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『ーーゃん!』
声が聞こえる。
幻聴だろうか。
『アマちゃん!』
!
僕は、目を開ける。
そこに、目から大粒の涙を流している琥珀さんがいた。
『甘ちゃん!』
『目、覚めたんだね…』
僕は弱々しく言った。
『頭から血が出てるよ、』
琥珀さんが言う。
そうか、
頭がボーッとしていた。
『琥珀さんは大丈夫か…』
自分より琥珀さんが心配だった。
『琥珀は大丈夫だけど、甘ちゃんは…』
琥珀さんは、僕が心配だったようだ。
『僕も大丈夫…、でも、早く…逃げないと…』
あの男がいつ、何をしてくるかわからない。
僕は、上半身を起こす。
『お腹すいたよ…』
『それは、食べない方がいいだろう…』
先ほど、男が持ってきたものを指差して、言う。
何が入れられているか、わからない。
そんなものを食べたくはない。
でも、僕もお腹が空いてきた。
どれくらい食べてないんだろう。
今、いつの何時だ?
時計はない。
もう、1日くらい経っててもおかしくはない。
これから、どうしよう、
死ぬのかな、
少しずつ、マイナスなことを考えてしまう。
それからしばらくして、
また、あの男が入ってきた。
『アレェ?まだ食べてないのかァ〜、残念だなァ、』
男はまだ手をつけていない食べ物を見て言う。
『まぁ、しかたないかァ。ほらァ、新しいのォ、持ってきたぞォ〜。』
また、よくわからない食べ物が置かれた。
『そんなもの、いらない!』
お前が持ってきたものなんて信用できない。
『ヘッヘッヘッ!そうか、いらないか。人は食べないで、どれくらい生きられるっけなァ?なんだァ?死にたくなったかァ〜?』
『ふざけんな!死にたくなるわけないだろ‼︎』
僕は怒鳴って言う。
『でもよォ〜。最初に比べて、絶望的な顔をしてるしィ〜、』
男が、琥珀さんを見る。
『この女のせいだろォ〜、お前が弱くなったのはよォ〜。』
『なんだと、』
僕は男を睨みつけて言う。
『一匹の時はすげー強かったのにィ、今は余計な奴を守りながら戦わなくちゃいけないだろォ?ろくに戦えもしなさそうな女を連れてさァ〜、自分とその女を守りながら戦わなくちゃいけなくなったァ!』
『黙れ、』
『でも、事実だろォ?足手まといのせいでェ、明らかに弱くなっ…』
『黙れ‼︎』
僕は、怒っていた。
許せなかったから。
『琥珀さんは足手まといなんかじゃない!弱いのは、僕の心の弱さのせいだ!逆に、琥珀さんがいてくれたから、僕は戦うんだよ!守りたいと思えたんだよ!生きたと思えたんだよ‼︎』
こんなに怒ったことは初めてだ。
怒りが収まらない。
自分を悪く言われるのはまだいい、
でも、琥珀さんのことを悪く言われるのは許せない。
僕は、男に頭突きをする。
コイツから、鍵を奪えば!
でも、
そう上手くいかない。
『うぅっ!ぐぁ!』
手足がほぼ使えない状態で、戦うことなんて…
でも、やるんだ!
