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30


『ーーゃん!』

声が聞こえる。

幻聴だろうか。

『アマちゃん!』

僕は、目を開ける。

そこに、目から大粒の涙を流している琥珀さんがいた。

『甘ちゃん!』

『目、覚めたんだね…』

僕は弱々しく言った。

『頭から血が出てるよ、』

琥珀さんが言う。

そうか、

頭がボーッとしていた。

『琥珀さんは大丈夫か…』

自分より琥珀さんが心配だった。

『琥珀は大丈夫だけど、甘ちゃんは…』

琥珀さんは、僕が心配だったようだ。

『僕も大丈夫…、でも、早く…逃げないと…』

あの男がいつ、何をしてくるかわからない。

僕は、上半身を起こす。

『お腹すいたよ…』

『それは、食べない方がいいだろう…』

先ほど、男が持ってきたものを指差して、言う。

何が入れられているか、わからない。

そんなものを食べたくはない。

でも、僕もお腹が空いてきた。

どれくらい食べてないんだろう。

今、いつの何時だ?

時計はない。

もう、1日くらい経っててもおかしくはない。

これから、どうしよう、

死ぬのかな、

少しずつ、マイナスなことを考えてしまう。


それからしばらくして、

また、あの男が入ってきた。

『アレェ?まだ食べてないのかァ〜、残念だなァ、』

男はまだ手をつけていない食べ物を見て言う。

『まぁ、しかたないかァ。ほらァ、新しいのォ、持ってきたぞォ〜。』

また、よくわからない食べ物が置かれた。

『そんなもの、いらない!』

お前が持ってきたものなんて信用できない。

『ヘッヘッヘッ!そうか、いらないか。人は食べないで、どれくらい生きられるっけなァ?なんだァ?死にたくなったかァ〜?』

『ふざけんな!死にたくなるわけないだろ‼︎』

僕は怒鳴って言う。

『でもよォ〜。最初に比べて、絶望的な顔をしてるしィ〜、』

男が、琥珀さんを見る。

『この女のせいだろォ〜、お前が弱くなったのはよォ〜。』

『なんだと、』

僕は男を睨みつけて言う。

『一匹の時はすげー強かったのにィ、今は余計な奴を守りながら戦わなくちゃいけないだろォ?ろくに戦えもしなさそうな女を連れてさァ〜、自分とその女を守りながら戦わなくちゃいけなくなったァ!』

『黙れ、』

『でも、事実だろォ?足手まといのせいでェ、明らかに弱くなっ…』

『黙れ‼︎』

僕は、怒っていた。

許せなかったから。

『琥珀さんは足手まといなんかじゃない!弱いのは、僕の心の弱さのせいだ!逆に、琥珀さんがいてくれたから、僕は戦うんだよ!守りたいと思えたんだよ!生きたと思えたんだよ‼︎』

こんなに怒ったことは初めてだ。

怒りが収まらない。

自分を悪く言われるのはまだいい、

でも、琥珀さんのことを悪く言われるのは許せない。

僕は、男に頭突きをする。

コイツから、鍵を奪えば!

でも、

そう上手くいかない。

『うぅっ!ぐぁ!』

手足がほぼ使えない状態で、戦うことなんて…

でも、やるんだ!

僕は起き上がり、立ち向かう。

『昔のお前なら、勝てただろうなァ!』

殴られて、蹴られて、

琥珀さんが狙われて、

僕は起き上がり、琥珀さんを守るだけで精一杯だった。

『お前を弱くしたこの女が憎いぜェ!』

『だから!黙れって!言っただろ‼︎』

僕はまた立ち上がり、琥珀さんを守る。

立ち向かう。

けど…

『あっ…ああっ……くっ!』

何度も同じことの繰り返しで、

僕は、もう、

立ち上がることができなかった。

『きゃあ!』

琥珀さんの悲鳴が聞こえた。

助けたいのに、

身体が動かない…

立ち上がりたいのに、

身体に力が入らない…

無駄だと、心の中で思う。


一『努力もしないで、生まれた時から力があって勝ち組な人狼が!ずっと努力をしてきた俺たちの夢を壊すんだ!お前らみたいな人狼が嫌いだ!』

『どうせ、今までずっと俺みたいな普通の人間たちを見下してたんだろ!』

『お前らが苦しむのは当然だろ!お前らは知らないだろうけどな!俺らだって、お前ら人狼のせいで苦しんでんだよ!お前らが生きてるから、死ぬべきじゃなかった人たちが死んでったんだ!お前らにその辛さがわかるかよ!』

