テラーノベル
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カチリ…という小さな音に意識が向いた。
続けて聞こえるガチャ、という音に完全に意識が現実に戻る。
カツン、とひとつ足音がして、再びガチャと控えめな音とカチリという音が続く。
俺は長時間向き合っていた画面を閉じるべく、マウスを操作し、カチカチ、と素早くパソコンをシャットダウンした。
先程の音の主はどうやら洗面所にいるらしく、小さく水音が聞こえている。
立ち上がる前にぐーっと背伸びして、ふーっと息を吐き出して。
小さく「よいしょ」なんて思わず出てきた言葉に口角が上がってしまった。
…おっさんかよ
立ち上がってもう一度腰を伸ばすために背伸び…をしていたら、リビングから廊下へ続く扉がガチャ、と開いた。
「ただいまー」
いつもより小さめの声。
表情はいつも通り。
俺が寝てるかもしれない、と気を使ってくれたんだろう。
「おかえり」
先程のおっさん事件(?)で上がった口角のままに返したから、少しだけ嬉しそうになってしまった気がするけどいいか。
「仁人、起きてたんだ」
「ん、作業が少し残ってたからね」
「そか、ラッキーだわ」
「何がラッキー?」
「起きてる仁人に会えてラッキー」
「そりゃ…よかったな?」
「おう!仁人もラッキーだな」
「何で?」
「寝る前に俺に会えたからに決まってるっしょ!」
…どこからその自信が、と言いかけたけど、仕事頑張って帰宅して『ラッキーだ』とご機嫌な彼にわざわざ水を差すこともないか、と言葉を飲み込んだ。
「そうね、俺もラッキーだわ」
少しだけ素直な言葉を返してやる。
…ちょっとだけ、彼が好きそうな微笑みも足して。
すると彼は置こうとしていた荷物をドサリ、と手から落とした。
おー、動揺してる動揺してる
「え?仁人、今なんて…?」
「ん?」
「ラッキー、て言った…?」
「ん、俺もラッキーだって」
「…..明日槍でも降る?」
「なんでだよ」
「や、だって、仁人が…」
荷物がなくなり空になった両手をわきわき、と動かしながら俺へとにじり寄ってくる。
いやー、ちょっとその姿はいかんだろ
ふっつーにキモいですよ、佐野さん
あなたアイドルですよね?
「勇斗、それキモい」
「いや、そんな事はいい」
「よくねーだろ、アイドルだろーが」
「仁人の前だからいい」
「ちょっと何言ってるか分からないですねー」
なんて言い合っているうちに、まだ両手をわきわきさせている勇斗が俺の前に到着。
ヤメテー、そのキモい動き今すぐヤメテー
なんて思っていたら、その両手で頬をガシッと掴まれた。
「何よー 」
ちょっと不服だったので、勇斗が苦手だと言った小鳥口をしながら遺憾の意を表明。
「はっ…かわい」
「…は?」
「仁人、好き」
「待って、今どこにその要素があった?」
ちょっとだけ眉間に皺を寄せて、目の前の勇斗をガンを飛ばす勢いで見る。
俺の頬を両手で掴んだままの勇斗は、それはそれは綺麗な笑顔をしていて。
端正な顔立ちも相まって、そんな愛おしそうな表情を至近距離で見せられたら、こちらの心臓がキュッとなるしかなかった。
それに連動するように、触れられている頬に急激に熱が集まっていくのを感じる。
「っふ、照れちゃって…かわい」
そろ、と親指で頬を撫でられる。
目を細めて、愛おしさをこれでもか!と表した顔をして。
コイツ…ずりぃ…
カッコよすぎんだろ…
クラクラ、する。
速くなる鼓動に。
頬に集まる熱に。
目の前の勇斗に。
「仁人」
「な、に…」
「好き」
「…うん」
「好きだよ」
言い終わって、そっと近付く。
勇斗の両手に少しだけ力が込められたのが伝わって。
言葉で伝えられなかった俺の想いは、勇斗の両手に重ねた俺の手から伝わってると信じて。
そっと重ねられた唇に、先程のクラクラとした感覚と共に、ほわっとした感覚が加わった。
けれど、その感覚を堪能する間もなくすぐに離された唇に、少しだけ物足りなさを感じてしまって。
「…仁人、その顔だめ」
「え?」
コツン、とおでこ同士が当たる。
目を閉じてふっ、と短く息を吐く勇斗。
「…足りないって顔、しないで」
また頬を指でゆるゆると撫でられる。
「我慢、してるから」
…なるほど
目を閉じたままの勇斗に、知らず口角が上がる。
もう一度、今度はふーっ、と息を吐いた勇斗の唇に、今度は俺から近付く。
わざとチュッ、とリップ音をたてて。
目を開けたら、絵に書いたように目をまん丸にした勇斗。
あら、とてもいいお顔ですこと
「じ、仁人、おまっ…」
「ダメ…だった?」
「ぅぐ…」
いや、何その声
ムードって知ってる?
もごもごと、ずっと何か言いたそうにしている勇斗は見ていてそれは愉快ではあるけど。
くっついてたおでこを離して。
頬にあった勇斗の両手を外して。
代わりに俺の両腕を、少し上にある勇斗の首に絡めて。
可愛いって言われる上目遣いもサービス。
「俺は…我慢したくないけど?」
追加オプションでこてん、と首を傾げて目を見つめて言ってやった。
先に火をつけたのは佐野さんですからねー
アナタがちゃんと責任取りなさい?
コメント
1件
読了しました…!仁人と勇斗、同棲してるんだね。お互いにちょっと照れくさいけど、ちゃんと通じ合ってる感じがすごくいいな。勇斗が「キモい」動きしながら近づいてくるところとか、アイドルなのにって思わず笑っちゃった。仁人も最後に「我慢したくない」って返すの、やっぱり好きなんだなって伝わってきた。noa.さんの描く日常のやりとり、すごく丁寧でほっこりしたよ。続き楽しみにしてます🌙
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