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フウガの報告は、まずダンジョンの件からであった。


三基目となるダンジョンの位置についてだが、だいぶ絞り込めてきたということだ。


場所はもちろん京都なのだが、


『東山三十六峰』のひとつに数えられる稲荷山か、もしくはその近辺に存在しているようだ。


ダンジョンの特徴である【ダンジョン前広場】は、覚醒前のため、まだ地表に現れてはいない。


確認するには現地に赴き、めぼしい場所で ”ダンジョンマップ” を開きながら、順にあたっていくしかないのだ。


そっか……、伏見の稲荷山だったか。


稲荷山といえば、全国稲荷社の総本山、伏見稲荷大社が麓にある霊山のことだな。


周りの人たちからは ”お稲荷山” (おいなりさん) と呼ばれ、親しまれている日本有数のパワースポットでもある。






下にダンジョンが眠っていたからこそ、パワースポットになっていたわけだ。


――なるほどね。


つい、納得してしまいましたわー。


この前行った東京の駒込富士も、たしかパワースポットだと言われているんだよね。


そうすると、この老松神社だって皆に知られてないだけで、密かなパワースポットだったりするのだろうか。


まあ、ダンジョンが覚醒してしまえば、公然のパワースポットとして認識されることは間違いないけど。


話が逸れてしまったな。



――京都伏見稲荷――



前から一度は行ってみたかったんだよね ”お稲荷さん” 。


今回はしっかりと計画を立てて楽しい旅行に…… じゃない! 楽しい現地調査に向かいたいものだ。(楽しむ気は満々です)


シロもお山が大好きだから、絶対喜ぶよな。


そして、自衛隊の方から連絡があったみたいだね。


今回は単に、地震メモを取りに来ていたようで、茂 (しげる) さんが対応していたということだ。


あ と は、


例の監視衛星の件。


バッチリ、ハッキングには成功したそうだ。


ズームを最大にすると、車の種類まで判別できるのだとか。


ということで、実際に画像を見せてもらった。


「…………おおうっ!」


こっ、これは凄いな! 車というか、人の動きまで丸わかりじゃないですかー!


ロケット発射基地などの衛星画像がたまにテレビで出ていたりするけど、これはそんな比ではないようにおもう。


これで旦那の浮気調査もバッチリだね。――コワッ!


そして新たに、いくつかのGPS衛星にジャミング (電波妨害) を掛けたり、位置情報の改ざんなども出来るようになったということだ。


『なんで、そんなことしてるんだ?』と質問したら、


『弾道ミサイルの軌道を逸らすためです』 だって。


う~ん、フウガはいったい何処に向かおうとしているのだろうか……。


その他もろもろの報告を聞き終わった俺は、シロを連れておもてにでる。


そのまま雑木林をとおって、女神さまが祀られている祠の前へと出てきた。


「さ~て、おそうじ、おそうじ! シロはその辺の浄化をたのむなぁ」


………………


それからしばらく、俺たちは周辺の清掃と浄化をおこない、最後に祠に向かって軽く手を合わせた。






「さっ、これでよし! 今日は天気も良いことだし、このまま近くを散歩してみるか?」


「ワン!」


『賛成!』 とでも言うかのようにシロは元気に答え、尻尾をブンブン振っている。


インベントリーからリードを取り出し、それをシロの首輪に付けると俺はゆっくり歩きはじめた。


参道の石階段を下りてきた俺たちは、道路を渡ってそのまま真っすぐに進んでいく。


この道の先にはコンクリートにおおわれた小さな川が流れており、そこに橋が架かっている。


『御陵橋』


欄干には何とも大層な名前が刻んであるが、橋はすでに車道の一部となっており、まったくもって存在感はない。


そんな橋を渡り、今日は川沿いの道を進んでいく。


この道は先のほうで行き止まりになっているためか、車もほとんど通らない。


普段はめったに通らない道なのだが、今日の散歩はシロまかせにしていた。


クンクンと道路の匂いを嗅ぎながら俺をひっぱっていくシロ。


そうやって川を眺めながら歩ないていると、先を行っていたシロが急に立ち止まった。


上を向いたかと思えば ワンワン! 吠えだしたのだ。


いつもおとなしいシロが吠えるのは珍しいな。


「ん、どした?」


俺もつられて上を向く。


そこには、茶色いレンガ調の外壁をもつ立派なマンションが建っていた。


眉をひそめて、さらに注視していると、


「――――!!」


ベランダから身を乗り出そうとしている青年の姿が目に飛び込んできた。


んんっ、何してるんだ。もしや自殺か?


(……仕方ない)


まわりを見渡し、誰もいないことを確認してから、


――スキップ!


