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「お前だけだ」衝動的にこぼれたあの言葉。あいつは「相棒として」と受け取ったのか、それとも別の意味を感じ取ったのか。
答えを出すのが怖くて、でも確かめたくて、学校の廊下ですれ違い、他の奴らと笑い合う日向を見るたび、胸の奥がじりじりと焼けるように熱くなる。あいつの「初めて」や「特別」を、バレー以外でも全部俺が埋め尽くしてやりたい。そんな独占欲が、冬の寒さの中でじっくりと根を張っていた。
そして今日。始業式が終わったばかりの、どこか浮ついた放課後。
俺と日向は自主練を終えて、校門をくぐる。
満開の桜は日に照らされて、鮮やかに揺れている。
あの冬の夜と同じ、道端に桜の木の立つ道で、足を止めた。
「……おい、日向」
低く出した自分の声が、自分でも驚くほど震えていた。
日向がびくりと肩を揺らし、自転車を止めて振り返る。
「……冬に言ったこと、忘れてねえよな」
歩幅を塞ぐように、日向前に立ちはだかった。
春を運ぶ風が、二人の間を通り抜けていく。マフラーがなくても、首元が、心臓が、焼け付くように熱い。
「お前は『相棒』だけど、……それだけじゃ足りねぇ」
真っ直ぐに日向の目を見つめる。
もう、誤魔化させない。
自分の中にある、たった一つの答えを、濁りのない言葉で___
「日向。俺は、お前が好きだ」
叩きつけるように放った言葉が、青い空の下で響く。
日向は目を見開いたままだ。夕日に照らされたその瞳が、小刻みに揺れている。
そして、今にも泣き出しそうな、けれどそれ以上に眩しい笑顔で、俺のジャージの裾ぐいと引き寄せた。
「……おれも!おれも、影山が好きだ!」
叫ぶようなその声に、ずっと張り詰めていた俺の何かが一気に崩れ落ちる。
けれど、日向は俺のジャージを掴んだ手を離さない。俺を覗き込むその瞳には、熱を帯びた光が宿っていた。
「影山。……影山の『好き』は、相棒としての『好き』か?」
傾げた首はわざとらしく見える。
日向のその問いに、言葉で説明できる自信はなかった。
冬の間中、あいつの笑顔一つに、一言に、どれほどかき乱されてきたか。相棒なんて枠には、もうとっくに収まりきらなくなっている。
「……こういう、好きだ」
俺は日向の言葉を遮るよう、その唇に、迷いなく自分のそれを重ねた。
あの日と同じ二人、同じ場所で、変わったただ一つのことは、
春が来たことだ。