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俺の素朴な疑問に、野中さんは一瞬で耳まで真っ赤にして、さっきまでとは違う意味で視線を激しく泳がせた。
「……その、……えっと」
歯切れの悪い彼を凝視する。いや、待て、これはじわじわわかって来たぞ。確かに、今俺がおったら理由は言えへんわ!!
「野中さん、待って! ごめん、それは二人きりの方がええやんな! 洸もごめん! 気が利かへん兄ちゃんで!」
「え、弦! どこ行くん!」
俺が急いで席を立つと、洸がものすごい力で俺の腕を掴んで離さへん。待ってくれ、洸も薄々気づいてるんちゃうん!?
「だ、大丈夫です。弦さんなら」
「……確かに秀太じゃないよりマシか」
俺を掴んでいる洸の手を力づくでほどき、「もうっ」と少し拗ねた洸を、逃げられないように野中さんの方へ向ける。俺は洸の後ろに隠れて黒子に徹することにした。
「……今日は、洸さんに告白をしにきました」
知らんおっさんを殴り倒した余韻を引きずっていた、あの少しギラギラした男らしい野中さんは消えていた。少し弱々しく、自信なさげに声を出す彼の雰囲気は、気の弱かった高校生時代を彷彿とさせた。
「……うん」
「今日は……一日中休みで、家に居たんですけど……ふと、思ったんです。僕の隣に、洸さんがいてくれたら、もっと幸せなんやろなって」
いつもの穏やかで優しい野中さんの声が部屋に響く。こんなに優しくて心がこもった伝え方ある? ほんまに、俺、この場におってええ人間なん?
「……そうしたら、今伝えんとあかんって思って。もう、あの時みたいに、洸さんを諦めて、何もない人生に戻るのは嫌やって思って」
「……そしたら、偶然あんな事なってて助けてくれたん?」
「……はい。エレベーターを上がったら丁度洸さんが玄関のドアを開けた所が見えて。声をかけようと思ったらあの人が押し入ったので、必死で走りました」
自分の人生をかけた告白が、あの知らんおっさんによって悪夢に塗り替えられるなんて思ってもなかったやろな。でも、洸を助けられたのは不幸中の幸いやったんか。
「……ごめんな、俺、ちょっと疑っててん。野中さんもストーカーなんちゃうかなって」
「……そう思われても仕方ないです。実際、偶然とはいえ、そういう風になってしまっていたので」
愛の告白になるかと思いきや、また話がおっさんの方へ引っ張られている。兄ちゃんとしてはどうしても、この二人をハッピーエンドに持っていきたいんよ。だって可哀想やん! こんな悪夢みたいな思いをしたまま、また明日から普通の顔して生きていかなあかんなんて。あいつのせいで、洸が大好きやった美容師の仕事を嫌いになってほしくない。笑顔でハサミを握れんくなるなんて、そんなん絶対にあかん。
俺は洸の背中からちょこんと顔を出し、「いけ!!」と野中さんに顔で合図する。
すると、意を決したように、野中さんが口を開いた。
「……僕は洸さんが好きです。ずっと友達になれたらって思ってました。でも、今はそれだけじゃ嫌なんです。洸さんを僕だけのものにしたいんです」
うわ、それは大きく出たな? 目が合ったら老若男女ほぼ全員オトせる可能性があるこの弟に独り占め宣言か。でも、全てを兼ね備えた野中さんにはそれが可能なんかも知れんな。なんてったって、野中さんは洸のヒーローなんやもんな。
「……ごめんなさい」
「はぁ!?」
野中さんより先に俺が声を出す。洸にとってもこんなにええ条件の恋人おらんやろ!
「……だって、まだ友達にもなれてへん、何も知らん人と付き合うのは違うくない?」
そんないつもの調子で飄々として。とうとう洸のデレ顔が見れると思ってたのに、お兄ちゃんは残念でたまらん。ほんで野中さんの、絶望に絶望を重ねた顔も見てられへん。
「でも……今日は助けてくれて本当にありがとうございました。心の底から感謝してます。……もしよかったら、俺と友達になってくれませんか、新くん?」
表情を笑顔に切り替えて、洸が野中さんに右手を差し出す。
「……はい、よろしくお願いします。洸……くん」
「なんや、そういうことか」
2人が握手を交わした姿を見て、俺はホッとため息をついた。
俺的には洸がサイコパスじゃないとわかって一安心や。友達宣言なら秀太も発狂せずに済むやろ。
「でもさ、今日の新くん、ほんまにめちゃめちゃカッコよかったで? 弦に見せたかったわぁ。あ、動画撮っといたら良かったな」
蜷川家に3人で向かう途中、そう、笑顔でけろりと言い放った弟に、サイコパス疑惑はまだまだ晴れそうになかった。
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