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【第一話 その再会は奇跡だった】
2025年5月3日 10:00
日帝視点
アメリカ「明日、 ナチスとイタ王に会ってくれないか?」
目の前の男は、突然そんなことを言った。
「は…」
驚きで瞳孔が大きく開き、声が漏れる。
やることもなく、毎日を孤独に過ごしていた。
今日もそうだった。なんの変哲もない、ただの日常だった。
アメリカから連絡が来るまでは。
《今日の10時、xx公園に来てください。》
それはアメリカらしくない、少し真面目さを浴びた文面だった。
待ち合わせ場所に到着し何分かすると、珍しくアメリカが時間通りに来た。
そこから冒頭に戻る。
ソイツは、俺と二人を再会させてくれると言ったのだ。
80年ぶりに、枢軸を再会させると。
会って一分もしないうちに、そう言った。
そう、アメリカは前置きも何もせずに本題をいきなり言ったのだ。
意味不明だろう?
ただでさえ理解のしがたい内容なのに、なんの前触れもなく言ったのだ。アメリカは。
ソイツの言葉を、理解できなかった。
当然だ。
アメリカは枢軸の再会を恐れ80年間ずっと、俺を死んだことにしていたのだから。
俺は終戦後ずっと、連合に監視されながら、孤独に、死人として生きていた。
日帝「いい…のか…?」
半信半疑で、頭に浮かんだ言葉をそのまま声に出した。
理解も納得も何もできていない。でも、二人に会えるのなら願ったり叶ったりだ。
二人に会えるのなら、もう死んで良いとも思えた。
アメリカ「嗚呼、会って欲しいんだ」
アメリカは理由も何も言わず、そう答えた。
どうせ、これ以上は何も答えてくれないのだろうと悟る。
日帝「わかった」
喜びで震えていたその言葉は、理解より先に嘘のような現実を受け止めた。
俺はそれが事実かどうかよりも、幸せな夢の中にいることを選んだ。
裏で大変な理由があろうとも。再会後に殺されようとも。
理由なんてどうでもいい。二人にまた会えるという喜びだけが頭を支配していた。
また二人に会えると思うと、とても嬉しかった。
日帝「…でも、今日にしてくれないか?」
条件を提示した。
もし明日まで待ってたら、気まぐれでこの話をなかったことにされると思ったから。
アメリカ「…わかった。じゃあ4時に枢軸基地前にいてくれ…」
予想通りとでも言いたげで、でも少し躊躇するような表情だった。
80年ぶりの枢軸の再会場所が、思い出の詰まった懐かしの枢軸基地ということがなんとなく嬉しく思えた。
日帝「わかった。ありがとう」
自分でもわかるほどに、声に、顔に、仕草に、希望と喜びが溢れていた。
アメリカ「…できるだけ自然体で接してくれ…」
アメリカの、その声色には、少し謝罪の意が込められていた気がした。
だがそんな忠告は、自分の記憶に残らなかった。
2025年5月3日 14:00(四時間経過)
再会許可宣言から四時間後
日帝視点
もう一生会えないと思っていた二人に会えるという最高な知らせで、予定よりずっと早く基地に着いた。
なんの話をしよう。二人はどれくらい変わっているんだろう。
そんな思考を何十回も繰り返してるうちに、あっという間に予定時刻四十分前になった。
また二人に「日帝」と呼んでもらえるという喜びは、俺から「なぜ二人に会う許可がもらえたのか」という疑問すら消し去っていた。
ソ連「早いな」
日帝「うわっ」
急に背後から声をかけられた。
日帝「って…あぁ、ソ連か」
ソ連「ん、お前でも驚くんだな」
日帝「お前は俺をなんだと思ってるんだよ…」
余りな無礼ぶりに、少し呆れて質問を投げかけた。
ソ連「…無知」
ソ連は目を伏せながら少し寂しそうに、申し訳なさげに言った。
日帝「中々酷いな…」
何か聞いてはいけないことだったのだろうか。
深くは掘り下げずに、軽く流した。
そうして何分か世間話をして時間を潰していると、 遠くにアメリカの姿が見えた。
アメリカ「Hello!!お前ら早いな」
ソ連「お前が遅いだけだ」
アメリカ「はぁ!?親父とかまだ来てねぇだろ」
ソ連「お前が遅すぎて全員中いるぞ」
初耳だ。そういうことなら早く言ってくれ。
ずっと立ち続けるのは案外疲れるものだ。
