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その異変に最初に気づいたのは、若井だった。
「……元貴?」
返事がない。
いつもなら「なに」「うるさい」って即返ってくるのに、
今日はソファに座ったまま、ぼーっと若井を見ている。
「どうしたの」
若井が近づくと、
元貴は小さく眉を下げて言った。
「……若井」
呼び捨て。
しかも、柔らかい。
若井の心臓が一瞬跳ねる。
「うん?」
「……ここ、来い」
命令みたいなのに、
声は完全に甘えている。
若井は素直に隣に座る。
「元貴、顔赤いよ」
「……知らん」
そう言いながら、
元貴は若井の袖を掴んで離さない。
力は弱い。
でも意思ははっきりしている。
「……今日、やたら素直じゃない?」
「うるさい」
「……でも、離れるな」
若井は一瞬だけ黙ってから、
とても優しく笑った。
「なにそれ」
「可愛すぎ」
「……言うな」
「言うよ」
若井は元貴の頭に、そっと手を置く。
撫でるほどでもない、触れてるだけの距離。
元貴は抵抗しない。
むしろ、少しだけ近づく。
「……若井がいると」
「考えなくていい」
その一言で、
若井の表情が完全に柔らかくなった。
「そっか」
それ以上、何も聞かない。
「じゃあ今日は」
「俺が全部やる日ね」
元貴は、信じられないくらい素直に頷いた。
「……任せる」
若井は思わず笑ってしまう。
「元貴がデレ100になる日、貴重だよ」
「……今日だけだ」
「はいはい」
若井は元貴の肩を引き寄せる。
抱きしめるほど強くない、
でも離れない距離。
「元貴」
「甘えていいよ」
元貴は、少し間を置いてから
若井の服を掴み直した。
「……じゃあ」
「ここ、いろ」
若井は即答する。
「いる」
「ずっと」
その返事に、
元貴は目を閉じた。
ツンも警戒もない。
ただ、信頼だけ。
若井は静かに思う。
――この人が急にデレる日は、
可愛がるしか選択肢がない。