『お前、一匹狼だろ?あんなに人を傷つけておいて被害者ぶるな‼︎』ー


あの時の男の言っていたことを思い出した。

今も、僕は誰かを苦しめているんだろうか、

この男も苦しんでいるんだろうか、


ーお前はここにいらないー


『うっ!』

辛い、

きつい、

苦しい、

助けて…


一『ずっと会いたかった!ずっと待ってたよ!』

『人は、怖くてどうしようもない時、追い詰められてしまった時、人を傷つけてでも自分を守ろうとしてしまうんだと思う。甘ちゃんは今、ほとんど何も知らない所で知らない人たちと色々なことをして、怖くなっちゃったんじゃないかな?』

『いっしょに生きてよ、最後まで隣にいさせてよ…うぅっ、琥珀が、甘ちゃんを幸せにさせてよ!琥珀のために生きてよ!』

『甘ちゃんが隣にいてくれたら大丈夫だよ、』

『琥珀に気を使わないで、甘ちゃんのしたいことをして欲しい。』

『琥珀も、強くなりたい。出来るかな?』一


琥珀さん…

君は、

こんな時でも僕を助けてくれる。

まだ、終わってなんかいない。


『命を落とせば、もう助けられないんですよ。手遅れになってからじゃ、遅いんですよ。』


この前言ったばかりだ。

今助けないで、いつ助ける?

無駄なことはたくさんある。

余計なことをするだけかもしれない。

でも、

助けたい、

あの時の笑顔を、また見たい。

生きていたい!

僕が、守るんだ!

身体に力が湧いてくる。

立ち上がる。

ふらふらでも、

それでも歩く。

『僕は、諦めない!』

手遅れになる前に、

終わらせるんだ!

そして、

男に突進する。

男とともに倒れる。

かっこ悪くてもいい。

諦めて負けることに比べれば、

全然いい、

僕は男の腕に噛み付く。

『ギャアァァァ‼︎‼︎』

そして、

強く、噛み砕く!

『アァァァァァァッ‼︎‼︎‼︎‼︎』

これで終わりだ。

皮膚を噛みちぎる。

『はぁ、はぁ、はぁっ、』

ばたり、と、

噛みついていた男の腕が、地面に落ちる。

僕が噛みついたところがえぐれて、血が出ていた。

僕は後ろを向いて、男が着ている服のポケットから鍵を取り、

琥珀さんの手に付いている、手錠を外す。

ばたり、


30

頭を、優しく撫でられている。

この感覚、

心地よい。

安心する。

目を開ける。

と、

琥珀さんがいた。

琥珀さんが頭を優しく撫でていた。

いつのまに、寝てたのか?

『甘ちゃん、ありがとう。』

琥珀さんが笑顔で言う。

この笑顔を、守れたのか、

良かった。

僕も、自然と笑顔になる。

僕は、琥珀さんの頬に手を伸ばし、

優しく撫でる。

傷ができている。

あぁ、

いつの間に…

僕の手足の錠も外してくれたのか、

僕は立ち上がる。

『もう、いく?』

『あぁ、行こうか。』

『怪我は?体調は大丈夫?』

琥珀さんが心配してくれる。

『大丈夫。それより、ここから早く出よう。』

僕は琥珀さんに手を伸ばし、引き上げる。

『ちょっと待ってて、』

振り返ると、

琥珀さんは自分の足についていた錠を外そうとしていた。

僕はしゃがみ、鍵を持ってそれを外す。

『ごめん、僕のことを優先してくれたんだね、ありがとう。』

琥珀さんは自分のことより先に、僕のために色々してくれたんだ。

『甘ちゃんが助けてくれたから、せめて優しくしてあげたかったの。甘ちゃん、カッコよかったよ。』

嬉しかった。

僕は鉄格子の鍵を開け、外に出る。

こっちかな?

