--【1章 『ヘテロスタシス』】–
小説パート参照
何もかも笑えなくなって、全部全部嫌になったら世界征服でもしよう
『ヴァンパイアってやっぱ、不死身なんだ?』
腕の中で微笑む男 男の体は真っ赤に染まっている。男は呼吸すら苦しいくせに、俺を心配させまいと話しかける。
『もう、これ以上…喋るな…』
俺の体も同じくらい損傷していたのに、すでに修復されていることに苛立ちを覚えるのは何故だろう。
何かを答えようとする男、もう声を出すことは叶わないはずなのに。
俺の両手は赤に塗れ、もう最後なのだと悟る。
『………な…、え』
人の死には慣れたつもりだった。たがこの苦しみは俺にとっての呪いのようなもの。
俺はお前を何度迎え、看取ればいつこの呪いは解ける?
それでも。
『そんなに泣かないでよ…らしくないなぁ…』
そう言って血塗れのまま起き上がった男の背中には大きな純白の羽が生えていた。
いつの間にか俺の両手伝っていた血も今は消えている。
俺よりも上位互換の、肉体修復。
冗談混じりにも天使のようだと言われる男が憧れた、人ではない。
天使?いやそれとも堕天使?
いや、そんな些細なことは今やどうでもいい。
『今度こそ、僕は███の相棒になれそう?』
『……この世界には、俺らしかいないのに?』
『ははっ、そうだね。じゃあ行こうか』
世界の終末がこんな覚醒をするなんて、ゲームかよ。
でもそれが███らしいとも思った。
『どうすんの?人はいなさそうだし』
『んー…あ、でも僕らだけは生きてるよ?』
『あ、”生きてて偉い”ってやつか』
『この状況で使うとか、流石に僕も予想してなかったなぁ』
漆黒(くろ)灰と瓦礫の中、俺たちは楽しそうに笑い合う。
そして、初めて出会った時に俺から触れたときのように強く手を重ねた。
そこに絶望なんて少しもなかった。
「あなたはこの拙い物語ですら本当だったと信じているのですか?」
『……ハロー相棒、食事は足りてる?オーバー?』
『食事?別に困らないだろこの町では…オーバー』
『違うよ、そうじゃなくて』
『…ああ…あれはもう必要ないってお前も知ってるだろ。でたらめ呟きすぎ』
『強がりだねぇ。少しは補給しないと魔力不足ですぐ死ぬよ?』
『最近はボット供も揃って平和ボケだぞ。そもそもこの世界に死ぬ要素ってあんの?』
『……ざんねん、騙されなかったかぁ』
『流石に騙されないねぇ、対あり』
『でもさ、いつでも言ってよ、すぐ駆けつけるからさ。』
『ここになんか用でも?』
『や、別に用はないんだけどな』
『オーバー?』
『……もうその茶番よくね?お前のソレ、本当はトランシーバーじゃないって知ってるよ?俺』
『無粋なこと言わないでよ。こっちの方が雰囲気出るでしょ?』
『雰囲気の問題か〜?』
『ん、そっ。何事も雰囲気作りからだよ。今を楽しまないと』
『……虚像の世界でも、か…』
『だからこそ』
『俺はお前のそうゆうとこ、嫌いじゃないけどな』
『今度久しぶりに会おうか。それでゲームしようぜ』
『くろのわ オフラインコラボ』
『後でピザでも頼もうか。そしていつもの挨拶は』
『「おつのわーる」』
『んだよこれ……!!オーバー!』
『え?何ってなぁに?』
『……楽しそうだな、お前。完全にわかって返事してるだろ』
『そりゃ楽しいでしょ。あ、懐かしいよねこのミュージックビデオ。今でも見てる?』
『見てるも何も…これだけ町中に映像流れてりゃ、いやでも目に入る』
『僕らがアイドルなんて冗談かと思ったけど、こう見ると意外とイケてる』
『このかっけぇ布お陰だけどな。次の衣装も楽しみだった。』
『そうだねぇ、あ、この映像ってここに来る直前撮ったジャケットだよ。出したかったなぁ僕らの新しい曲。』
『その新曲今町中に流れてるけどな。つか、よくデータ残ってたな』
『大切だったからね、これだけは死守した』
『…へぇ』
『きっとみんな虜だよ?』
『…俺らに?』
『いつか、いつかね。また歌いたいよお前と』
『夜か…』
『本当だ…もう、どんだけ時が進んでるんだろうね』
『考えたくもない』
『そういえば観測者っているのかな?オーバー?』
『さぁ?いるにはいそうだけどな…』
『いたら一緒にゲームしたいなぁ』
『お前…』