ルティの言った通り、シーニャたちは土を被らない状態でここに来たようだ。説明を求めようとしたが、サンフィアが先へ行こうとしているので後で聞くことに。
「アック! おい貴様!! さっさとしろ! ぐずぐずするな」
声を張り上げて怒っている様子かと思いきや、外に出て来た嬉しさがあるのかサンフィアは張り切っているようにも見える。よほどイデアベルクでの作業が退屈だったに違いない。
何が起きるか分からないので、おれはルティとフィーサをそばにつかせた。サンフィアをなだめるために二人で話しかけてくれているのはいいとして。
問題はこの娘《こ》だ。
「アック、敵はどこなのだ?」
「うん? あぁ、敵か。敵はこの先だな。森を抜ければ待ち構えているはず」
「すぐに戦いが始まるのだ?」
「どうだろうな。そうなる可能性が高いけど、シーニャは戦いたいか?」
戦い――か。本能的なものがあるんだろうな。
「ウニャ。シーニャ、全く戦えてないのだ。ドワーフのルティには負けたくないのだ!」
「負けたくないって、そんな差は無いと思うぞ」
「そうじゃないのだ……」
シーニャとは少しの間だけ離れていた。それだけなのに、相当に寂しい思いをさせていたようだ。ルティとフィーサとの光景も彼女から見れば、スキンシップみたいなものだろうし寂しさを感じてしまったかもしれない。
「うう~ん、参ったな……」
「アック、立ち止まって黙って下を向くのだ。ウニャ!」
「へ? 下を? こうかな……?」
「そのままじっとしているのだ」
何となく気まずさを感じながら歩いていたら、シーニャから突然首を動かすように言われる。何かするつもりがあるようだし、ここは大人しく言うことを聞く。
待っていると、何やら輪っかのようなものを首に掛けられた。肌にかかる感触はむずがゆさがあるが、何だろうか。
「ウニャ、ウウニャ、これでいいのだ! アック、首を上げるのだ」
「も、もういいのか?」
言われた通り首を上げると、首飾りが着けられていた。シーニャが物をくれるのは珍しいことだが、何か意味があるのだろうか。
「シーニャのお守り、アックにあげるのだ!」
「お守り! しかも魔石が付いてるな。もしかしてこれに名前がある?」
「アックが触れたらすぐ分かるのだ」
「ふむ」
ごく僅かな魔石ではあるが、魔石を削ってそれを輪っかに通した作りだ。魔石が使われているようなので触れてみた。
「どうなのだ?」
【EXレア バーグ・ネックレス ワータイガーの加護を得る】
魔法文字《ルーン》はすぐに反応を示し、すぐに消えた。どうやらお手製かつ特別なアクセサリーのようだ。
「シーニャが作ってくれたのか?」
「ウ、ウニャ。シーニャ、大事にしていた石、ずっと持ってた。シーニャ、ミルシェに頼んでいたのだ」
「それをおれに……いいのか?」
「シーニャ、いつでもアック! アックを守るのだ。ウニャッ!」
「そうか、ありがとうな、シーニャ。よしよし……」
「……フニャゥ」
アクセサリーとして身に着けるのは初めてのことだが、これも彼女なりの想いがあるらしい。
「おいっ! 貴様!! いつまでじゃれ合うつもりだ!? 早くしろ!!」
前を歩いているサンフィアはおれを待ちきれず急かし続けている。彼女も勝気な所があるが、戦うとなると注意を払ってやる必要があるな。とにかくこれで出揃った。
グライスエンドの戦闘もいよいよ終わりを迎えそうだ。