僕は起き上がり、立ち向かう。
『昔のお前なら、勝てただろうなァ!』
殴られて、蹴られて、
琥珀さんが狙われて、
僕は起き上がり、琥珀さんを守るだけで精一杯だった。
『お前を弱くしたこの女が憎いぜェ!』
『だから!黙れって!言っただろ‼︎』
僕はまた立ち上がり、琥珀さんを守る。
立ち向かう。
けど…
『あっ…ああっ……くっ!』
何度も同じことの繰り返しで、
僕は、もう、
立ち上がることができなかった。
『きゃあ!』
琥珀さんの悲鳴が聞こえた。
助けたいのに、
身体が動かない…
立ち上がりたいのに、
身体に力が入らない…
無駄だと、心の中で思う。
一『努力もしないで、生まれた時から力があって勝ち組な人狼が!ずっと努力をしてきた俺たちの夢を壊すんだ!お前らみたいな人狼が嫌いだ!』
『どうせ、今までずっと俺みたいな普通の人間たちを見下してたんだろ!』
『お前らが苦しむのは当然だろ!お前らは知らないだろうけどな!俺らだって、お前ら人狼のせいで苦しんでんだよ!お前らが生きてるから、死ぬべきじゃなかった人たちが死んでったんだ!お前らにその辛さがわかるかよ!』
『お前、一匹狼だろ?あんなに人を傷つけておいて被害者ぶるな‼︎』ー
あの時の男の言っていたことを思い出した。
今も、僕は誰かを苦しめているんだろうか、
この男も苦しんでいるんだろうか、
ーお前はここにいらないー
『うっ!』
辛い、
きつい、
苦しい、
助けて…
一『ずっと会いたかった!ずっと待ってたよ!』
『人は、怖くてどうしようもない時、追い詰められてしまった時、人を傷つけてでも自分を守ろうとしてしまうんだと思う。甘ちゃんは今、ほとんど何も知らない所で知らない人たちと色々なことをして、怖くなっちゃったんじゃないかな?』
『いっしょに生きてよ、最後まで隣にいさせてよ…うぅっ、琥珀が、甘ちゃんを幸せにさせてよ!琥珀のために生きてよ!』
『甘ちゃんが隣にいてくれたら大丈夫だよ、』
『琥珀に気を使わないで、甘ちゃんのしたいことをして欲しい。』
『琥珀も、強くなりたい。出来るかな?』一
琥珀さん…
君は、
こんな時でも僕を助けてくれる。
まだ、終わってなんかいない。
『命を落とせば、もう助けられないんですよ。手遅れになってからじゃ、遅いんですよ。』
この前言ったばかりだ。
今助けないで、いつ助ける?
無駄なことはたくさんある。
余計なことをするだけかもしれない。
でも、
助けたい、
あの時の笑顔を、また見たい。
生きていたい!
僕が、守るんだ!
身体に力が湧いてくる。
立ち上がる。
ふらふらでも、
それでも歩く。
『僕は、諦めない!』
手遅れになる前に、
終わらせるんだ!
そして、
男に突進する。
男とともに倒れる。
かっこ悪くてもいい。
諦めて負けることに比べれば、
全然いい、
僕は男の腕に噛み付く。
『ギャアァァァ‼︎‼︎』
そして、
強く、噛み砕く!
『アァァァァァァッ‼︎‼︎‼︎‼︎』
これで終わりだ。
皮膚を噛みちぎる。
『はぁ、はぁ、はぁっ、』
ばたり、と、
噛みついていた男の腕が、地面に落ちる。
僕が噛みついたところがえぐれて、血が出ていた。
僕は後ろを向いて、男が着ている服のポケットから鍵を取り、
琥珀さんの手に付いている、手錠を外す。
ばたり、
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頭を、優しく撫でられている。
この感覚、
心地よい。
安心する。
目を開ける。
と、
琥珀さんがいた。
琥珀さんが頭を優しく撫でていた。
いつのまに、寝てたのか?
『甘ちゃん、ありがとう。』
琥珀さんが笑顔で言う。
この笑顔を、守れたのか、
良かった。
僕も、自然と笑顔になる。
僕は、琥珀さんの頬に手を伸ばし、
優しく撫でる。
傷ができている。
あぁ、
いつの間に…
僕の手足の錠も外してくれたのか、
僕は立ち上がる。
『もう、いく?』
『あぁ、行こうか。』
『怪我は?体調は大丈夫?』
琥珀さんが心配してくれる。
『大丈夫。それより、ここから早く出よう。』
僕は琥珀さんに手を伸ばし、引き上げる。
『ちょっと待ってて、』
振り返ると、
琥珀さんは自分の足についていた錠を外そうとしていた。
僕はしゃがみ、鍵を持ってそれを外す。
『ごめん、僕のことを優先してくれたんだね、ありがとう。』
琥珀さんは自分のことより先に、僕のために色々してくれたんだ。
『甘ちゃんが助けてくれたから、せめて優しくしてあげたかったの。甘ちゃん、カッコよかったよ。』
嬉しかった。
僕は鉄格子の鍵を開け、外に出る。
こっちかな?