どこが出口かがわからない。

とりあえず歩く。

と、

隣にも、鉄格子があり、

中に人影がある。

その人はこちらに気づくと、

身体を震わせて、

怯えていた。

この人も、捕まっていたのかな。

僕は、鉄格子に鍵を刺して、

扉を開けた。

『もう、大丈夫ですよ。一緒にここを出ましょう。』

僕は、手を伸ばす。

まだ、怯えていたが、

手を、こちらへ伸ばしてくる。

そして、

僕の手の上に乗せられた。

僕はゆっくり引き上げる。

『男は今、倒れています。今のうちに行きましょう。』

他にも、いないか確認した方がいいだろう。

『少し、他の方も見てきます。』

そう言って僕は、周りも見てみる。

もう、いないみたいだ。

それほど広くはなかった。

出口らしきものもない。

薬品が入った試験管だらけの机、

実験について色々書かれた紙が置かれている。

と、

これは、

僕の銃だ。

持って行こう。

そして、先ほどの人、

女性と合流して、出口らしき扉を開ける。

光がさす。

眩しい。

ここは、外だ。

僕たちはそこから少し歩く。

と、

『あそこにいるの、銅だ!』

声がする方を見ると、

如月さんが走ってきていた。

鷹也隊長と東雲さんも、後を追う。

『傷だらけじゃないか!』

如月さんが心配してくれた。

『甘君、一体何があったんだ?』

鷹也隊長が、訊いてくる。

『ある男に、捕まって…』

まだ、体調が良くない。

僕はその場でしゃがむ。

『わかった、そちらは私に任せてくれ。如月さんと東雲さんは傷の手当てを、』

そう言って鷹也隊長が建物へ向かう。

『東雲さ…』

如月さんの声が聞こえた気がした。

が、

『美雪、無事…だったのか…』

東雲さんの声がした。

『光輝…』

そして、先ほどの女性の声がした。

この方が美雪[ミユキ]さんなんだろう。

『東雲!とりあえず、傷の手当てを!』

如月さんが、僕に肩を貸してくれた。


如月さんが僕の傷の手当てをしてくれた。

顔にガーゼが貼られた。

東雲さんはうかない顔をして、美雪さんの傷の手当てをしていた。

『東雲、そのじょーちゃんと知り合いなのか?』

僕も、気になっていた。

『美雪は、僕の妹です。』

え?

東雲さんの妹だったのか、

『妹が?確か、ある時から家に帰ってこなくなったって…』

如月さんが言う。

帰ってこなかった…

ずっと、あそこに閉じ込められていたのか、

『はい。僕はずっと、妹の手がかりを探していました。』

そうだったのか、

『怪我をしているし、怖い思いをしてしまったと思うけどよ、無事に見つけられてよかったじゃないか!』

如月さんは笑顔で言う。

『はい、良かった…です、』

東雲さんが涙を流しながら言う。

『銅さん、美雪さんを助けてくれてありがとうございました。』

東雲さんは頭を下げた。


その後、あの男は捕まった。

そして、建物内から危険な薬品が、複数見つかったそうだ。

でも、何とか終わった。

無事、脱出できた。

僕たちは家に帰る。


-僕は、久しぶりに戻ってきた妹と、剣士所内の家に帰る。

『本当に無事で良かったです。』

『また、光輝と会えて嬉しいよ。』

美雪が笑顔を見せてくれた。

『何か、酷いことされませんでしたか?』

僕は美雪が心配だった。

『色々、酷いことをされたけど…大丈夫だよ。』

少し、悲しそうに言った。

『明日は休みを取ったので、病院で診てもらっ…』

『うぅっ!』

急に美雪が苦しそうにし始めた。

僕は駆け寄る。

『美雪!大丈夫ですか?ミユ…』

胸の辺りが痛い。

なぜだ。

僕は、胸を見る。

美雪の腕が、僕の心臓に向かって伸びている。

その手には、

ナイフが、

『ミユ…キ……どう……し……、』

『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』

美雪は、ナイフを抜く。

様子のおかしい美雪が、赤く染まっていく。

僕は、倒れた。

『ミ…ユ………キ………』

もう、助からないだろう。

僕は、目を閉じた。-


嘘をつかない人狼 (狼は大切なもののために牙をむく) 第1章[ショート版]

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