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夏休み初日。
スタンリーは机に突っ伏していた。
「……」
机の上には、分厚いワークブック、プリントの束、数千文字までかくレポート。まるで罰ゲームだ。
「こんなん、誰が好き好んでやるんよ……」
ぼやいたところで、ふと頭に浮かぶ顔がひとつ。
好んでやりそうではないが、いつも実験のことばかり考えているゼノ。
その日の午後、スタンリーはゼノの家の裏口を開けた。
「ゼノー。」
地下の実験室から、すぐに声が返ってくる。
「ここにいるよ、スタン。」
階段を降りると、薬品と機械に囲まれた中でゼノが何かを書き込んでいた。
スタンリーは無言で、どさっと宿題の山を机に置く。
「頼みがあんだけどさ…」
「珍しいね。君から頼み事なんて」
「これ、全部やってくんね…?」
一瞬の沈黙。
それからゼノはゆっくりと顔を上げた。
「……僕を何だと思っているんだい?」
「代わりに、夏休み中は全部手伝う。準備でも片付けでも、なんでも」
その言葉に、ゼノの目がわずかに細まった。
「……なんでも、」
考えるまでもなかった。
「いいだろう。契約成立だ、スタン」
ーーーそして。
翌日。
「終わったよ」
「は?」
ドサッという音とともに山積みの宿題が置かれる。
スタンリーは目の前に積まれた宿題を見て、思わず間抜けな声を出す。
「これ、全部半日で終わらせたん?」
「もちろんさ、むしろ簡単すぎて退屈だったくらいだよ」
ゼノはさらりと言いながら、別のノートに何やら数式を書き始めている。
「サンキュ。じゃ、約束な」
「ああ。よろしく頼むよ、スタン」
ーーーーそして夏休みが終わる。
教室。
スタンリーは何の疑いもなく宿題を提出した。
そして放課後になり、スタンリーが帰ろうとすると呼び止められる。
「スタンリー、ちょっとこっちに……」
(なんだ?)
軽い気持ちで職員室に向かう。
しかし——
ドアを開けた瞬間、空気が妙に重いことに気づいた。
教師が数人、スタンリーの提出物を囲んでいる。
「……これ、本当に君がやったのか?」
「? まあ」
バレないように平然とした顔で嘘をつく。
教師の一人がノートを開く。
「この式は何だ…?」
そこには、びっしりと書かれた、見たこともない数式。
別のページには、化学式。
さらに別のページには、実験の手順らしきメモ。
「君はまだこんなこと習っていないはずだが?」
「……まぁな」
スタンリーは腕を組んで答える。
「それに、この文……」
教師はページの端を指さした。
「“反応速度を上げるには——”……これは何だ?」
完全にゼノの字だった。
いや、こんなものを書くのはゼノしかいない。
沈黙。
スタンリーは一瞬だけ考える。
そして口元がわずかに上がる。
「友達の実験結果をまとめてたんよ」
教師たちは明らかに困惑していた。
疑うべきか、褒めるべきか。
スタンリーも頭はいいため、書くかもしれないという可能性が捨てきれないからだ。
その後、スタンリーはゼノの家に行く。
「おかえり、スタン。学校はどうだった?」
「呼び出された」
「?なぜ」
ゼノはまったく身に覚えがないように言う。
スタンリーはため息をつき、呆れたように言った。
「余計なこと書きすぎだろ…」
ゼノは少し考えてから思い出したように言う。
「……あぁ。そういえば何かメモかわりにしていた気がするね。消し忘れていたかな?すまなかったね。」
少しの沈黙。
それからスタンリーはふっと笑う。
「……まあ、いいけどな」
ゼノもわずかに笑みを浮かべた。
「それはよかった」
そしてゼノは、次の実験ノートを差し出す。
「さて、契約はまだ終わっていない。今日はこれを手伝ってもらおう」
「夏休みもう終わってんよ……」
文句を言いながらも、スタンリーは隣に立つ。
その手つきは、もう最初よりずっと慣れていた。
夏休みの宿題よりもずっと面倒で、
でも、ずっと楽しい実験。