テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
533
#エッチなの書けないから
m k .(nrkr
10
瑠璃マリコ
19,375
デートが決まればささっと時間も進むもの。楽しい時間はすぐに過ぎ去るが、楽しみにしている時間を待ち望んでいると、それもまた素早く訪れるらしく、あっという間にデート当日となった。
前に彩花と大学の地元でデートしていた時に購入した服を着こんで、駅の改札で待ち合わせ。しばらく駅前でぼーっとスマホの画面を見ながら腰かけていると、こちらを振り向く人、人、人……。地元でさえこうなのだから、久しぶりに出かける名古屋ではもっと多くの人に見られるんじゃないだろうか。
そんな心配をしながら待っていると、スマホに着信。もう間もなく到着するとのこと。とすると、駅の自転車置き場のほうかな。そちらへ視線を向け、移動を始めると、俺に声をかける女の子の集団が。
「あの、一緒に写真撮ってもらっていいですか? 」
みると、中学生ぐらい……アカネより少し小さいぐらいか。そう考えるとアカネも大きくなったもんだな。もうすぐ大人の年齢と呼ぶにも似つかわしくないようになっていくのだろう。
「えっと……さすがにそれはちょっと困るかな。彼女にも悪いし」
「ダメですか? こんなかっこいい人に出会えた! ってSNSに載せたいんです! 」
どうやらバズり目的らしい。その目的が俺では困るし、下手に目立って生活が監視されるようになるとより専用ダンジョンが使いづらくなる。はっきり断ろうとすると、俺と女の子たちの間に立ちふさがる手があった。
「悪いけど、彼を独占していいのは私だけよ。写真に撮りたきゃ、私がフッた後にしてほしいわね」
彩花だった。しかも、照れ隠しの言葉をかっこよく決めてバアァン!! という感じで現れた。
「お待たせ幹也。行くわよ」
「ああ。そういうわけなんだ、ごめんな」
女の子たちに謝りつつ、彩花の後ろについていく。
「おモテになってさぞ気分の良いことでしょうね」
彩花が女の子に囲まれていたことについて苦言を呈してくる。
「なぁに、そんなに女の子に囲まれていた男を独り占めできるんだぞ? と彼女に自慢できるってもんだ。これ以上の誉め言葉はそうそうないぞ」
せっかくなので男が一度言ってみたいセリフの中の一つ”モテて仕方ないのでこれで女房に自慢できる”という奴の亜種を言い返してやる形になった。
「はいはい、幹也はかっこいいわよ。私の自慢の彼氏ですよー」
しょうがないなあ……という感じの言い方をしているが、少し赤くなっているのもわかっているので言い合いは今回は俺の勝ち、ということになった。
電車で名古屋方面へ。時間がもったいないので特急を使うことにした。ちょっと専用ダンジョンで5匹ほどモンスターを倒せば返ってくる程度の金額でもあるし、今は時間のほうが惜しい。そしてなにより、全席指定席なので隣同士手を繋いで名古屋まで一直線に素早く到着してくれる。
そのまま手をつなぎながら、これからの予定について話す。
「先に聞いておくけど、行きたい場所ある? あるなら優先してそっちへ行こう」
「じゃあ、わがままになるけど、こっちの……そうそう、この店へ行ってみたい」
「わかった。真っ先に向かおう。それから後は? 」
「後はねえ……ここでご飯食べたい」
そこは栄でもちょっとお高い予約なしのお店。予算は充分にあるのでそこもいける。一応財布の中身を確認するそぶりをしておく。
「……うん、今日なら大丈夫」
「じゃあ、その後で幹也の用事に付き合うわ」
「そうしてくれるとありがたいかな。じゃあ、そういうことで」
そのまま手を繋いでいたら揺れが気持ちよかったのか、彩花が寝始めたので俺も少し目を閉じて、彩花に肩を貸す形で寄り添っておく。
小一時間経った後、名古屋に到着して彩花を起こす。気持ちよさそうに眠っていたので起こすのはためらわれて……などと言っている場合ではない。せっかく金を出して稼いだ時間、その分楽しまなければ丸損だ。そっと肩を揺らして彩花に目覚めを促して、名古屋駅に着いたぞ、と伝える。
「うん……ふぅ、ちょっと寝不足気味だったから気持ちいい揺れだったわ」
どうやら彩花も自主学習は怠っていないらしい。ちょっとてこずっている様子ではあるが、完全に睡眠不足や学習についていけないので厳しい、というわけではないのだろう。
名古屋駅について地下鉄に乗り換え、栄まで一本二駅。栄で降りるとそこはもう人でごった返す繁華街だ。迷わないようというわけではないが、しっかりはぐれないように腕を組んで進む。
まずは彩花の行きたがっていた店へ行く。誰でも知っているブランド品から自店舗のオリジナル商品まで色々と並んでいる、準高級品から手頃なものまで取り扱っている。
色々あるもんだな……と見回っていると、彩花が一つのバッグの前で固まっている。お値段は……まぁそこそこするな。彩花が持った場合の想像をしてみて、普段使いにするにしてもバッグだけが高級品で浮くという様子もなさそうだ。
それをじっと見つめて手に取って、腕にはめて見て、その姿を鏡に映してみて似合うかどうかを確認している。ニヤニヤしながら鏡の中の自分を確かめる姿に声をかけざるをえなかった。
「それ、欲しいのか? 」
「欲しいわね。今度幹也のダンジョンに通ってお金を稼がないといけないわ。とりあえず手持ちでいくらかあるからそれでなんとかできるけど」
