テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
敵組織が開発した新型の神経ガス。それは理性を司る前頭葉を麻痺させ、生存本能と生殖本能を異常なまでに沸騰させる「発情の毒」だった。任務中にその霧をまともに吸い込んだ中也は、這々の体で路地裏へと逃げ込む。壁を伝って歩くその指先は震え、全身の毛穴という毛穴から熱気が噴き出していた。
「はぁ、っ、……くそ、……身体が……あちィ……ッ」
喉の奥が焼けるように渇き、視界がピンク色の霞がかかったように歪む。
中也は自分の腕を強く噛んで正気を保とうとしたが、痛覚さえも甘美な刺激に変換される。そんな最悪なタイミングで、背後から聞き慣れた、そして今最も聞きたくない声が響いた。
「おやおや、中也。こんなところで野良犬のように喘いで、どうしたんだい?」
太宰だ。
彼は余裕の足取りで近づいてくる。
「……だ、ざい………………っ、来るな…………! 向こうへ行けッ!!」
中也は叫んだつもりだったが、その声は熱に浮かされたように甘く、湿っていた。
太宰は中也の警告を無視し、目の前で膝をつく。
太宰の指先が、汗ばんだ中也の頬をなぞった。その瞬間、中也の背骨を電撃のような衝撃が走り抜ける。
「ひ、……っ、あ…………!!」
「ほう、随分と敏感だ。これが例のガスの効果かな? ……私の手が、そんなに気持ちいいのかい?」
「ふ、ふざけんな…………っ、離せ…………ッ!!」
中也は太宰の手を振り払おうとした。しかし、薬に支配された本能は、脳の指令とは真逆の行動をとる。
中也の手は太宰のシャツを強く掴み、自分からその体温に擦り寄ってしまった。
「ほら、口では嫌がっても、身体は正直だ。……中也、君の瞳……とろとろに溶けて、まるで盛りのついた獣だね」
太宰は中也を抱き上げることもせず、ただ地面に座り込んだ彼を冷たく見下ろした。
太宰に触れられている場所から、火がつくように熱が広がっていく。中也は屈辱に涙を滲ませながら、自身のプライドを切り売りするように喘いだ。
「だ、……太宰…………っ、お願いだ…………、……何か、してくれ…………っ、身体が……壊れる…………ッ!!」
「『何か』って、具体的に何をかな? 私は君の飼い主じゃない。……もっと分かりやすく、可愛くおねだりしてごらんよ」
太宰はわざと、中也の敏感になった耳元に唇を寄せ、冷たい吐息を吹きかける。
中也は激しく身悶えし、自身の理性が砂の城のように崩れていく音を聞いた。
「……っ、……抱いて、くれ…………っ、……太宰…………っ、俺、を………………っ」
「いい子だ。……解毒剤なんて野暮なものは持っていないけれど、……君を壊してあげることくらいなら、できるよ」
太宰は中也の顔を強引に自分の方へ向けさせ、深く、むせ返るような口づけを落とした。
薬のせいで狂わされた本能は、太宰の冷徹な愛撫さえも救済として受け入れてしまう。
中也は太宰の腕の中で、自分が誰を求めているのかさえ曖昧になりながら、ただひたすらに熱に溺れていった。
太宰はその瞳の奥に、薬の熱とは違う、「二度と消えない屈辱」が刻まれるのを満足げに眺めていた。
翌朝、薬の効果が切れた中也を待っていたのは、凄まじい自己嫌悪と、太宰に縋り付いていた記憶だった。
太宰はベッドサイドで紅茶を飲みながら、
「ゆうべの中也は本当に可愛かったよ。またあのガスを吸いに行こうか?」
と、地獄のような微笑みを浮かべて囁く。
中也は震える拳を握りしめたが、太宰の手が髪に触れた瞬間、身体が昨夜の「熱」を思い出して跳ねるのを、止めることができなかった。