日帝「全員って他に誰がいるんだ?」
アメリカ「親父とフラカスとクソコミーチャイナ」
ソ連「主要連合国だな」
アメリカ「俺らは非常事態用に近くの部屋にいるだけだから安心してくれ」
アメリカ「お前らの再会を邪魔することはない」
日帝「そうか、ありがとな」
ソ連「全員揃ってるならもう先に会わせても問題ないんじゃないか?」
アメリカ「あー、そうだな!少し早いけど会わせるか!」
アメリカ「付いて来てくれ」
二人は足音を響かせ、懐かしの枢軸基地に入って行った。
2025年5月3日 15:15(1時間15分後)
再会直前から十五分後
日帝視点
アメリカ「…ここだ」
目を伏せてアメリカは言った。
日帝「わかった。ありがとな」
ソ連「じゃあ俺たちは近くの部屋いるから何かあったら呼んでくれ」
日帝「どうやって呼ぶんだよ…」
ソ連「叫べ」
日帝「適当だな」
アメリカ「んじゃ、俺らはそろそろ部屋行くから!何かあったら教えてくれ!」
アメリカ「…じゃあな」
少し寂しそうに、申し訳なさそうに、アメリカが小さく呟いた。
日帝「嗚呼、本当にありがとな」
ソ連「…」
俺の言葉に返事の声は聞こえず、二人の去って行く足音だけが廊下に響いた。
日帝「…」
ドアノブに手をかけ、深呼吸をする。
緊張と喜びで、手が震えた。
そうして、静かに扉を開けた。
ガチャリ
静かに音を立てながら開けた扉の先には、何も変わっていない、旧同盟国の姿があった。
ナチス「来たか、久しぶりだな」
イタ王「おおー!久しぶりなんねー!」
日帝「嗚呼、二人とも、久しぶり」
80年ぶりの二人の声に、思わず頰が緩んだ。
ナチス「取り敢えず座ってくれ、積もる話もあるだろう」
日帝「わかった」
ナチスは二人の座る椅子と机を挟んで向かい合っている一つの椅子を指差して言った。
椅子に座ると、昔に戻ったような気がした。
懐かしい、優しい思い出の頃に。
何を話そうと迷った時、ふと目の前に花が見えた。
テーブルの上に置かれ、二つの花が生けられた花瓶に目が留まった。
薄く香るスイートピーの生花と、少しのほこりを被ったホオズキの造花。
日帝「これ、二人が飾ってくれたのか?」
イタ王「…その花なんね?なんかアメリカ達が飾ったらしいんよ」
日帝「アイツらがか?なんか意外だな…」
アイツらにそんな気遣いができるとは思わず、うっかり本音が出てしまった。
少し無礼だと反省しつつ、ここにアイツらがいないことに安心した。
ナチス「お前はアメリカ達と仲良いのか?最近」
日帝「嗚呼、結構仲は良いぞ」
イタ王「ふーん…なんか意外なんねー!」
日帝「まあ、連合以外の話し相手いなかったしな…」
80年間も連合国しか話し相手がいないとなると、元敵同士でも仲は良くなるものだ。
日帝「ナチスとイタ王はまだ仲悪いのか?アメリカ達と」
イタ王「…うん。まだそこまで仲良くないんねー」
ナチス「…まあ昔ほど悪くはないぞ」
日帝「そうなのか…」
あんなに会いたかったのに、いざ会うと話題に困ってしまう。
沈黙に耐えかね、話題を探すように目の前にあった花の話でも持ちかけた。
そこには、俺が好きなスイートピーが飾られていた。
スイートピーの太陽のような優しい香りが、あの頃の思い出を呼び覚まされるようだった。
あの頃の、楽しかった思い出を。
日帝「スイートピーの匂いって優しくていいよな」
大切な思い出を彷彿とさせるスイートピーが、一番好きだった。
ナチス「…スイートピーが好きなのか?」
日帝「嗚呼、綺麗で優しくて花の中で一番好きだ」
イタ王の顔が僅かに凍り、ナチスが目を細めた。
気づかないほどに、ほんの少しだけ。
イタ王「…そうだったんね?てっきりホオズキが一番好きだと思ってたんね」
日帝「ホオズキ?まあ普通だな…」
イタ王「……へー。」
ナチス「………」
ナチスとイタ王が、ほんの一秒、目を合わせた。
日帝「…ッ」
その時、一瞬見えた二人の目。
それは、懐かしさでも喜びでもなく─
ただ、無表情の奥に潜む”何か”だった。
失敗した気がした。何がいけなかったのかはわからない。
でも、間違えたことはわかった。
なにか、取り返しのつかないことを。
日帝「すまん。何か変なこと言ったか?」
二人は、どこかぎこちない笑顔を貼り付けて「大丈夫」と言った。