突然、それまで夢の中に沈んでいた思考が現実に浮上し、意識が現実へと連れ戻される。わたしは横になっていた布団から起き上がり、寝起きで霞む視界に焦点を結ぶように何度か瞬きを繰り返す。だが、夢の中に眠っていたときのあの甘く堕落するようなフワフワとした余韻がなかなか体から抜けてくれない。今にもまだ夢の世界に落ちていきそうなほど安定しない自身の身体をまた休ませてあげようとしたその瞬間、黒い靄がかかった。
あれ、わたしはなんでここにいるんだっけ。
不意に脳に浮かび上がったその問いに頭をいくら捻ってもなにも思い出せない。頭に何トンもの鉄の塊が頭の中に圧し掛かってくるような重圧とズキリとしたこめかみが焼き付けられるような痛みが走った。そんな、つい眉を歪めてしまいそうなほどの鈍い痛みに、頭に溜まっていた睡魔の泡が一瞬で弾き飛んで行った。
─…そうだ、“アヌビス”。
アヌビスはどこだろう。
ぼんやりとしか思い出せない中、唯一はっきりと覚えている大好きな人の姿を探す。
だが、どれだけ周りを見わたしてもただただ真っ暗な部屋が視界を埋めるだけで、わたしが探している人は影すらも現わさない。
何も思い出せない。頭が痛い。大好きな人がいない。
そんな恐怖の気持ちを含む心細さの波に心を覆われ、目に涙が滲んで来る。
探しに行った方がいいのかな。と、そんな思考が脳裏に過ったその瞬間、それまで音一つ立てず静寂を籠らせていた暗い一室に、キィと扉が開くような軋んだ音が響いた。
暗闇の中に鳴り響いたその音は普段聞く音よりもずっと不気味に聞こえ、言葉には言い尽くせないほどの壮大な恐怖と驚愕が稲妻のように一気に自身の身体の中を通り抜ける。
扉の開いたすき間からぬらりと顔を出す誰かの影に、ドクドク心臓が異常な速度で脈打ち始めて冷や汗がツーっと背筋を流れた。
「○○?」
だが次の瞬間に鼓膜を震わせた、高いとも低いとも言い表せられない大好きで甘い声に強張っていた体の力がフッと緩み、体を縛り付けていた固い紐が解けて身が楽になる。
続けるように軽やかで聞き慣れた足音が近づいてきて声の主の姿がはっきりと視界に映り出された。
「…起きたんだな。」
そう言う褐色の少年の顎辺りで切り揃えられた絹糸のように細い黒髪に生えた猫耳が風とともに揺れた。ガラス細工のように様々な淡い光を閉じ込めている紫色の瞳がわたしを見つめ、柔らかく細められる。
『アヌビス!!!』
アヌビス。わたしの大好きな人。
どこでどうやって出会ったのかも、なんで一緒に居るのかも、すべて煙のように消えていて思い出せない。どれだけ思い出そうと思考を巡らせても記憶の引き出しは錆がこびり付いているせいで開かず、思い出そうとすればするほど反対に記憶は破壊されて意識は濁りの混じった水の中に落ちていく。
だけどアヌビスに対するこの“好き”という気持ちは何を忘れても、どれだけ覚えていられなくても絶対に薄れることなく記憶に引っ付いている。
まだおぼつかない足取りでベッドから飛び降りてアヌビスへと抱き着く。
アヌビスは勢いよく腕の中に飛び込んだわたしの体をしっかりと抱きとめてくれて、そのままギュッと抱きしめてくれた。
『おかえり、アヌビス。』
「ただいま。」
甘い甘い蜜のような心地よい声が耳の中に入り込み、体全体にアヌビスの体温が沁みわたっていく。黒く染まった爪を持つ細い指先がわたしの頭を優しく撫でてくれた。
その動作に安楽に似た温かい何かが胸を埋め、溶けるような安堵感の中に落ちていく。
「…なぁ、俺以外の奴と会ってないよな?」
そんな中、突然そう告げられた言葉に首を傾げる。
─…アヌビス以外の存在。
そう過去の記憶を思い起こそうと頭を働かせたその瞬間、またあの焼き付けるような痛みが稲妻のように脳を貫け、思考が混濁する。
『…おもい、だせない。』
痛みを堪えるように目をギュッと閉じながら素直にそう答える。
またこの感じだ。痛みも頭に漂っている黒い靄も、さっきと全く同じ。
『なんで?』
“何かあったはずなのに何も思い出せない”。
そんなもどかしさとほんの少しの違和感を心の内に抱きながら、わたしはアヌビスに質問の真意を問う。
「…“お前の頭ンの中にあったゴミをちゃんと捨てられていたか“確認しただけ。」
アヌビスはそう上手く理解できない難しい言葉を言って笑い、気にすんな。とわたしの頬にキスを落とした。黒い髪がさざ波のように視界の端で揺れ、頬に柔らかい感触を感じる。
そんなことされればもうわたしの頭の中はアヌビスでいっぱいになって、それ以外の事は考えられなくなった。左の胸がときめくように甘く高鳴る。
『アヌビスだいすき』
「俺も」
そんな言葉一つで頬が赤く火照り、胸がドクンと弾む。
そうしてわたしは胸に浮かび上がった違和感と靄を切り捨て、再度アヌビスに抱き着いた。
⚠4章0話ネタバレ🈶⚠
過保護な育て方だと❕❕❔
監禁しかないじゃん❕❕((
という思いから生まれました、アヌビスくん夢😘💗
KRKR民おいでー❕❕呼んできてー❕❕
コメント
4件
カ レ コ レ 屋 お も し ろ い よ ね 😸 カ ゲ チ ヨ に ガ チ 恋 し て た 笑
アヌビスかわいいよなー