どこが出口かがわからない。
とりあえず歩く。
と、
隣にも、鉄格子があり、
中に人影がある。
その人はこちらに気づくと、
身体を震わせて、
怯えていた。
この人も、捕まっていたのかな。
僕は、鉄格子に鍵を刺して、
扉を開けた。
『もう、大丈夫ですよ。一緒にここを出ましょう。』
僕は、手を伸ばす。
まだ、怯えていたが、
手を、こちらへ伸ばしてくる。
そして、
僕の手の上に乗せられた。
僕はゆっくり引き上げる。
『男は今、倒れています。今のうちに行きましょう。』
他にも、いないか確認した方がいいだろう。
『少し、他の方も見てきます。』
そう言って僕は、周りも見てみる。
もう、いないみたいだ。
それほど広くはなかった。
出口らしきものもない。
薬品が入った試験管だらけの机、
実験について色々書かれた紙が置かれている。
と、
これは、
僕の銃だ。
持って行こう。
そして、先ほどの人、
女性と合流して、出口らしき扉を開ける。
光がさす。
眩しい。
ここは、外だ。
僕たちはそこから少し歩く。
と、
『あそこにいるの、銅だ!』
声がする方を見ると、
如月さんが走ってきていた。
鷹也隊長と東雲さんも、後を追う。
『傷だらけじゃないか!』
如月さんが心配してくれた。
『甘君、一体何があったんだ?』
鷹也隊長が、訊いてくる。
『ある男に、捕まって…』
まだ、体調が良くない。
僕はその場でしゃがむ。
『わかった、そちらは私に任せてくれ。如月さんと東雲さんは傷の手当てを、』
そう言って鷹也隊長が建物へ向かう。
『東雲さ…』
如月さんの声が聞こえた気がした。
が、
『美雪、無事…だったのか…』
東雲さんの声がした。
『光輝…』
そして、先ほどの女性の声がした。
この方が美雪[ミユキ]さんなんだろう。
『東雲!とりあえず、傷の手当てを!』
如月さんが、僕に肩を貸してくれた。
如月さんが僕の傷の手当てをしてくれた。
顔にガーゼが貼られた。
東雲さんはうかない顔をして、美雪さんの傷の手当てをしていた。
『東雲、そのじょーちゃんと知り合いなのか?』
僕も、気になっていた。
『美雪は、僕の妹です。』
え?
東雲さんの妹だったのか、
『妹が?確か、ある時から家に帰ってこなくなったって…』
如月さんが言う。
帰ってこなかった…
ずっと、あそこに閉じ込められていたのか、
『はい。僕はずっと、妹の手がかりを探していました。』
そうだったのか、
『怪我をしているし、怖い思いをしてしまったと思うけどよ、無事に見つけられてよかったじゃないか!』
如月さんは笑顔で言う。
『はい、良かった…です、』
東雲さんが涙を流しながら言う。
『銅さん、美雪さんを助けてくれてありがとうございました。』
東雲さんは頭を下げた。
その後、あの男は捕まった。
そして、建物内から危険な薬品が、複数見つかったそうだ。
でも、何とか終わった。
無事、脱出できた。
僕たちは家に帰る。
-僕は、久しぶりに戻ってきた妹と、剣士所内の家に帰る。
『本当に無事で良かったです。』
『また、光輝と会えて嬉しいよ。』
美雪が笑顔を見せてくれた。
『何か、酷いことされませんでしたか?』
僕は美雪が心配だった。
『色々、酷いことをされたけど…大丈夫だよ。』
少し、悲しそうに言った。
『明日は休みを取ったので、病院で診てもらっ…』
『うぅっ!』
急に美雪が苦しそうにし始めた。
僕は駆け寄る。
『美雪!大丈夫ですか?ミユ…』
胸の辺りが痛い。
なぜだ。
僕は、胸を見る。
!
美雪の腕が、僕の心臓に向かって伸びている。
その手には、
ナイフが、
『ミユ…キ……どう……し……、』
『ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎』
美雪は、ナイフを抜く。
様子のおかしい美雪が、赤く染まっていく。
僕は、倒れた。
『ミ…ユ………キ………』
もう、助からないだろう。
僕は、目を閉じた。-