるような発言だった。
微笑みもまるで親、彼の本心なのであろう。
衢のことで突っかかっり続けた僕はとんだ最低野郎だな。自分の子も同然の人を昏睡状態にされて、なおかつその相手は目の前にいて突っかかってくる。
嫌で嫌でしょうがないはずなのに。
気付かされたからなんなんだ。事実に何の変わりもない。
風に乗せられて揺れるその髪は、紛れもなく寂雷のものであった。
髪を結んだりして遊んで、寂雷を困らせてたのも覚えてる。
いつしかこの”ムカつく”という感情も、菓子作りのように甘さで上塗りして溶かされる。それがきっとこの先の未来だった。
悲しみと皆の愛に溺れていた頃初めて知った。
愛とは時に自分の負荷になるのだと。
偽物の笑顔を向け「飴村乱数」になりきり愛想を振りまき、そうやって生きてきた。
手を繋ぎ歩く2人。
それを見るは太陽。
空から見る神とは本当にいるのだろうか?神は空想上のものでは無いのか?と考えるも意味は無い。
だって信じてきたものが現在もずっといるからこそ神社なんてものだってある。
暗いまま……暗闇に座っていた。刹那から逃げていた僕を救ったのは、幻太郎や帝統、そして
今ここで僕を見つめる神宮寺寂雷だった。
力を貸して、なんて言えるわけがなかった。こいつにだけはと腕は引っ込めた。
伸ばす訳にはいかなかった。
その結果伸ばした腕はポッセに行き
神宮寺寂雷の元へと後戻りした。
ガタン ガタン
電車は揺れる。
まるで頭に響くように、大きな音を立てていた。
それほど周りも静かだった。
ヨコハマの方に行けば港なんだから、少し経てばすぐに着くだろう。
涙はいつか笑顔に変わると聞いたことがあるようなないような。
ガタン
大きく揺れた。
その衝動に対処できず。倒れかける。
ドサッ
寂雷はそれを受け止めてくれた。相変わらずお人好しが過ぎる。
『べ、べつに受け止めなくたって』
『でも君が危なかったじゃないか』
その言葉でボッと顔が熱くなる。
『そーゆーとこ…』
ボソッとその後の言葉を口にした。その言葉に寂雷はハテナを浮かべた。
「そーゆーとこ、好き」
そうやって言ったことは絶対に本人には内緒だ。