テラーノベル
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飛行機がパルタ共和国首都空港に着陸しようとする。
車輪が接地し、摩擦で機体が揺れる。
シートで日向竜介はアイマスクを着け呑気に寝ていたが、揺れで起きた。
桜警視ら公安特別捜査隊は一旦アメリカの空港に渡った上でパルタ行きの便に乗り換えていた。
公安特別捜査隊は首都空港から程近い駐パルタ日本大使館に列車で向かった。電車ではなく錆びた上に鮮やかなペイントがされているディーゼル列車だ。
線路すれすれに建物、家が並び、ぶつかりそうだ。
異国情緒あふれる街並みはパルタの地を踏んだことを実感させる。
市場を行き交うパルタの人々は皆笑顔で、日々の生活を営んでいた。
市場には南国らしい青果が売られ、肉の串焼きの匂いが漂う。大きな肉の串焼きはパルタの名物料理である。
「治安悪い国だと思ってた、イメージと違うな」
「それな、その感覚を大事にしてくれ」
桜警視は日向に頷き、肩をポンポンと叩いた。
列車は大使館へと走る。
* *
あらかじめ話が行っていたのか、公安特別捜査隊はすんなりと大使館の門をくぐることができた
駐パルタ日本大使の酒井は、応接室に桜警視、大河内和夫二等陸佐、日向竜介警部補を通すと、日本の緑茶を勧めた。
「フライトで丸一日日本のお茶を飲んでいないんじゃないかと思ってね」
「ありがとうございます、いただきます」
遠慮なく茶を飲む日向竜介に酒井は問う。
「パルタの第一印象はどうだったかね?」
ゴクン、と茶を喉に通した日向は口を開く。
「活気に満ちた国です。私たちは総理暗殺未遂事件と警視庁襲撃被疑者拉致事件の捜査で参りましたが、治安の悪い国、だとは今は思いません」
日向は若者らしく、若干どもりながらも、意見をしっかりと述べた。
「そうだろう。日本人右派は移民排斥の口実にパルタ人を槍玉に挙げるが、私は一部パルタ人の犯罪にはもっと大きな理由があると思うよ」
「黒幕ですか」
「おっと、その先は慎重にな」
酒井大使は言葉を濁した。
傍らでパソコンを打っていた褐色の大男と酒井は頷き、彼を紹介する。
「紹介するよ。日本大使館と契約を結んでいるタウロン大尉だ」
「よろしくお願いします」
タウロンは恰幅がよく、笑顔が愛らしい。年は桜警視より上で大河内より下のように見えた。
「僕の故郷に案内します。皆さんにはそこに泊まってもらいます」
* *
ジープに乗った一行は、タウロンの育ったという村に向かう。
道すがら、勉強不足の日向のためにハンドルを握るタウロンが説明してやる。
多宗教多民族国家のパルタ共和国には、行政としての大統領がいるが、それぞれの部族長、首長もおり、民族評議会という仕組みがあるという。国連でも丁重に扱われる民族評議会の意向は大統領も無視できず、重税や不当逮捕を阻止した歴史があるとタウロンは語る。
これから会う部族長はノータムと言い、タウロンの育ての親だと言う。
ジープが停車し、一行が降りる。
「村は近い。あまりジープの音を立てたくないのです」
タウロンはそう言うが、正直日向はあまり歩きたくない。
獣の鳴き声が聞こえる。
「なんか動物が」
「え? そりゃいますよ」
タウロンは大笑いした。
しばらく草むらを歩くと、湖の向こうに村らしきものが見えてきた。
その時──岩影から、民族的な威厳に満ちた老人が年に似合わぬ動きで躍り出て、ボウガンを構える!
敵襲か!?
桜警視は拳銃を構えるが、タウロンがそれをぐいと下げる。
老人の放ったボウガンは桜警視らの横をすり抜け──湖のワニに命中した。
老人は桜警視らを助けたのだ。
「全くなっとらん! お前らワニに食われるところだったぞ」
老人は人が変わったようにタウロンの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「タウロン、大きくなったな」
「はい! ノータム様」
「ノータム様……!」
桜警視はまだ拳銃を持ったまま呆けている。
「お前たちの国では銃を向けて挨拶するのか? 礼儀知らずの日本人め」
カッカッカとノータムは笑いながら叱りつけた。
「失礼しました!」
「日本国から参りました、公安警察の桜警視です。こちらは大河内中佐と日向警部補」
「何しに来た」
「タウロン大尉が、生まれ故郷に案内してくれると」
「まあよかろう。ついてきなさい」
オレンジ色の夕陽が大自然を照らしていた。
* *
木で造られた村中央の見張り台を兼ねた集会場に、藁の家やテントが連なっている。
集会場の板張りの床にて、桜、大河内、日向がワイシャツ、ズボンの上に民族衣装の布を着て、茣蓙の上にあぐらをかいてい座る。
子供たちの作業により、豆料理に羊の肉などの夕げが葉に乗せられ、配膳される。
「さあ食え食え」
「おいしそうですね」
「いただきます」
羊肉のグリルを頬張り、豆料理を手づかみで口に入れる。そして飲み物に手を伸ばす……
「これは! お酒じゃないですか!」
日本の甘酒のような白い穀物酒だった。甘いがアルコールが入っている。
その日向の慌てぶりを見た集落の女性たちが手を叩いて笑う。
「お酒は遠慮します」
ノータムの顔が段々と険しくなる。
桜祐は肘で日向を小突く。
「せっかくのご厚意だ。余すことなくいただこう」
「さすがわかっておるな」
ノータムの髭面が豊かな笑みになり、白い酒が注がれる。
夜空には満点の星空が地平線いっぱいまで広がり、南十字星と天の川銀河が存在感を示す。
パルタに住むのは心優しく誇り高い人々であった。
コメント
1件
◆ みぅ🤍🥀 パルタの描写がすごく鮮やかで、市場の匂いやディーゼル列車の風景に引き込まれました🌙 日向が「治安悪いと思ってた」って感じたことに、すごく共感。人ってやっぱり先入観で見ちゃうけど、実際に触れたら印象って変わりますよね。桜警視の「その感覚を大事にしろ」って言葉が印象的。ノータム爺のボウガンシーンはドキドキしたし、村の人たちの温かいもてなしにほっこり。パルタの魅力、ちゃんと感じました☕️