俺はシロと共に、そのベランダへ瞬間移動した。






ベランダの壁を必死で跨ごうとしている青年。その傍らには車椅子が置いてあった。


俺は青年の着ているジャージの裾を掴むと、後ろから声をかけた。


「おいおい、お若けーの、ちょーとお待ちなせぇ」


「う、うるせぇやい! 俺は死ぬんだ。放せ~!」


「まーまー、落ち着いて、落ち着いて」


「あ――っ、だから放せってんだよー! …………て、あんた誰よ? 日本語の上手い変な外国人? て言うか何処から入ってきたんだよ。不法侵入じゃん、警察に通報してやる!」


「まーまー」


「あ~、もう。あんたいったい何なんだよ!」


「…………」


「なっ、なんだよ?」


「なんだかんだと聞かれたら、答えてあげるが世の情け。世界の破壊を防ぐため……」


「だ――――っ! だからロケット団はどうでもいーんだよ!」


「なんだよ、つれないな~。最後まで言わせてくれてもいいじゃんか」


「いやいや、聞きたくねーし。俺今から死ぬんだし。だから放してくれ」


「なぜ、そんなに死に急ぐんだ。良かったらこの変な外国人に話してみないか? 悪いようにはしないから、なっ」


「なんだよ、変な外国人って……自分で言ってるし。そこまで言うなら話してやるよ。話し終わったら死ぬからな。フリじゃねーからな」


なんだ。切羽詰まっててもギャグのわかる良い青年ではないか。


フリじゃないなら、死なないという事では? いや、死ぬフリではないってことか? 日本語はややこしい。


(まあ、俺とシロがいる時点で自殺はまず無理だから。諦めなさいな)


しかし、『白い明日が待ってるぜ! にゃーんてにゃ!』 まで言わせてほしかったなぁ。


台詞が長すぎたんだな。残念!






すると彼はベランダに出していた車椅子に腰掛けると、その訳とやらをぽつぽつと話しはじめた。


青年の名前は健太郎。17歳の高校生だった。


小さい頃からやっていた剣道が得意で、二段の腕前をもつそうな。


県大会では個人優勝をした経験もあり、将来も有望視されていたとか。


ところが昨年暮れのこと。


父の実家で正月を迎えようと、両親と共に祖母の待つ実家へ向かっている途中で事故にあう。


その日は年末の大晦日でバタバタしており、出発は夜の日付けが変わる頃になっていた。


夜中であったため道路は空いており、車内で正月を迎えてしまった一家はゆっくり実家へ向かっていたという。


そして、見通しの良い大きなカーブに差し掛かった時、


前方から対向車線を越えて、大型ダンプカーがこちらの真正面に。


………………


居眠り運転だった。


この事故により運転席と助手席に座っていた両親は死亡。後部座席に座っていた彼は運よく命は助かったものの、頚椎をやられ下半身麻痺に。


気がついた時には病院のベッドの上だったという。


その後は両親の葬儀に出ることもかなわず、不自由な入院生活を送っていたそうだ。


ダンプカーの運転手は後に逮捕され、未だ公判中なんだとか。


保険金や賠償金などは祖母が手をまわしてくれており、弁護士を挟んで交渉してくれているそうだ。






それで半年もの長い入院生活を終え、最近ようやく両親と暮らしていたマンションに帰ることができたらしい。


しかし、一気に両親を亡くしたことで、癒えることのない喪失感を抱えてしまった健太郎。


抑うつ状態に陥った彼は、学校にも行かず引きこもってしまい、失意に沈む毎日を送っていたという。


ということで、今日の自殺未遂に繋がるわけだけど。


そのように話し終わっても健太郎の顔はどんよりと沈んだままである。


放っておいたら、またやらかすかもしれない。


そうなってしまったら、目覚めが悪いんだよなぁ。


う~ん、どうすっかな~。


(……仕方がない)


こいつの身柄を確保して、神社に連行しますかね。


「おい、聞いてるか? 俺の名前はゲン、そして隣にいるのが従魔のシロだ。今から奇跡を見せてやるから。少しは元気出せや」


そういって車椅子もろとも、神社の居間へ転移した。


靴はベランダから部屋にあがらせてもらった際インベントリーに収納しているし、その時にシロちゃんも浄化を掛けていたので、室内に転移してきてもまったく問題はない。


居間にいた茂さんは、突然現れた俺たちにビックリしていた。


すると、車椅子に座ったままの健太郎が、


「あ、あれ、ここどこ? おじさん? 紗月 (さつき) ん家のおじさんだよね」


あれれれれ――っ、知り合いだったの?

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