「じゃあ、俺が出そうか」
「えっ、でも結構するわよ? 」
「そうだな、薄々勘付かれているかもしれないが、誕生日プレゼント……という奴だな。時間はちょっとズレるけど、誕生日おめでとうってことで俺から送らせてくれ」
「えっと……うん、素直に受け取っておくわ。ありがとう。でもいいの? 生活費ギリギリになったりしない? 」
彩花が俺の懐具合を心配してくれている。まあ、たしかに今までの俺なら学食で食事をすることを諦め、ゆっくりスポットで塩パスタの毎日がしばらく続くところだっただろう。しかし、そんな俺とはもうおさらばだ。
「ああ、今年から扶養から抜けて、ちゃんと税金納めて金を稼ぎに入ることにしたからな。だから、口座には充分なお金がある。使っちゃいけないラインもおおよそ目星がついてるし、このぐらいなら大丈夫だ」
「そう……じゃあ、もう一つ、その髪留めもいいかしら? 二つセットの奴」
3000円程度の髪留めを二つ、ついでにお願いされてしまった。このぐらいなら問題ない。
「いいぞ、昼食ぐらいまでなら問題なく出せるよう、財布に余裕を持たせてきた。それを超える場合は……ちょっと下ろしに行く」
「ちょっと、大丈夫なの? 無理させてない? 」
「無理な時は無理ってちゃんと言うから大丈夫だよ。それに、無理ならそもそもデートに誘わないしな。だから大丈夫だ」
「そう……じゃあ、甘えちゃうわねっ」
そういうと、彩花は早速俺の腕を取り、そのままくっついて会計へ向かう。会計を済ませて買い物を終えると、他の店にも目移りしながら進んでいく。やっぱりこっちの店のこっちのほうがよかったかも……とか【聞き耳】に聞こえてくるので、最初の店で張り切り過ぎた、というところだろう。吟味してからでも良かったかもしれないな、というところだ。
そういうところを含めて楽し気であるが、その辺のやり取りを含めて楽しむのがデートのような気がするので、もっと欲しいバッグが見つかった時は自腹でやりくりしてもらうことにしよう。
店を巡り続けて、良い時間になったので昼食の予定だった店に向かう。やはりお値段相当に客足も選ばれているのか、並ぶほどの所ではないが、そこそこ賑わっている。フレンチほど高級ではないが、イタリアン中級、と言った感じ。
俺がパスタが好きだからと言ってここを選んでくれたのかどうかはわからないが、なじみのあるパスタを茹でる香りとトマトの芳醇な香りが漂ってくる。ここは良い店のようだ。二人入って、そのまま素直に通される。やはり、単価が高いと客もそれなりに洗練されているのか、騒ぐ子供も大声で叫んでいる食事客もいない。
粛々と、そして黙々と食事に手を付けて食べている客ばかりだ。おしゃべりをしている客は多分まだ料理が運ばれてきていない客だろう。そして、その辺のカフェやフリースペースとは違い、こんな店でマルチやねずみ講の勧誘をしている人もいないようだ。
コースメニューを頼んで、今日一日はゆっくりと食事と会話を楽しむつもりで来ているので、空いた時間で何かやらなきゃ……とそわそわすることもない。お互いにイタリアンのコースメニューなんて初めてなので、空いた時間でお互いのスマホでイタリア料理のコースメニューとはどういうものが出てくるのか、順番や食事の内容はどうなのか、というのを注文してから調べ始める。
「ふーん、ご飯の後に肉が来るんだ。ちょっと意外」
「お茶漬け食べた後にホッケが来るイメージだな。日本人からすれば違和感があるかもしれないが、こういうものらしい。主食はあくまで肉、ということか」
「まあ、こういう体験するのも大事でしょうし、大事なタイミングで失敗するよりも、二人で失敗するほうがまだマシよね」
「そうだな、お互い初めてみたいだし、ここでかく恥は経験値だ。ちゃんとレベルアップ出来れば問題ないさ」
やがて、前菜から順番に運ばれて来る。焼いたバケットにニンニクとオリーブオイルを利かせた、そしてトマトとモッツアレラが添えられている、軽い食感が胃袋をこれから稼働させるための呼び水のような感じだ。これはなかなかにいいぞ。
サクサクと食べ終えてフォークとナイフをそろえて右下に置き、食事終えましたよ、のサインを出しておく。
「こう、かしら」
彩花が一つ一つ確認しながらテーブルマナーを覚えていく。俺もテーブルマナーなんて家庭科の時間に少し習ったのを覚えている程度だ。スマホを食事中にいじり出すのはマナー違反なのはわかっているとしても、今日のここは俺も彩花も学びの場だ。しっかり学びながら食事をしていくことにしよう。
前菜の皿が運ばれていき、しばらくしてから一皿目が配られてきた。プリモ・ピアットというらしい。さて、落ち着いてゆっくり食事をさせてもらうとしよう。食事が終わったら、ひとつまた人生の経験値を得たことになる。ここは俺専用の店とかでもないので経験値が凄い勢いで増えたりはしないが、いい経験をさせてもらうのは確かだ。しっかり身に付けさせてもらおう。
コメント
1件
第240話、お疲れ様です🥀 幹也くんの「モテてる俺アピール」に照れつつも自慢の彼氏って言ってくれる彩花さん、可愛すぎます...🤍 誕生日プレゼント、ああいうサラッと出せる男ってやっぱりかっこいいなって思いました。二人で初めてのイタリアンコースを「経験値」って言いながら学んで楽しむ感じ、すごく微笑ましかったです。 何気ない日常のデートだけど、二人の距離感がちゃんと温かくて、読んでて安心できる回でした。 次の更新も楽しみにしてます🌙